ボートレース自動タイトル生成システム開発者インタビュー。選手にフォーカスを当てたオープニング映像を自動生成[Report NOW!]

ビジュアル・グラフィックスは、Unreal Engineベースのボートレースのタイトル映像自動生成システム「Rapid Stream」を開発し、日本レジャーチャンネル(JLC)に提供したと発表した。

ボートレース場は全国24ヵ所あり、10ヵ所以上でほぼ毎日レースを開催中だ。日本レジャーチャンネルは、その全国のボートレース場の映像配信業務を行なっているコンテンツプロバイダである。JLCの社内には多数の有人、無人のスタジオなどの放送設備があり、その規模は放送局といっても差し支えないレベルだ。

日本レジャーチャンネル社内のサブコントロールルームの様子

日本レジャーチャンネルが導入したのは、ボートレースの映像に乗せるオープニング映像をUnreal Engineを使って自動的に生成するシステムである。24のボートレース場の1レースから12レースのどの組み合わせであっても、選手にフォーカスを当てたオープニング映像を自動的に制作、リアルタイム再生することが可能だ。

米国などではリッチなスポーツのタイトルをUnreal Engineで作成するのは普通にあるが、ほぼUnreal Editorの直接操作で実現している。Rapid Streamは、サブコントロールルームでのオペレーション向けのシステムのため、Unrealベースでありながらもインターフェイスは独自UIを採用した外部アプリケーションから制御が可能。Unreal Engineから映像が出力されていることを確認するだけで、ユーザーはUnreal Editorを立ち上げることもなければ触る必要もない。Unrealを意識せずに使えるような作り込みと、外側のアプリケーションから制御してUnrealに情報を流し込むことによって、Unrealの描画を毎回変えられるのが特徴だ。

システムはハードウェアとソフトウェアをインテグレーションしたターンキー仕様として供給する。PCにはBlackmagic DesignのDeckLinkを搭載し、DeckLinkのSDI端子から59.94iの信号を送信。即、放送に使用可能だ。

特にこのシステムの注目点は、外部データと連携してUnrealの映像の要素をリアルタイムに変えられるところだ。ゲームエンジンを使ってこういった仕組みを実現した例は今まで聞いたことがない。このユニークなタイトル生成システムの誕生秘話について、日本レジャーチャンネルとビジュアル・グラフィックスに話を聞くことができたので紹介しよう。

右から日本レジャーチャンネル 河野剛史氏、ビジュアル・グラフィックス 河野勇氏、ビジュアル・グラフィックス 戒能正純氏

――JLCさんがボートレース自動タイトル生成システムを必要とされたきっかけは何だったのでしょうか?

河野氏(JLC):

基本的に当社のオープニング映像はこれまですべてAfter Effectsで制作していまして、SG(スペシャルグレード)と呼ばれる競馬のG1に相当する最高グレードのレース時にはオープニング映像制作の要望がありました。その最に選手のポーズを撮影して、組み合わせて実現するということは定期的にありました。
そうした作業を何度も繰り返し手掛けていくうちに、「このようなタイトル制作を自動で作ることができないのか?」「Unreal Engineを使い、バーチャルライブ系でよく使われているシーケンサーを使ってVTRの流れを作ってそれをリアルタイムで出せればいけるのではないか?」と考えるようになりました。
これまではCinema 4Dで背景を制作して、レンダリングをかけてAfter Effectsで整える流れで実現していました。そこに、Unreal Engineが使えるのではないか?と模索をしていたタイミングでたまたまInterBEEで「Unrealをバリバリ使いこなしています」というビジュアル・グラフィックスさんと出会い、「そういうことならば任せてください」と熱意のアピールをいただきました。

日本レジャーチャンネルの河野剛史氏

――ビジュアル・グラフィックスさんは、Unreal Engineの制御技術としてどのような実績がありましたか?

戒能氏(VGI):

すでにバーチャルプロダクションでは、シーケンスのコントロールをやっていました。今回の自動タイトル生成システムはシーケンスを使って、その中にあるコンテンツを差し替えて実現しています。
仕組みは、選手の写真やラウンド数のグラフィックをあらかじめ用意しておき、それを「見せる」「見せない」のような属性情報を与えることによって狙った映像が出るシーケンスを作ってリアルタイムで出すイメージです。「できるのではないか?」という話になりまして、正式に発注をいただきました。

――自動で生成していることを感じさせないクオリティの高さに驚きです。

戒能氏(VGI):

デザインの部分は日本レジャーチャンネルさんが担当し、当社では制御系を担当しました。Unreal Engine製作したコンテンツをいただきまして、それに制御できるように仕立てました。このあたりの実装はすべて河野(VGI)が担当しました。

――改めて自動タイトル生成システムの仕様内容を聞かせてください。

河野氏(JLC):

過去にプリレンダリングで制作したオープニング映像の構成をベースに、尺的には約25秒から30秒。その間に6選手の顔写真と名前を表示しながら最後のカットで◯レースの◯戦のような情報を表示。その間のレース名や選手名をビジュアル・グラフィックスさんに差し替えるような方法を相談しました。

ビジュアル・グラフィックス 河野勇氏
デモをするビジュアル・グラフィックス 戒能正純氏

――その要望に対して、順調に実現できたのでしょうか?

河野氏(VGI):

始めてみると困難の連続でした。Unreal ができることは、Unrealが持っている機能に依存します。JLC河野さんからお受けした仕様は、Unreal Engineが持ってない機能がいくつかあり、これらの仕様の実現に苦労しました。ストレートな言い方ですが、無理やりひねり出して実現をしたという感じですね。

戒能氏(VGI):

日本レジャーチャンネルさんのコンテンツ制作部隊と我々が毎週、膝を詰めてミーティングし仕様を決めて、お互い作り合って動作検証して、ああだこうだ、やりながら話を始めたのはちょうど2023年2月頃、仕様策定開始が4月ぐらいでした。完成までにはほぼ約1年かかりました。
まず、タイムコードに苦労しました。SDI出力を接続したATOMOS SHOGUNを見ていただくと、タイムコードの時間表記が見えます。SDI入力に対してエンベデッドタイムコードがここで出力されていますが、意外とこれが困難でした。Unreal Engine自体は、日時をタイムコードで出力する機能は標準で持っていますが、コンテンツ再生と同時にゼロスタートでタイムコードを刻む機能は持っていませんでした。
JLCには放送局クオリティのスイッチャーが入っていて、コンテンツが再生している状況をタイムコードで確認できなければ困るという話でした。最終的には、Epic Games(Unreal Developpers Network)にもご協力いただきましてタイムコードを出力するプラグインを開発して実装しました。

――データベースとの連携はどのように実現をしていますか?

河野氏(JLC):

当社には、インターネットを通じて出走データの提供を行っているサービスがありまして、そのルートから情報を取得できるようにしました。

戒能氏(VGI):

オープニング映像制作に、選手名を入力する必要はありません。基本的に出走データをもとに作られています。 このPCの中に全1604名分のボートレーサーの顔写真が入っていまして、今日の日付、場所、レース番号を選択すると出場選手に紐づいた写真が自動的に選択されます。

――今後、どのような拡張を予定していますか?

河野氏(JLC):

女子戦専用のタイトルデザインを追加するのと、レースタイトル以外にもいろんなコンテンツを再生できたらいいなと思っています。もともとはレースタイトルを生成するシステムとしてスタートしたのですが、今後コンテンツの幅は広げていきたいと考えています。

河野氏(VGI):

もちろん要件をいただいて、それに合わせて積極的に拡張できるようにしていきたいと思います。Unreal Engineがもつところの一番のメリットとは、インタラクションがあり、リアルタイム性があるところです。オフラインでレンダリングするという手法もありますが、リアルタイムかつオンラインでレンダリングすることで運用のコストを下げれるし、即時性を保つこともできます。そういった展開がもっと考えられればと考えております。
Unreal Engineがどこまでそこを対応してくれるかは課題なのですが、そこは調査して可能性を模索して、できることの幅を広げていきたいと思っています。

© 株式会社プロニュース