【掛布雅之が分析】大谷翔平がメジャーでも「桁違いの成績」を残せる理由

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現代の野球界にとって最も注目されている人といっても過言ではない、ロサンゼルスドジャースの大谷翔平選手。2023年のWBCでは、日本チームを優勝に導くだけでなく、最優秀選手(MVP)を受賞しました。掛布雅之氏の著書『常勝タイガースへの道 阪神の伝統と未来』(PHP研究所)より、大谷翔平選手の強さとともに打者と投手のトレンドについて解説します。

大谷翔平の並外れたヘッドスピード

現代のホームランアーチストとして別格なのは、やはり大谷翔平選手であることは間違いない。メジャーというトップクラスの野球の中で二刀流をこなしながら2023年は44本塁打を放ち、ア・リーグのホームラン王となった。故障によりシーズン終盤に離脱してしまったことは残念でならない。誰よりも大谷選手本人が悔しいはずである。

大谷選手のすごさがどこにあるかといえば、それはバットのヘッドスピードにある。

また、投手と打者の体づくりは別物である。正直、大谷がここまで結果を残せるとは思っていなかった。

以前の大谷は、バットのヘッドを下げて30度くらいの角度でホームランを打つことに徹していた印象があった。2021年は、マイク・トラウトやアンソニー・レンドンが故障で長期離脱をしていた。その中で46本の本塁打を打ったのは圧巻である。

後ろを打つバッターが弱ければ、大谷は敬遠されて歩かされてしまう。または警戒されてギリギリのコースを投げ込み、四球でもいいという攻めをされてしまうのだ。

23年もトラウトは骨折によって離脱し、大谷は敬遠で歩かされるシーンが目立っていた。

23年でいえば、大谷は打率3割0分4厘でシーズンを終えた。打率という点で見れば、21年から格段の進化である。21年はアッパースイングだったが、レベルスイングに近づいていることが打率にもよい結果を残しているといえるだろう。

レベルスイングで大切なのは、ベルトが地面に対してレベルに回ることである。

メジャーの投手はツーシームなど低めへの落ちるボールが主体だった。低めのボールを打つにはアッパースイングが適している。

アメリカで「フライボール革命」と言われたのは、ツーシームやスプリットの落ちるボールが全盛だったからである。その落ちるボールに対して、バッターにとってもっともよい対応がアッパースイングでフライを打ち上げるものだった。

バレルが三振数を増加させた

元々はMLBで「スタットキャスト」と呼ばれるボールの打球角度を数値化する技術が開発されて、2015年から導入された。MLB中継で、大谷の打球速度などをよくアナウンサーが言うが、まさにそれである。打球初速度が時速158キロ、打球角度が26〜30度で上がった打球がヒットゾーンに飛び、スタンドインもしやすいと定義づけられた。いわゆる「バレルゾーン」である。ニューヨーク・ヤンキースの強打者アーロン・ジャッジ選手もバレルゾーンを意識して打っていると述べている。

バレルになる角度は、打球速度が速くなれば速くなるほど広がり、閾値(一線を超える値)とされる時速187キロに到達すると、8〜50度の範囲がバレルとなる。また、研究結果によると、直球を打つ場合は、水平面に対して19度アッパースイングで、ボール中心の0.6センチ下側をインパクトすると、飛距離が最大化するとされている。この考え方が広まって以降、ホームラン数は増加傾向を辿たどっていったが、1年間統計を取ると、たしかにホームランは増えるが、打率は下がり、三振の数も増えるという数字が残ったのである。つまり「フライボール革命」がすべて正しいとは言えない。

2021年のMLBでは、3割以上の打率を残した打者が、ア・リーグとナ・リーグを合わせても14人しかいなかったのである。その年のMLBの平均打率は2割4分4厘と、1969年以降で最低打率だった。ホームラン数は増えたものの、三振数は3万2,404(2001年)から4万2,145へと増大した。同年の大谷は46本塁打という素晴らしい結果を残す一方で、打率2割5分7厘、189の三振数だった。

そのような打者のトレンドに対し、メジャーの好投手は高めに速いフォーシームを投げることがトレンドになっている。高めのフォーシームをアッパースイングで捉えることは逆に難しい。大谷選手の2023年のスイングを見ると、グリップの位置をやや低く構えてレベルスイングに変えているように思える。

今シーズンは、極端な内野の守備位置が変更されて、遊撃手がセカンドベースを超えて守ることができなくなったこともあるが、確実性が上がり、前述したが、打率も3割0分4厘を記録した。

打者は、攻撃のポジションではあるが、基本は受け身である。主導権を握っているのは投手である。その投手の攻めるボールによって、スイングの軌道を変えていかなければならない。基本的にはレベルスイングを意識して始動すれば、低めのボールに対してアッパー気味に入ることも、高めのボールにダウン気味に入ることも臨機応変に対応し、勝負できる。

いずれにしても、投手全体の進化は凄まじい。150キロ以上の速球を投げる投手は今や普通である。打者の進化をどのように図っていくかが問われる時代になったといえるだろう。

掛布雅之

プロ野球解説者・評論家

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