【昭和の春うた】EPO「う、ふ、ふ、ふ、」ほとんど “ラの音” で出来てる資生堂CMソング  1983年にリリースされたEPOの春うた「う、ふ、ふ、ふ、」

リレー連載【昭和・平成の春うた】vol.6 う、ふ、ふ、ふ、/ EPO 作詞:EPO 作曲:EPO 編曲:清水信之 発売:1983年2月5日

資生堂 vs カネボウ、春の化粧品CMはリップが中心?

はじめて買った “ちゃんとした口紅” は、カネボウ化粧品の “レディ80ミニ口紅” だった。高校に上がる1981年春、矢野顕子さんの「春先小紅」がCMソング。深紅のパッケージ、普通の口紅の半分程度のサイズ、ちっちゃくて片手にすっぽり収まるサイズ感、中高生のお小遣いで買える金額。色は結構深いワインレッド系。なぜそんな色を買ったかまでは覚えてない。15歳なりに大人になりたかったのかもしれない。「♪はじめてのルージュの色は 紅過ぎてはいけない」と「狼なんか怖くない」を歌う石野真子さんに叱られそうだ。

化粧品のCMといえば、秋の化粧品CMは目元まわりのアイシャドウが目立つのに対し、春の化粧品CMはリップが中心だったように思う。たとえば、こんなキャッチコピーが記憶に残っている。

カネボウでは、
▶︎ 1980年春 “唇よ、熱く君を語れ。”
▶︎ 1988年春 “吐息でネット。”

一方の資生堂では、
▶︎ 1984年春 “くちびるヌード”
▶︎ 1985年春 “ベジタブルスティック”

1983年春の資生堂CMソング、EPO「う、ふ、ふ、ふ、」

さて、1983年春、資生堂のCMソングに使われたのは、1980年にデビューし、今年2024年には44周年を迎えたEPOさんの「う、ふ、ふ、ふ、」。作詞・作曲は当時デビュー4年目を迎えたEPOさんで、編曲は清水信之さん。“う、ふ、ふ、ふ、フォギー” というキャッチコピーで、モデルはアンジェラ・ハリーさん。フォギーというのは霧がかかったような色合いということだろうか。

当時はベージュ系の口紅が流行り出した頃。緑地公園にあった予備校の帰り、御堂筋線で心斎橋に出て画材屋で絵の具を買いソニータワーに立ち寄ると、それまでサーファー崩れが多かった界隈に顎あたりまでのワンレンでモノトーンのDCブランドもんをまとったお姉ちゃんたちがポツポツ沸きはじめた… そんな頃だったように記憶している。「そろそろああいう服を買ったほうがええんやなあ…」とか思っていた。

イントロからアウトロまでほとんど【ラ】で出来ている!

と、1983年春先の関西女子お召し物事情はおいといて。「う、ふ、ふ、ふ、」。CMで流れたのはサビのこの部分。

 う・ふ・ふ・ふ ちやほやされて  う・ふ・ふ・ふ きれいになると  う・ふ・ふ・ふ う・ふ・ふ・ふ  悪魔したくなる

カラオケを原曲キーでコーラス部分まで含めて歌うとよくわかるのだが、このサビの8小節、ドレミファソラシドの【ラ】の音がやたら目立つ。それもそのはず、8小節に含まれるメロディのうち52.7%(55音のうち29音、8分音符を1音とカウント)が【ラ】の音なのだ。これはエクセル方眼でメロディとイントロ、間奏を検証して今回初めて分かったこと。

結論から言うと、この「う、ふ、ふ、ふ、」はイントロからアウトロまでほとんど【ラ(=A)】と半音下がった【ラ♭(=A♭)】で出来ている。ここからは、可能なら音源を聴きながら読んでもらうとわかりやすいかもしれない。

ワンノートが鳴り続けるイントロ、8小節で88.3%

キーボードで【A♭】ワンノートが鳴り続けるイントロ。コードはほぼ1小節ごとに変わり、イントロの8小節で【A♭】が占める割合は88.3%。ほぼ【A♭】で出来ている。

【D♭】→【D♭m / B】→【Emaj7】→【E♭m7】→【G♭ / A♭】→【D♭】→【D♭m / B】→【Emaj7】→【A♭】

歌が始まるとメロディが動くので、さすがにその割合は下がるが、それでもサビよりも前の部分で、【A♭】がメロディの38.5%を占める。そしてサビで半音上がって【A】に転調する。歌部分、ワンコーラスでの【A】と【A♭】の合計は116音、メロディ239音のうち実に48.5%が【A】か【A♭】なのだ。

1コーラス目が終わった後もイントロと同じフレーズが間奏として8小節、2コーラス目からサビ前のブレイクを経てサビ、コーラスとギターが絡むアウトロ… 書いているとキリがないのでこのへんでやめておくが、とにかくやたらと【A】と【A♭】が目立つ。なにせ白鍵7音+黒鍵5音の計12音のうち2音で半分を占めてるのだから、目立って当たり前だ。

同じ音が目立つ曲はいろいろ。松田聖子、ジャクソン5、ショパン…

偶然なのか狙ったのかはわからないけれど、翌年1984年春のカネボウ化粧品CMソング「Rock’n Rouge」のイントロもワンノートで下のコードが変化するものだった。こちらは【ド(=C)】で、途中からコーラスや駆けあがるようなキーボードが入り、パーン!とはじける効果音から松田聖子さんの歌につながる。編曲は松任谷正隆さん。

実は、同じ音が目立つ曲というのはそれほど珍しいものではない。「う、ふ、ふ、ふ、」同様に【A♭】の音が続いてその下でコードが変わっていく曲の有名どころといえば、ジャクソン5の「帰ってほしいの」(I Want You Back)。イントロから歌のバッキングまで【A♭】のギター音がチャッ、チャチャッと軽快に続く。こちらは「う、ふ、ふ、ふ、」よりもリズムに動きがあり、自然と身体が動いてしまう。歌でも「♪ I Want You Back」のメロディが【A♭】でたたみかけるのが耳に残る。

また、クラシックで【A♭】が鳴り続ける曲としては、ショパンのピアノ曲「雨だれの前奏曲」が有名どころ。全編にわたって八分音符が雨が降るように鳴り続けるが、ことに中間で【C#m】に転調した部分で連打される【A♭】音は、止まない雨や葬送の行列とも喩えられる。

同じ【A♭】、周波数でいうと415.3Hz(Aが440Hzの場合)の音でも、こんなに曲によって違う。私がこの3曲を色に喩えるなら、EPOさんの「う、ふ、ふ、ふ、」は明るい黄色味のあるオレンジ色。ジャクソン5だと、もう少し赤味が強いオレンジ。ショパンの「雨だれの前奏曲」であれば、濁ったブルーグレイの色合いだと個人的に思っているが、実際に聴いてみて、みなさまはどんな色を感じましたか?

※2020年3月8日に掲載された記事をアップデート

カタリベ: 彩

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