故郷で増える空き家 管理、活用しにぎわいを 不動産業空白地域に開業・山﨑麻美さん(青森・深浦町)

物件売却に向け、過去に境界トラブルがなかったかなどを依頼者から丁寧に聞き取る山﨑さん(右)=2月、鯵ケ沢町

 青森県深浦町北金ケ沢の山﨑麻美さん(48)が昨年、同町で不動産業「グットイグナル」を立ち上げ、少子高齢化が深刻な同町やその周辺で増える空き家の管理や活用に向けた活動に力を入れている。町出身で「海の見える景色が好き」と話す山﨑さん。「最近聞こえてくるのは『人がいなくなる』『店がなくなる』といったマイナスの話ばかり。町が廃れ、何もなくなる前に、未経験だけど頑張ってみよう」と一念発起した。

 同町では2016~23年度の8年間で、倒壊の恐れがあり周囲に著しい悪影響を及ぼす「特定空き家」に50軒が認定され、うち24軒が解体されている。

 病院や老人福祉施設で20年以上事務職を務めた山﨑さん。日々の暮らしの中で、青森県西海岸に不動産業の店舗がなく空き家活用が進まない現状を知り、開業を決意した。「受かるなら1回で」の意気込みで、22年10月に国家資格の宅地建物取引士の試験を受験し、合格率が2割を切る難関を突破。実務講習を経て、23年5月に宅建士登録した。

 町の創業支援事業補助金も活用予定で、担当した町観光課の熊谷美希主幹は「行政としても住民の困りごとに民間事業者と連携していくことができれば心強い」とエールを送る。

 「町には空いているスペースがいっぱい。活用されていない空き家や空き店舗もある。1軒でも2軒でも活用につながるよう力になりたい」と山﨑さん。しばらく住む予定がなく、年に数回しか親族が訪れることがない住宅の定期的な管理を請け負い、景観トラブルなどを防ぎ、将来的な活用や処分につなげることへ特に力を入れる考え。

 自宅に設けた事務所スペースに、自力でテーブルを取り付けるほどの腕前のDIY(日曜大工)の趣味も開業を後押しした。国土交通省は賃貸住宅の流通促進を目的に、借り主の意向を反映して住宅の改修を行うことができる「DIY型賃貸借」の普及に取り組んでおり、山﨑さんも取り入れていきたいと考えている。

 2月、山﨑さんは70代女性が1人暮らししている隣町・鯵ケ沢町の一軒家を訪れ、間取り図を作るために寸法を確認。建物の傷みや過去に境界トラブルがなかったかなどを丁寧に聞き取り、売却に向けた媒介契約を結んだ。

 女性は15年ほど前、両親の世話をするために東京から地元に帰ってきたが、両親と夫が他界。最近は東京に戻りたいという思いが募っていたという。高齢になれば帰省は難しくなるため、売却を決断した。女性は山﨑さんのことを「娘みたい。話していると明るくなった」と話していた。

 屋号の「グットイグナル」について「津軽弁で高齢者でも覚えやすい。若い人も面白いと言ってくれる」と山﨑さん。「深浦に若い人が増えるのは難しい。一度、町を出て行っても、知識や経験を付けてまた戻ってきてくれれば」。自身の開業が少しでも町のにぎわいにつながればと願う。

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