【今週のサンモニ】怒りを煽りながら禅問答を繰り返す|藤原かずえ 『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。

行き過ぎたキャンセルカルチャー

2024年3月24日の『サンデーモーニング』で印象に残ったのは、個人の倫理を社会の道徳であるかのようにヒステリックに振りかざす朝日新聞論説兼編集委員の高橋純子氏のコメントでした。高橋氏は、政治資金問題で自民党を徹底的に非難しました。

高橋純子氏:処分をしたからといってけじめにはならない。厳しい処分だとか、大量処分だとかいうことで、世論を納得させようとするんでしょうけど。

高橋純子氏

高橋氏の「処分をしたからといってけじめにはならない」というコメントは、日本の行き過ぎたキャンセルカルチャーを象徴する言葉です。処分はけじめのために行なう行為であり、それが政治家のけじめとして適正であるか否かを判断するのは、高橋氏ではなく国民です。

公共の電波を利用するテレビ番組が、自民党が処分をする前から、結論ありきで処分を無価値化するのは極めて傲慢であり、危険なことです。

ジャーナリズムではなく悪質なプロパガンダ

高橋純子氏:じゃあ本気で処分するなら、選挙で非公認にしたところに対抗馬を立てるのかと。そこまでしなければ、本来処分をした、党員資格を停止した、選挙でも非公認にしたという処分の実質的な意味はなくなる。党員資格を停止したって、半年して一年経ったら復党するということも十分可能なので、そこまで本気でやるつもりがあるのか。

高橋氏の主張はテレビ番組が公人を罰する私刑に相当します。

公人を政治的に罰する権利があるのは有権者であって、テレビ番組ではありません。「対抗馬を立てなければ処分の実質的な意味はなくなる」という判断基準は、高橋氏個人のものであり、公共の電波を利用して自民党に強要することは放送の私物化です。

有権者は、それぞれ異なる価値基準を持っており、党員資格停止を妥当と考える人もいれば、非公認を妥当と考える人もいるはずです。政策が一致する政治家に対して、懲罰目的で無理やり別の候補者を立てるのは、有権者の意志の反映という観点からは必ずしも合理的な判断とは言えません。有権者が自民党の処分に不服であれば、投票行動で示せばよいのです。

有権者の判断基準を統制する放送は、ジャーナリズムではなく、悪質なプロパガンダです。

高橋純子氏:岸田氏はできるはずがないと思うが、じゃあ解散となったときに、問われているのは、私たち主権者国民だ。こんな処分で、あれだけの裏金を作っておいて、こんなことで私たちが納得できるのか。解散を受けて立つくらいの気持ちで主権者国民が問われていると強く言いたい。

この発言は、心理学でいう【感情的恐喝 emotional blackmail】と呼ばれるものであり、相手に不合理な罪悪感を持たせて無制限に不相応な行動を強要するものです。公共の電波を使った国民操作は、プーチンや習近平がやっている大衆操作と変わりません。

テレビによる国民支配

なお、高橋氏は怒りを露わにして自民党を強い言葉で攻撃していますが、これは【怒りに訴える論証 appeal to anger】というプロパガンダのテクニックです。

人間はリスクに向き合うと怒りの感情を持ちます。論者が怒りを示しながら自説を主張する時、第三者は、論者が当事者意識をもってリスクに向き合っているように認知し、論者の主張に一定の合理性があると錯覚します。

怒りに訴える論証|メディアリテラシー

この手法は、ヒトラーが演説の際に多用したものであり、現在でも日本の国会やテレビのワイドショーで多用されています。司会者を含めた出演者が互いに大声で罵り合う『朝まで生テレビ』や某新聞記者がヒステリックに攻撃的質問を投げかける官房長官会見はその典型と言えます。コメンテーターの松原耕二氏もこれに続きます。

松原耕二氏:国民の怒りをどれだけ持続するかということに尽きる

国民の怒りをテレビがコントロールするような社会は極めて危険です。政治資金問題で国民が怒るのは自然なことですが、テレビがその感情をかくあるべしと縛ることは国民支配に他なりません。

専制国家批判していたはずが……

さて、番組後半の「風をよむ」のテーマは「ロシアは何処へ」でした。専制国家を批判するはずが、いつの間にか日本に説教しているというのがこの番組のあるあるです。

高橋純子氏:なぜロシアで長期政権が可能になっているかというと、2020年に憲法の改正が行われて、本来2024年まで、それ以降は続けられなかったはずが、憲法改正によって任期延長が可能になった。それは、年金水準の維持とか国民受けのよい200項目の条文を一括抱き合わせにして賛成か反対か、そして争点隠しして、任期延長に関してはほとんど報道されないまま憲法改正が行われた。

権力者を縛るはずの憲法をこうやって変えられて長期政権を築かれて行くことについては非常に警戒しなければいけない。私たち日本も、同じように。でも、かなり絶望的な状況だけど、何かが変わると信じているという言葉があったので、私たちもそういう思いに連帯して、やっぱり戦争を利用する憲法を都合よく変えていく独裁体制から引き出すべき教訓を日本に住む私たちもよく見ておかなければならない。

結局「ロシアは何処へ」というテーマは何処へという感じで、高橋氏は臆面もなく、日本の憲法改正阻止のプロパガンダを展開しています。

日本の憲法改正の内容に触れることなく、憲法改正ははなから恐ろしいものであるかのように認知させる【恐怖に訴える論証 appeal to fear】で日本国民の感情を統制するのは反則です。

あえて言えば、『サンデーモーニング』こそが、国民から議論を奪うプーチンのような存在であることを知っておくことが重要です。

涌井雅之氏の禅問答を見てみましょう

ところで、この日コメンテーターとして久々に登場した涌井雅之氏も、寺島実郎氏と同様、禅問答を繰り返すことで知られています。

換喩を多用して限りなく意味不明に発散していく寺島氏の禅問答に対して、涌井氏の禅問答は、説明のない理念の羅列と根拠のない見解の羅列から構成され、反論の可能性が皆無という特徴を持ちます(笑)。

ちょっとだけ詳しく見ていきたいと思います。

涌井雅之氏

涌井雅之氏:プーチンを見ているとトランプを想い出す。それというのも内なるプーチンと内なるトランプというのが我々の中にある。

いきなりプーチンからトランプを想い出す涌井氏ですが、その根拠は「内なるプーチンと内なるトランプというのが我々の中にある」ということのようです。そう言われても、人それぞれ心像は違いますし、思い当たることもありません。残念ながら、まだまだ修行が足りないようです。

涌井雅之氏:すなわち、感情と理性をどういうふうに判断したらよいのか、同調圧力にどう安易に妥協したらよいのかということが…

涌井氏によれば「内なるプーチン」「内なるトランプ」というのは、どうやら「感情と理性をどういうふうに判断したらよいのか」「同調圧力にどう安易に妥協したらよいのか」という問いのことのようですが、如来や菩薩でもない限り、このような脈絡もない悟りを開くことは困難であると考えられます。またその問い自体がかなり難解な禅問答となっています。

涌井雅之氏:やっぱり、ポピュリズムと民主主義の境目というのが非常に曖昧になって、どうしてもそちらの方に流されてしまう傾向が非常に世界を危険にするのではないか。

ここで「ポピュリズム」とは治者が被治者に社会権を与える代わりに自由権を制限する全体主義という政治イデオロギーのことです。

一方「民主主義」とは国民が治者となって国民自身を被治者として支配する政治体制のことです。

政治イデオロギーと政治体制という明らかに異なる概念の「境目が曖昧」とするのは何を言いたいのでしょうか。どういうメカニズムで「世界を危険にする」のか、これ自体も禅問答であるかと思います。

涌井雅之氏:プーチンのこれからというのはますます悪い方向に行くのではないかという予見があるので辛い。

その「予見」は誰の予見なのかよくわかりませんが、「悪い方向に行く」ので「辛い」ということだけはなんとなくわかりました。

結局、何もわかっていないのに、なんとなくわかったようなつもりになってしまうところは、寺島氏の禅問答と同様、しびれるところと言えます(笑)

なお、私にとっては、涌井氏を見ていると寺島氏を想い出します。それというのも、禅問答の使い手として「内なる涌井氏」と「内なる寺島氏」というが私の中にあって、それはまさに、彼らの感情と理性をどういうふうに判断したらよいのか、彼らの同調圧力にどう安易に妥協したらよいのかということかと思います(笑)

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さて、何の予告もありませんでしたが、次の3月31日の放送回で関口宏氏が番組を降板するはずです。

これで旧来の『サンデーモーニング』が終わり、新しい時代が到来するのでしょうか、それとも相変わらずのプロパガンダ放送が継続するのでしょうか。このワンダーランドにどのような運命が待ち受けているのか注目するところかと思います。

藤原かずえ | Hanadaプラス

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