フランス人スケーターが挑んだ禁断の”バックフリップ”に母国メディアは拍手喝采! 一方で、本田武史は減点に言及「シーズンベスト超えてたかも」【フィギュア世界選手権】

世界最高峰の舞台で披露した「禁止技」が物議を醸している。

現地3月23日、フィギュアスケートの世界選手権がカナダ・モントリオールで開催され、男子フリーはイリア・マリニン(アメリカ)が初優勝。大技クワッドアクセルを含む、4回転ジャンプ5種類6本を成功させる超異次元構成をパーフェクトに滑り切った。今季の世界最高得点を更新する合計333.76点のハイスコアで、2連覇中だった宇野昌磨から世界王座を奪取。鍵山優真が銀メダル、宇野はまさかの4位に終わった。

金メダルに輝いたマリニン、鍵山や宇野がひしめく最終グループが滑走する約2時間前、フランスの超新星アダム・シャオ・イム・ファが衝撃の演技を見せた。

21日のショートはジャンプが乱れ、まさかの19位に沈んでいたアダム。巻き返しを期したフリーで、彼はなんと4回転ジャンプ3種類4本をすべて着氷する会心の演技を披露する。自己ベストに迫る206.90点でショートとの合計を284.39点にした新鋭は、鍵山(309.65点)に抜かれるまで暫定トップをキープ。結果的に3位に食い込み、2010年のブライアン・ジュベール以来、フランス人として14年ぶりに表彰台にのぼった。
フリーでの大逆転メダルで母国に歓喜をもたらしたアダム。結果以外にも、彼が披露したアクロバティックな技が母国メディアを中心に大きな反響を呼んでいる。

演技終盤、すべてのジャンプをノーミスで降りたアダムは現在のルールでは禁止されている「バックフリップ」に果敢にチャレンジした。勢いよく助走をつけ、両手の反動を使って後ろ向きに宙返り。着氷の衝撃は大きかったが、両足で踏ん張って見事に成功する。この技に観衆は大いに盛り上がったが、ジャッジシートには至極当然「マイナス2点」の裁定がくだった。

テレビ中継で解説を務めた世界選手権銅メダリストの本田武史氏は、フランス人スケーターが披露したバックフリップについて「禁止されている技なので、2点減点になります」と冷静にコメント。のちに「バックフリップがなければ、今季のシーズンベスト(207.17点)を超えていたかもしれません」と減点の場面に言及するが、それ以上の発言は避けた。

実は国際舞台で、彼が「バックフリップ」を実行したのはこれが初めてではない。今年1月に欧州ナンバー1・スケーターを決めるヨーロッパ選手権でアダムは2連覇を達成しているが、フリーで「禁止技」のバックフリップを華麗に着氷したものの、そこでも減点を受けている。

アダムはその試合後、実演したことを地元メディアに問われると「(バックフリップをすると)減点されることは分かっていたよ。だけど新しいことにチャレンジして、このスポーツを進化させたかったんだ」と答え、その意図を説明。フィギュアスケートという競技の新たな可能性を追求し、減点覚悟で挑戦したと胸を張った。

そして世界一を決める大舞台でもその気持ちは変わらず、バックフリップに挑んだ。 無論、母国メディアはアダムの快挙を手放しで喜んでいる。

フランスの公共ラジオ局『Radio France』の地方版『France Bleu』は「アダム・シャオ・イム・ファが禁断のトリックで銅メダルを獲得した!」と速報を配信。「彼は禁止されている華麗なバックフリップを披露するなど、エネルギーに満ち溢れた印象的なパフォーマンスで観客を喜ばせた。ヨーロッパ王者はショートプログラムで完全に出遅れていたので、23歳のスケーターはこの日の大きなサプライズとなった」と伝え、フリーでの驚異的な巻き返しに拍手喝采だった。

フランスの大手通信社『AFP』は1992年アルベールビル五輪から3大会連続出場し、世界選手権で3つの銀メダルを獲得した母国のレジェンド、スルヤ・ボナリーのエピソードを紹介。1998年長野五輪の女子フリーで禁止技の後方宙返りを敢行したシーンを引き合いに出しながら、「ボナリーもジャッジが認めていなかったにもかかわらず、躊躇なくこのトリックを披露した」と運命的に紹介。大舞台にもかかわらず、減点覚悟で繰り出したチャレンジ精神を称えている。

さらに欧州のスポーツ専門局『Eurosport』のフランス版は、公式X(旧ツイッター)にアダムが観客の度肝を抜いた大技の瞬間を動画で共有。「アダムがバックフリップを敢行し、素晴らしいフリースケーティングを実行した」と綴り、初の表彰台を祝福。同局のウインタースポーツ番組『Chalet Club』のナタリー・ペシャラ記者も「アダムのメダルは格別だ!」と絶賛していた。
演技後、アダムは「この世界選手権は私にとって、本当に山あり谷ありの大会だった。たくさんの感情がありました」と話し、ショートプログラムの悪夢に思わず本音を漏らす。「リベンジができて嬉しい。(メダルは)本当に望んでいた結果だ」と、どん底の状態から見事に挽回できた最高のパフォーマンスを喜んでいた。

構成●THE DIGEST編集部

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