【マーチS回顧】得意舞台で輝いたヴァルツァーシャルの課題 ミトノオーは惜敗も父譲りの適性示す

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中山特有の変則ペース

2024年3月24日に中山競馬場で開催されたマーチSは、中山特有の中盤で緩まない流れから上がりを要する勝負になり、コース巧者ヴァルツァーシャルがミトノオーを差し切った。

1番人気は過去10年【1-2-2-5】と相性がよくない。これはハンデ戦ゆえに微妙なメンバーで行われることが多いため、1番人気で勝ち切るほど実力がなくても、勢いで支持されるケースがあるからだ。今年の1番人気はブライアンセンス。結果的に重賞の1番人気は荷が重かった。

前走東海S4着は勢いだけではなく、重賞通用のメドを立てての参戦だった。だが、結果は6着。好位で流れに乗れたものの、中盤でペースアップする中山ダート1800m特有のクセの強い流れに戸惑ったようだ。残り400mで手応えが悪くなり、直線を向いて活力が残っていなかった。そう、中山適性の壁に阻まれた。これも1番人気がよく負ける理由のひとつだろう。そんな馬が人気で馬券圏外に去り、波乱のもとになる。

レースを引っ張ったのは外枠のミトノオー。番手にペイシャエスがつけ、外枠勢が先手を奪う形になった。このコースで外枠からハナに行くにはかなり勢いをつけなければならず、その分1コーナーの入りでペースダウンしにくくなる。ここでペースを落とせないと、終盤の急坂で脚にくる。

ミトノオーのペースは1000m通過1.00.9と決して遅くない。2コーナー付近の400m通過後から、12.3-12.2-11.9と向正面でペースを落とさなかった。2番手ペイシャエスが引いて大逃げの形になり、先行勢はコース形態を踏まえ、早めに追いかけなければならなかった。当然、全体的に息が入りにくい流れになり、後半600mは12.5-12.3-12.9で37.7と時計がかかった。4コーナー出口から直線半ばで12.3とミトノオーが踏ん張ったため、先行勢は離されてしまった。

ヴァルツァーシャルの課題

中山特有の息の入らない中距離戦に対応したのが、勝ったヴァルツァーシャルだ。中山ダート1800m【2-2-0-2】のコース巧者は内枠からインで立ち回りつつ、4コーナーを抜群の手応えで回ってきた。この時点でブライアンセンスら先行勢とは明らかに走りが違った。息長く走れ、コーナーで追い上げられる器用さもある。だから、最後はただ一頭ミトノオーに迫り、差し切ることができた。

差しタイプのため、今回と違い先行勢が楽に1コーナーに入れるようなら不発に終わることもあるが、ミトノオーがタフな流れをつくってくれた。自力で動けない面があったが、昨年の暮れから競馬に幅が出てきた印象もあり、今後も中山ダート1800mなら安定して走るだろう。

ダートでは苦戦する内枠も、この馬は【2-1-1-0】とまったく苦にしない。まだ5歳ながら、ダートの猛者たちを相手にできる根性が備わっている。中山ダート1800mの重賞はマーチSしかないので、今後は他場のダートで力を発揮できるかにかかっている。真の王者は場所を選ばない。この先はコースとの戦いが課題だ。

頭脳プレーが光ったミトノオー

2着ミトノオーは中盤でペースをあげて後ろを引き離し、勝負所の3コーナーで息を入れ、わずかに後ろを引きつけつつ、残り400mで再加速するという味な競馬で見せ場をつくった。後ろが追いかけにくい地点でペースを落とさず、勝負所の直前で息を入れるという頭脳プレーが光った。

巧みなペース配分は父ロゴタイプの安田記念を想起させる。末脚勝負で見劣るなら、そんなステージに持ち込まない。適性を踏まえた割り切った競馬でこそ輝くタイプだろう。今回の大胆な競馬は今後のヒントになる。これからも思い切って先手をとれれば、残り目はありそう。メンバー次第だが、地方交流より中央の重賞が向いてそうだ。

3着ペイシャエスはミトノオーを追いかける立場だったが、よく残った。離される形になっても無理に追いかけなかったのが3着に粘れた要因だろう。ポルックスSでは別定で60キロを背負わされるなど、斤量との戦いに苦しめられてきただけに、2キロ減の58キロが効いたようだ。1800mは若干短いタイプであり、上がりがかかる競馬も味方した。2000m以上のスタミナ勝負では引き続き追いかけよう。

ライタープロフィール
勝木 淳
競馬中心の文筆家。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュースエキスパートを務める。新刊『キタサンブラック伝説 王道を駆け抜けたみんなの愛馬』(星海社新書)に寄稿。



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