2023年度の「農業」倒産77件、年度最多を更新中 コストアップ、人手不足等で新興企業の倒産が目立つ

2023年度(4-2月)「農業の倒産動向」調査

2023年度の「農業」の倒産は、2月までの累計が77件に達した。すでに過去最多だった前年度(4‐3月)の76件を上回り、年度別では過去最多を更新中だ。
円安や飼料・肥料高、後継者不足に揺れる「農業」の倒産は、米・野菜・果樹作などの耕種農業が48件(前年度比14.2%増)で最も多く、次いで養鶏や養豚、肉用牛生産などの畜産農業が22件(同21.4%減)だった。

負債総額は142億2,800万円で、前年度(4‐3月)に比べ83.6%減と、6分の1にとどまっている。前年度は飼料価格の高騰や、伝染病発生による家畜の殺処分を発端に畜産大手の倒産が相次いだが、2023年度は負債10億円以上の大型倒産が3件(前年度15件)と減少したことが主な要因だ。一方、負債1億円未満の小規模倒産は48件(構成比62.3%、前年度比11.6%増)と増え、経営体力の乏しい小規模事業者に広がっている。

業歴別では「10-20年未満」の22件(構成比28.5%)が最多。業歴20年未満の新興企業が46件(同59.7%)と約6割を占めている。コロナ禍や燃料・資材高など、経営環境の激変から事業基盤の安定性に欠ける新興企業の行き詰まりが目立つ。産業構造の転換で、国内農業の振興や後継者不足への対応など農業人口の確保が長期的な課題となるなか、農業に取り組む企業の育成にも多様な支援のあり方が求められる。

※ 本調査は、 2023年度(4-2月、負債1,000万円以上)の倒産から、日本産業分類の「農業」(「耕種農業」「畜産農業」「農業サービス業」「園芸サービス業」を抽出し、分析した。


「農業」の倒産 2年連続で最多を更新

「農業」の倒産は、この10年間では2019年度に前年度比65.1%増の71件と急増。背景には後継者難や人手不足、収益低迷など農業の抱える問題が顕在化した。
その後、2021年度はコロナ禍に見舞われたが、コロナ関連支援などで45件と大幅に減少した。2022年度は深刻な燃料高・飼料高でコストアップが収益を直撃し、さらに畜産業で豚コレラなどの伝染病など想定外のリスクが表面化し、大手業者の破たんが目立った。2023年度は、大型倒産こそ減少したが、燃料や飼料の高止まりに加え、コロナ関連支援の縮小による息切れやあきらめ倒産が増加した。小・零細規模の事業者が中心になり、負債総額は142億2,800万円(前年度比83.6%減)と前年度の6分の1に減少している。

【業種別】「野菜作農業」が最多 きのこ類栽培業者が目立つ

業種別(小分類)では、最多が「耕種農業」の48件(前年度比14.2%増)。耕種農業のうち、最多は野菜作農業の37件で突出した。野菜作農業のうち、きのこ類の栽培業者が16件発生した。きのこ類は省スペースの反面、温度や湿度管理が求められるため、燃料費の高騰が経営の圧迫要因となった。このほか、花き作農業が5件、米作農業が3件だった。
次いで、「畜産農業」の22件(同21.4%減)で、養豚業が最多の7件、次いで養鶏業が4件、肉用牛生産業が3件と続く。畜産農業は前年度に飼料や燃料費の高騰、伝染病の広がりなどから件数が大幅に増加し大型倒産が相次いだが、2023年度は反動減からやや落ち着いた。

【負債額別】1億円未満が6割、負債の小型化進む

負債額のレンジ別では負債1千万円以上5千万円未満が最多の27件(前年度比10.0%減)だった。これを含む負債1億円未満が48件(同11.6%増)と増加し、全体の6割を占めた。また、中堅規模の負債1億円以上10億円未満も26件(同44.4%増)と増加したが、負債10億円以上の大型倒産は3件(同80.0%減)にとどまり、前年度の15件から大幅に減少した。前年度は国内有数の鶏卵業者、イセ食品グループや、豚熱の発生で経営が悪化した豚・牛畜産の神明畜産グループなどの大型倒産が相次いだが、2023年度は負債の小型化が顕著となった。

【業歴別】業歴20年未満の新興企業が約6割

業歴別の最多は「10-20年未満」の22件(構成比28.5%)で約3割を占めた。次いで「5-10年未満」の15件(同19.4%)、「1-5年未満」の9件(同11.6%)と続き、業歴20年未満の新興企業が46件(同59.7%)と、約6割を占めた。
小資本で設立したものの、事業計画の見込みが甘かったり、事業基盤が安定化しないうちに経営環境の悪化に見舞われたケースなどが多い。一方、業歴が最も長かったのは新潟県の精米業者(株)MSC(TSR企業コード:200198114)で、業歴136年(創業1887年)に及ぶ。

【形態別】消滅型倒産が増加

形態別では「破産」が最多の64件(前年度比14.2%増)で全体の8割(構成比83.1%)にのぼった。このほか、特別清算の10件(前年度比150.0%増)を含む消滅型倒産が74件(同23.3%増)にのぼり、構成比は96.1%と大半を占めた。
再建型倒産は、民事再生法の2件(同84.6%減)のみで、2社ともきのこ類の栽培業者だった。前年度は鶏卵や畜産の大手業者やそのグループ会社の破綻が相次ぎ、再建型倒産が15件発生したが、2023年度は負債の小型化とともに消滅型倒産が中心となった。

【地区・都道府県別】最多は北海道の6件

地区別では、九州が最多の17件(前年度比21.4%増)で、このうち負債額の最大は(農法)きのこ工房(TSR企業コード:932046258、福岡県、負債6億4,000万円)だった。次いで、東北(同66.6%増)と関東(前年度同数)が同数の各15件、近畿が13件(同7.1%減)、北海道(同20.0%増)と中部(同50.0%減)が同数の各6件、四国が3件、中国が2件と続き、北陸は発生ゼロだった。
9地区のうち、4地区で前年度を上回り、4地区で減少、1地区が同数と、拮抗した。
都道府県別では、最多が北海道の6件で、このうち5件が畜産農業だった。次いで山形県、兵庫県、鹿児島県が同数の各5件、新潟県の4件と続く。農業が盛んな地域を中心に、全国で発生している点が「農業」倒産の特徴といえる。


「農業」は、コロナ禍での需要減に加え、深刻な燃料高、飼料・肥料高、さらに伝染病が追い打ちをかけ、倒産が増勢をたどっている。2023年度は3月の1カ月を残し、年度の過去最多を更新中だ。2023年度は大型倒産は減少したが、高止まりする生産コストに見合う価格転嫁が難しい小・零細規模の事業者が押し上げる傾向が続いている。

農業関連企業は、新たな試みや画期的な農法を事業の核に据えたスタートアップ企業も少なくない。2月までの2023年度で負債が最大となった(有)ワールドファーム(TSR企業コード:282012621、茨城県、破産)は、全国に10カ所以上の農場を展開し、野菜の栽培から加工、販売までの一貫体制を構築。また、行政と連携した農地バンクを活用した耕作放棄地の解消、新規就農者の育成事業などの取り組みで注目を集めた。ところが、コロナ禍での飲食店の休業、休校が広がり、業務用カット加工野菜の需要が急減し、経営に行き詰まった。

専門性の高いノウハウを持ちながら、天候不順や自然災害、伝染病など予見できない事態に晒され、環境変化に対応できないケースも散見される。倒産した企業のうち、業歴20年未満の新興企業が約6割を占めることからも、新たな取り組みほど事業継続が難しいことを示す。
ただ、事業環境は厳しくても、食の安全や地域ブランドの育成、雇用の受け皿など、農業分野にかかる期待は大きい。農業振興や後進の育成が急務となるなか、「農業」の倒産増は日本の食糧自給率にも直結する問題だけに、早急な対応が求められる。

© 株式会社東京商工リサーチ