「2030年・BEV100%ブランド」を目指すボルボのブランニューモデル、「EX30」に乗る:後編

3月初旬に東京で実施された試乗会で、ボルボの新型電気自動車「EX30」を初めて日本の公道で試乗した。どんなクルマに仕上がっていたのだろうか。

20インチを履きこなした足さばき

いよいよ公道に繰り出す。ステアリングの操作感は停止時の切り始めからごく軽く、たとえるなら布ではなく紙を触っているよう。パワーアシストは3段階で変更できるが、最も重い設定を選んでもさほど標準設定との違いを感じず、すっきりとした操舵感だ。車検証が示すデータによれば、前軸の重量負担は約47%と、フロントが比較的軽いことがよい影響をもたらしているのだろう。

コーナリングにおいても、そうした重量配分や、後輪駆動であることを反映して、操舵に対する反応は正確で軽快。加減速トルクがステアリングに伝わってこない心地よさも楽しむことができる。

原動機にエモーションを感じにくいEVの時代にあって、ステアリングフィールや加減速に対する反応は、クルマを選ぶうえでさらに重要性を増している、と、ひとりの自動車好きとしては思う。そうした中で、EX30はコンパクトカーに対する期待、そして率直にいえばボルボの乗用車に対する期待を上回る操縦性を獲得している。

期待以上の加速性能

加速感にも好ましさを覚えた。EX30はアクセルペダルの開度に対してリニアな出力を示す。他社のEVの中には、アクセル開度30%くらいまでの反応が薄く、ストレスを感じるモデルもあるが、EX30はとても素直なレスポンスだった。

スポーツやエコに切り替えられるドライブモードは備わらないものの、きちんとリニアな反応をするクルマだから、その必要を感じない。鋭い加速が求められる時はアクセルを大きく踏み込めばいいし、ゆったり流したい時は軽く踏めば良い。0-100km/h加速はスポーツカーも顔負けの5.3秒だ。

EX30は設定によりワンペダルドライブを選ぶことが可能だ。減速時には停止までしてくれるが、停まるその瞬間に”かっくんブレーキ”感が目立つのが残念だ。坂道での停止時は制御が難しいのか、さらに大きく頭が揺すられてしまう。この点で完璧なのはテスラ モデル3だった。EX30にもレベルアップを望みたい。

コンパクトなボディに対して20インチ・ホイールはとても大きく見える 。幅は広く、サイドウォールも薄いものの、首都高速の段差で足まわりだけがドタバタするような感覚はなかった。路面が荒れたシーンでも気にならないほどロードノイズは低く抑えられており、車内の静粛性は全般に高かった。

タイヤはGOODYEARのEFFICIENT GRIP PERFORMANCE SUV、サイズ表記は前後ともに245/40R20 99V VOLだった。「VOL」はボルボ承認タイヤの証。おそらくEX30のために専用開発されたのだろう。

エンジンを搭載していないBEVはもともと静粛性に優れるが、意外に“キーン” とモーター音が目立って聞こえるモデルもある。しかしEX30との2時間のドライブでは一切その種の音が気になることはなかった 。前軸にモーターを搭載するAWDも同様かどうか、試してみたいところだ。

ACC(アダプティブ・クルーズ・コントロール)はステアリングコラムの右側のシフトレバーを下に下げることでACC走行をスタートできる。速度調節はステアリング左スポークの+とーのボタンを、1クリックで5km/hごとに、押したままにすると1km/hずつ変わっていく。

+ボタンの右側は車線維持機能(ボルボの呼称はLKA・レーン・キーピング・エイド)のオン/オフ切り替え、その下は任意に機能を設定できるカスタマイズボタンで、この日はワンペダルドライブのオン/オフが割り当てられていた。ACCの先行車との車間距離設定(3段階)はセンターディスプレイで変更できる。

BEVを使いこなすにあたり、無駄な高速巡航時の加減速を減らすことは、航続距離を伸ばすことにつながる。それゆえACCの出来は重要なのだが、“プレミアムブランド”を標榜するEX30のACCにはもう1段階のレベルアップを望んでおきたい。限られた時間のドライブでの感想ではあるが、交通量が多く流れては詰まるを繰り返す首都高速において、先行車に近づいた際に減速Gが過大になるケースが少なからずあった。ワンペダルドライブによる停止時と同様の印象だ。加速のマナーに気になるところはなかった。

さらに今回の試乗では試すことはできなかったが、EX30には隣車線に走行中の車両がいる場合は自車線内の反対側に寄ることやウインカー操作による自動車線変更機能も実装されている。

新しい世界へ順調な第一歩

ボルボEX30は、コンパクトでありながら高い快適性を備え、とりわけ静粛性に優れている。内外装にもデザインと素材選びの両面で工夫が凝らされ、グローバルでありかつボルボ伝統のスカンジナビアン・テイストをまとった、期待に違わぬ優秀なコンパクトEVだ。

EX30、そしてより大型のフラッグシップSUVであるEX90でボルボは新しいチャプターに進出した。2024年はプレミアムブランドとしてボルボがさらに力強く邁進するのではないか。EX30の試乗を終えてそう確信した。

<前編を読む>

ボルボ EX30 Ultra Single Motor Extended Range
全長:4,235mm
全幅:1,835mm
全高:1,550mm
ホイールベース:2,650mm
車両重量:1,790kg
乗車定員:5名
一充電走行距離:560km(WLTC)
最高出力:200kW(272ps)/6,500-8,000rpm
最大トルク:343Nm(35.0kgm)/5,345rpm
バッテリー総電力量:69kWh
モーター数:後1基
トランスミッション:1速固定
駆動方式:RWD
フロントサスペンション:マクファーソンストラット
リアサスペンション:マルチリンク
フロントブレーキ:ディスクブレーキ
リアブレーキ:ディスクブレーキ
タイヤサイズ:前後245/40R20(オプション)
最小回転半径:5.4m
荷室容量:318L
車両本体価格:5,590,000円

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