【日経賞回顧】伸びしろ大きいシュトルーヴェ 年齢よりもキャリア数がカギとなった一戦

ⒸSPAIA

微妙な空気感を打破したマテンロウレオ

ここ2年、タイトルホルダーの始動戦として注目を集めた日経賞は同馬の引退によって、大きく変化した。まず4歳馬の出走がなかった。これは2016年以来8年ぶりのこと。16年は5歳サウンズオブアース、ゴールドアクターが人気を集め、ワンツーを決めた。一方、今年は8歳ボッケリーニ、マイネルウィルトス、7歳クロミナンスが1~3番人気。5歳はシュトルーヴェの4番人気まで。結果的にそのシュトルーヴェが勝利したものの、戦前はベテラン勢中心の珍しい形だった。さらに同舞台で相性がいい前走有馬記念からの出走馬はヒートオンビート1頭のみ。それも有馬記念16着と大敗からだった。

天皇賞(春)へ向けた始動戦といったニュアンスは薄く、前哨戦という雰囲気もなかった。しかし、裏を返せば、実力的にはどんぐりの背比べであり、馬券的な妙味はたっぷり。データのとっかかりが薄いレースだからこそ、直感や競馬脳を試す一戦となった。

そんな微妙な空気感を打ち破ったのは、逃げたマテンロウレオと横山典弘騎手だった。勝負師は空気の震えに敏感で、こういったときになにか策を講じる。マテンロウレオの策は逃げ。それも半端なことはせず、思い切った主張をするから、華がある。前半1000m通過は推定で1:00.0。明らかに突っ込んで入った。これも中山芝2500mで1コーナーまでペースが速ければ、追いかけられる可能性は低い。そんな心理を読み切った作戦だった。極端なペースダウンはなく、ラクをしたわけではないが、向正面に入る手前で2番手のヒートオンビートが引いた。マテンロウレオが飛ばしたというより、後ろが一旦、抑えにかかったため、大逃げの形になった。この辺の駆け引きは一級品だ。

キャリア11戦、伸びしろを感じるシュトルーヴェ

そういった典弘騎手の幻惑戦法を打ち破らんと動いたのが伏兵のアドマイヤハレー。冬の小倉から乗れている丹内祐次騎手も勝負に出る。後続の仕掛けに対し、ギリギリまで引きつけ、脚を溜めてからスパートする。マテンロウレオは手はず通りの競馬だった。ハナ差4着と結果は残せなかったが、緩急の少ない競馬に持ち込み、日経賞をスタミナ比べに書き換えた。突っ込んだ前半以降、中盤から終盤にかけてほぼペースが上がらない流れのなか、ラスト600mは11.8-12.0-12.4。急坂で前にいた馬たちの脚色が鈍り、後続が一気に押し寄せ、逆転した。最後は見応えある競り合いだった。

シュトルーヴェは5歳でもこれが11戦目。堀宣行厩舎らしい急かさないレース選択が花を開かせた。これまで10戦すべて左回りに出走しており、意図的なレース選択はシュトルーヴェの走りのどこかに関係していた。であれば、今回の日経賞出走はそういった不安な部分が消えたとの判断があったはずでこの異変を事前に察知したかった。一発で好走できたのはセンスの高さゆえだろう。

最後の直線は一瞬、前が詰まりかけたが、素早く外に動いて差し切るという器用な面と瞬発力をみせた。マテンロウレオが演出するスタミナ志向の流れで、これだけ末脚を使えるなら、長距離でもと思わせる。4コーナーあたりの手応えから、明らかに小回りよりコーナーが緩いコースがよく、京都も合いそうだ。出走するかどうかわからないが、今後も広いコースのスタミナ比べなら楽しめる。キングカメハメハ最終世代はスタニングローズ、エリカヴィータに続く3頭目の重賞ウィナーを輩出した。この世を去って5年近くになるが、大種牡馬は死してなお、その力を誇示し続ける。

7歳クロミナンスもキャリアはたった12戦

2着クロミナンスは最後1F12.4で外から突っ込んできた。こちらも7歳とはいえ、キャリア12戦目とシュトルーヴェよりもペース的にはゆったりとした使われ方だ。休みながらだが、着実にステップアップし、GⅡで3、2着。4度の骨折を乗り越えた精神力と陣営のサポートには脱帽するしかない。経験値が浅いだけに、まだ活力は十分ある。母イリュミナンスはその父マンハッタンカフェから受け継ぐ成長力で長く活躍した。

3着には8歳マイネルウィルトスが入った。前走は不良馬場を逃げ、今回は距離延長に対し、控える競馬で対応した。最後の末脚では上位には敵わないが、しぶとさは相変わらず。昨秋から全力で走り続け、大きく崩れない。距離も舞台も選ばない走りには頭が下がる。

ライタープロフィール
勝木 淳
競馬中心の文筆家。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュースエキスパートを務める。新刊『キタサンブラック伝説 王道を駆け抜けたみんなの愛馬』(星海社新書)に寄稿。



© 株式会社グラッドキューブ