丹生川上神社下社ご神馬の「白ちゃん・黒ちゃん」 夕方5時になんと自分たちで帰宅

画像:境内の木枠の中でのんびり1日勤務するご神馬。黒ちゃんが変顔した瞬間。(撮影:桃配伝子)

豊かな森林に囲まれた清き水の里・奈良県吉野郡下市町に、水の神をまつる古社として朝廷から厚く保護されてきたと伝わる、丹生川上神社下社(にうかわかみじんじゃしもしゃ)があります。

実は、そこで生活している「ご神馬(しんめ/じんめ、かみうま)」の白ちゃん・黒ちゃんは、神社を訪れる人たちの間で大人気!

昼間は自由にのんびりしているのですが、夕方5時のメロディーが町内に流れるとともに、自分でさっさと柵を開けて、境内を爆走して厩舎に帰っていくという、賢くも面白い行動が有名です。

毎年、訪れている丹生川上神社下社ですが、今回はそんな白ちゃん・黒ちゃんをご紹介します。

目次

1300余年の歴史を持つ丹生川上神社

画像:丹生川上神社下社。赤い鳥居の右手に囲いがあります。(撮影:桃配伝子)

丹生川上神社は、1300余年の歴史を持つ神社です。

ご祭神の罔象女神(みづはのめのかみ)は、伊邪奈岐命(いざなぎのみこと)・伊邪奈美命(いざなみのみこと)夫婦神の御子神で、水一切を司る神様です。また、雨師の神として、人々は五穀豊穣を願い、日照り続きのときには雨を降らせ、長雨のときには雨が止むようにとご加護を祈ってきたそうです。

丹生川上神社の由緒は、以下のとおりです。

今を去る事1300年余り前、第40代天武天皇白鳳4年(675)「人聲の聞こえざる深山吉野の丹生川上に我が宮柱を立てて敬祀らば天下のために甘雨を降らし霖雨(長雨の事)を止めむ」との御神教により、創祀せられました。

事あるごとに心からなる朝野の信仰を捧げ、『延喜式』(927)には名神大社として、平安時代中期以降は、祈雨の神として「二十二社」の一社に数えられています。そして、近代においては官幣大社に列せられました。

丹生川上神社 公式HPより)

また、丹生川上神社は「絵馬発祥の神社」のうちの一社で、雨乞いには黒馬を、雨止めには白馬又は赤馬が献上されたと伝わっています。

本来は一社だった丹生川上神社ですが、江戸から大正時代にかけて「三社」に分かれました。現在、この丹生川上神社の上社・中社・下社を巡る「丹生川上三社めぐり」をすると、三社の名前とご神馬が描かれた御朱印をいただくことができます。

画像:丹生川上神社の上・中・下三社を巡るといただける御朱印(2024年辰年版)
(撮影:桃配伝子)

丹生川上神社下社のご神馬、黒ちゃん・白ちゃん

今回、ご紹介するのは吉野郡下市町にある「丹生川上神社 下社」のご神馬たちです。

閑静な境内では、雨乞いを願いを叶える黒馬・黒ちゃんと、晴れを乞う願いを叶える白馬・白ちゃんというご神馬が生活しているのですが、二人ののんびりとした様子や表情が人気を集めています。

黒曜石のように神秘的で優しい輝きを持つ大きな瞳を持つご神馬たちは、白ちゃんのほうが黒ちゃんよりもふた周りほど大きめですが、黒ちゃんは19歳で白ちゃんは18歳なので年下です。

人懐っこくて物事に動じない感じの白ちゃんと我慢強くてマイペースな黒ちゃんは、赤い鳥居の横に設置された木枠で作られた囲いの中にいて、神社を訪れた人々を迎えてくれます。

ときどき二人は一悶着起こすそうですが、基本的には仲良しで、サークルの中で寝転んでお昼寝したり、寄り添ってポーズをとってみたり、二人に会いに訪れた人に「こんにちは」と挨拶に来てくれたり……と、その姿を眺めているだけでも、気持ちがほころんでいくようです。

画像:微妙な距離で寄り添う白ちゃん・黒ちゃん(撮影:桃配伝子)

1日の最大の見せ場!黒ちゃんによる「夕方5時の木枠のバー開け」

ご神馬と聞くと、ちょっと近寄りがたいような響きがありますが、白ちゃん黒ちゃんは、穏やかでフレンドリーで自由な雰囲気。「神様感ゼロ」などといわれてしまうほど、身近な存在でやることが面白いのです。

特に有名なのが、小さい体の黒ちゃんによる「夕方5時の木枠のバー開け」。

何のことか?と思われる方も多いでしょう。

実はこの二人、のんびりと日々の勤務を終えたら、神社の方が迎えに来てサークルの扉を開けて、厩舎に連れて帰るのかなと思いきや、勝手に自力で帰路につくのです。

夕方5時になると、静かな下市町に「夕焼け小焼け」のメロディーが流れます。と同時に、ゆったりと歩いていた二人の歩様が止まり、キリッと顔を上げた黒ちゃんが、一番上の木枠のバーの下に身体をすっと差し入れ「よいしょ!」とばかりに背中で持ち上げて、器用にバーを外してしまうのです。
(片方は固定されていますが、もう片方は固定していないのです)

黒ちゃんが器用に、けれど懸命に一番上の木枠を外し、3段から2段へと低くなるところを、後ろで静かに見守っていた白ちゃんが、まずは最初にひらりと飛び越えて外に出ます。それを眺めていた黒ちゃんは続いて、トコトコトコッと駆け寄ってひらりと飛び越えるのです。

木枠から外に出て自由になった二人ですが、すぐ側にある赤い鳥居から外に出ることはなく、俊足で境内を駆け抜けて、厩舎に帰っていきます。

天候が変わりやすい吉野郡は、急な豪雨に見舞われたときなども「木枠開け」して、自主的に二人で厩舎に帰るそうです。

画像:白ちゃん・黒ちゃんの厩舎。夕方五時に勤務を終えるとここに帰ってきます。(撮影:桃配伝子)

この仲良しコンビによる「自力帰宅シーン」は有名で、ひと目会いたいと訪れる人は多く、丹生川神社下社さんのfacebookにも動画がいろいろアップされています。

そちらでは、いきいきした二人の様子や、木枠開けがスランプになってなかなか開けられない黒ちゃんや、木枠をブン!と外した瞬間に白ちゃんにぶつかってイテッ!となっている姿も見られます。

普段は、自由気ままにのんびり過ごしている黒ちゃん白ちゃんですが、年4回行われる例祭りのときには、立て髪や尻尾を編み込みされて朱色の衣装を纏い、献上の儀式にキリッとした(?)表情で立派に勤め上げているようです。

画像:ぱっつんとカットした前髪を見せに来る白ちゃん(撮影:桃配伝子)

まとめにかえて

豊かな木々を渡る風、清らかな川のせせらぎ、鳥の鳴く声……静謐な環境の丹生川神社下社で毎日、食べて寝て寛いで訪れる人々の心をほっとほぐしてくれるつぶらな瞳の白ちゃん、黒ちゃん。

ときに変顔をしたり、思いきりお腹を見せて寝転んだりしつつ、時間になるとさっさと二人で厩舎に帰っていく姿はなんとも可愛らしく、心が温かいもので満たされていくような気がします。

画像:白ちゃんよりだいぶ小さいけれどもお兄ちゃんの黒ちゃん(撮影:桃配伝子)

丹生川神社下社の宮司皆見元久さんの著書『心の荷物を下ろす場所』という表現がぴったりなところだと思いました。

白ちゃん、黒ちゃんがいつまでも丈夫で元気で穏やかに暮らしていけますように。

参考:
丹生川上神社 公式サイト
奈良県吉野郡下市町役場 公式サイト
丹生川神社下社 facebook

© 草の実堂