二階堂ふみが『Eye Love You』で受け取った“たくさんのギフト” 「想いは伝わるんだな」

心の声が聞こえるテレパスゆえに人と向き合うことが怖くなってしまったヒロイン・侑里(二階堂ふみ)と、そんな侑里の心を解きほぐしていく韓国人青年・テオ(チェ・ジョンヒョプ)のラブストーリーを描いたTBS火曜ドラマ『Eye Love You』。

テオのキュートな笑顔とストレートな愛情表現に国内外から大きな反響を呼び、侑里と一緒に癒やされたという視聴者も少なくなかったのではないだろうか。そんな多くの人に愛された本作が、いよいよ3月26日に最終回を迎える。

「とてもとても幸せな現場でした」と振り返る二階堂ふみに、丁寧に進められた撮影の裏側や印象に残っているシーンなど、本作への想いをたっぷりと語ってもらった。(佐藤結衣)

●みんなの写真を眺めながら寝るほど、丁寧に作った愛しい現場

――最終回の台本を手にしたときは、どのように感じましたか?

二階堂ふみ(以下、二階堂):淋しい気持ちになりました。本当に現場のみんなのことが好きすぎて、地方ロケで撮った写真を眺めながら寝ていたくらいなので(笑)。部署を超えて1人ひとりが、この作品に参加してることにすごく誇りを持ってくださっていて、丁寧に作られた現場でしたね。俳優部としても、より想いをのせてカメラの前でお芝居をしたいっていう気持ちが強くなっていきました。毎日「明日はこうしてみようかな」「明日はこうなるといいな」と、自分の中でもチャレンジが多かったです。

――どのようなところに丁寧な作りを感じられたのでしょうか?

二階堂:脚本の段階からプロデューサー陣が物語に説得力を持たせるためにリサーチをされていて。それこそ生態系のこととかを学者さんに会われていたり。現場でもグローバルスタンダードの照明で撮っていたので、ワンカットワンカット照明を作り変えていたんです。1つのシーンを撮るのにかなり時間を必要としたんですけど、上がりを見て「こんなにキレイに撮っていただいてるんだな」っていうのに感動しました。ほかにも朝、誰にも見せられないような姿で現場入りする私を侑里さんに仕上げてくださるヘアメイクさんや衣装さんもそうですし(笑)。カメラの前に立つ準備ができたら、次は撮影部の方々がどうしたらこのシーンがよりいいものになるのかを考えてカット割りを組んでくださって。現場では侑里が聞こえてしまう心の声をオンにしていたんですけど、それがどこから聞こえてきたほうがいいのかまで音声部さんが気にかけてくださり、一つひとつ確認しながら進めていました。

――心の声が聞こえてくる場所まで!

二階堂:そうなんです。本当にすごいんですよ。このすごさを伝える場ってなかなかないので、今こうしてお話できてよかった(笑)。やっぱり最初のころは侑里の持つファンタジックな要素をいかに違和感のないようにするかが難しいなと思っていたんですけど、監督やみんなと相談しながらやっていくうちに「こういうときは多分心の声が聞こえるよね」とか「こういうときは心の声を遮断している状態なんじゃないか」みたいな共通認識が生まれていく感じがありました。スタッフの方が「みんなで作ってるから、侑里さんも背負わないで一緒に作りましょう」と言ってくださった言葉にすごく救われたんです。美術部さんのセットからもヒントをたくさんいただきました。例えば、侑里の部屋ってとてもインテリアが素敵なんですけど、1人でいるっていうことが前提に配置されていたりして、「あ、侑里さんって自分の世界を作って、身を守っている人なんだな」と切なく感じたんですよね。それから、お父さんの誠さん(立川志らく)が入院している病室には、カメラですごく寄らないとわからないところに雑誌の切り抜きが貼ってあるんです。それは誠さんが事故に遭う前にやっていたごはん屋さんの『本宮亭』が紹介されている記事で……。そうしたディテールの作り込みから出てくるリアリティが現場にはあって、侑里という人物の現実味を増していきました。

――本作ではキャストのみなさんのアイデアが反映された部分も多々あるとお聞きしました。二階堂さんからの発信で生まれたシーンはありましたか?

二階堂:侑里さんが立ち上げた「Dolce&Chocolat.」は地球環境に配慮することを大切にしている会社なので、ショコラフェスティバルのときに着たユニフォームのロングTシャツを「コーヒーで染めませんか」と、ご提案させていただきました。そうしたら「こういう染め方があって、こんな色合いになるみたいですよ」と盛り上がり、実際に撮影の合間にみんなで染めて、スタジオ裏で美術部さんが寸胴鍋を見ていてくださったのが嬉しかったですね。

――素敵ですね! そうした取り組みがなされるのは、この作品ならではですか?

二階堂:もちろん他の作品でも毎回「こういうものがあるといいな」とか「こうしたらどうかな」っていうのはあるんですけど、この作品では特にそれを一緒に楽しんでやってくださる方が集まった印象です。1人ひとりのキャラクターに説得力をもたせるというところに、すごく協力体制ができている感じがしました。

――そんな丁寧な撮影が続いた現場で、最も印象に残っているシーンはありますか?

二階堂:やっぱり灯台の告白シーンですね。あのシーンは、すごく難しくて。「本当にこのセリフをちゃんと言えるのかな」っていう気持ちがあったんですけど、私が持っている熱みたいなものをスタッフのみなさんが察知してくださって。その熱が冷めないように、各部署の方々が協力していいシーンにしようと勢いを大事にして撮ってくださったんです。すごく心強かったですし、いい仲間たちと作品を作ってるなっていう感じがして、とても楽しかったです。本当に『Eye Love You』は俳優としてのキャリアの中でもかなり思い入れのある現場になりました。本当にたくさんのギフトをいただいた現場で、私はこういう現場が好きだから続けているんだなって。

●パッケージはラブコメだけど、中身はヒューマンドラマ

――テオのストレートな愛情表現や、花岡(中川大志)の秘めた優しさに悶絶する視聴者が続出しましたが、現場ではいかがでしたか?

二階堂:ジョンヒョプさんとご一緒するシーンでは、その勢いに身を委ねたいみたいな気持ちがあって、それをすごく楽しませていただいているって感じでした(笑)。本当にジョンヒョプさんは私が本を読んでいるときには想像していなかったようなサプライズで毎回驚かせてくださる方で。ご一緒させていただきながら、演技の引き出しというか、アイデアのレパートリーが増えていく感覚がありましたね。第1話で「そこのキョロキョロしてるかわいい人!」って呼びかけるシーンも、ジョンヒョプさんだからこそだったな、と。そんな予定調和にならないエネルギッシュなテオくんの動きが、人と関わることを怖がっていた侑里をグッと引き寄せられたのではないかと思います。中川くんとも今回、ほぼはじめましてくらいの感覚に近かったんですが、長くキャリアを積まれているだけあって、すごく安定感のある方で頼もしいなと思いました。ドラマの中では侑里と花岡くんの関係性って、とてもポイントになるところで。短いシーンでも長い付き合いをどうやって説得力を持たせていくか、一緒にお話ししながらお芝居をしてくださいました。あの「後出しジャンケン」もいわゆる胸キュンシーンにしようというよりは、優しさを積み重ねていくことを大事にしている感じでしたね。「人と人がこうやってコミュニケーションを取れたらいいよね」と。テオくんとの「だるまさんがころんだ」のシーンもそうですけど、根本にあるのは侑里に対する思いやりとか優しさなんですよね。

――ちなみに、二階堂さんはストレートな愛情表現はいかがですか?

二階堂:私は、ストレートでも秘めたタイプでも、なんでも大丈夫です(笑)。その人なりに大切に想ってくれていることがわかれば。なので、テオくんか花岡くんかと聞かれることがありますけど、この物語のなかでは断然お父さんの誠さん派ですね。ふふふ、一番忖度のない答えになってしまいました。でも、本当にすごくいいんですよ、志らくさんの演じられる誠さんが。人と接していると、つい正しさとかそういうものを提示しがちですけど、正しさだけが正解じゃない時があるっていうことを誠さんから感じるというか。そういう深い愛情からくる寄り添いっていうのが、あの父娘のシーンにあっていいなと思いました。誠さんとのシーンって、(杉本)哲太さん演じる教授から見ると、1人で話しているみたいな感じになっていると思うんですけど、個人的にはむしろ言葉に重きを置きがちだけど、見つめ合うだけで通じ合うみたいなコミュニケーションもある気がして。あの2人のシーンではそういうものが見えるものになるといいなっていうのも、ちょっと思っていたりします。視聴者の方のスタンスによって感情移入するキャラクターが分かれるようです。ストレートに表現できる人はテオくんの気持ちがわかるだろうし、なかなか人の心に踏み込めない人は侑里の気持ちがわかるだろうし、見守る優しさを知っている人は花岡くんにグッとくるんじゃないかなって。

――二階堂さんは、どのキャラクターに感情移入されましたか?

二階堂:私はやっぱり侑里さんでしたね。今は、言葉を伝えるのが難しくなってきた時代だなと感じていて。SNSとかでもコミュニケーションの正解がわからなくなっているなって。そういうなかで、人と関わっていくことって「ちょっとめんどくさいかも」とか「辛いことかもな」っていうネガティブな感情がちょっとあるような気がしていていたんです。だから、侑里さんの「人と関わるのがちょっと怖いなと」か「何かを伝えるのってすごく勇気がいるな」みたいな感覚はすごくよくわかりましたし、クランクインしたころ監督に「侑里さんって今の私にすごく近いキャラクターなんです」って話をさせていただいたくらいだったんです。なので、侑里さんを演じることで、どこか私自身もリハビリになるような気がしていました。実際、この現場で「1人じゃないんだな」って感じることもできて、このご縁に感謝しています。

――第7話では真尋(山下美月)さんとの友情も描かれましたね。

二階堂:侑里はテオくんとの恋愛は成就したけれどテレパスのことまでは自分から言えていないという点では、本当の意味で人との繋がりというか、ありのままの自分を知ってもらえるところまではいけなくて。そのなかで、真尋がお父さん以外で初めて自分を受け入れてくれる存在としていてくれたのは、すごくよかったですよね。私自身も山下さんに出会えて良かったと思っているところもリンクしているような気がします。本当に、彼女の存在は俳優部として一番心強かったですし。また1人、いい俳優部の仲間を見つけられたなって思っています。『Eye Love You』は、ラブコメディではあるんですけど、深いテーマがあって。人と人との関わりとか、それぞれが抱えているトラウマとか、ありのままの自分を受け入れてもらう勇気とか……。人と関わることで傷つく可能性もある、そんな怖さを乗り越えながら成長していく侑里さんに救われた部分も多くありました。

●エンターテインメントを続けてきてよかったと思えた作品に

――回を重ねるごとに反響も大きくなっていきました。二階堂さんのもとには届いていましたか?

二階堂:もちろんです。「このドラマを観る時間が本当に楽しみです」とか「日常を忘れられる夢のような時間です」といったようなコメントをいただけたのは、とても励みになりました。エンターテインメントの希望をすごく感じたというか。今年は年明けから辛いニュースも多く耳にする中で、私たちにできることってなんなんだろうって考えさせられたんですが、こうしてドラマを楽しんでいただけている声を聞いて、心が解放される時間だったり、人生が少しでも豊かになったり、いい方向に作用させる力があるのかもしれないと思えて嬉しくなりました。

――SNSでの盛り上がりもすごかったです。

二階堂:我々、俳優部は何か役目を与えられて作品に携わっているので、SNS用の動画や写真って最初は役として出るべきなのか、どういう立ち位置でいればいいのかわからなくて戸惑ったんですけど。でも、視聴者のみなさんのリアクションを見ているうちに、役と素の狭間のような感じでいいんだなと。そこからは私自身も楽しむことができました。SNS担当の方もアグレッシブにいろんな瞬間を工夫して撮ってくださっていて、ここでも、みんなで成立しているドラマだったなと感じましたね。「こういう表情してシーンに臨んでいたんだな」とか「みんなといるときこんな表情をしていたんだな」みたいな発見もあったんですよ。

――3月20日にはファンミーティングも開催されましたね。開催されると聞いたときは、いかがでしたか?

二階堂:すごくいいなと思いました。ドラマを応援してくださってた方々と対面できるのは、なかなかない機会でしたし。今回第1話の試写会もあったんですが、実は監督が観客席のうしろから会場の様子を録画されていたんですよね。「キャー!」ってなっているのを、後から見せていただいて。スタッフもみんな感動していました。「こういう反応が見られると、作り手としても報われるね」って。

――作る人がいないとドラマは生まれないですし、もちろん観てくれる人がいないと成立しないですもんね。

二階堂:そうですね。このドラマに参加させていただいて、俳優として、エンターテインメントに関わるお仕事を続けてきて本当によかったっていうことを実感する毎日でした。ワンカットワンカット丁寧に大事に作っていくことに喜びを感じるいい仲間と巡り会えて、それを楽しんで応援してくださる視聴者のみなさんがいて。やっぱり想いみたいなものは伝わるんだなってすごく実感しています。たくさんの力をいただきながら今、無事に最終回を迎えられることが何よりも嬉しいです。ぜひ、物語のラストにも希望を感じていただけたらと思います。

(文=佐藤結衣)

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