鹿児島大学大学院の共同研究グループは、光遺伝学的手法と掻痒・疼痛モデルマウスを用いた実験により、痒みと痛みを逆方向に制御している神経回路を明らかにした。
痒みと痛みは互いに共存しづらい感覚であり、痛みを強く感じている時は痒みの感覚が小さくなるが、痒みを強く感じている時は痛みの感覚が小さくなる。しかし、この痒みと痛みの相互作用における脳内の神経制御機構についてはほとんど分かっていなかった。
今回の研究では、脳の特定の神経細胞活動を操作できる光遺伝学的手法と、急性の掻痒・疼痛モデルマウスを用いて、脳視床下部のオレキシン産生神経細胞（オレキシン神経）が、痛みは抑制する一方で痒みは促進させるという、2つの感覚を逆方向に制御している神経であることを明らかにした。
オレキシン神経は視床下部から脳の様々な領域に投射し神経回路を形成することで多様な機能を担う神経であると知られていた。今回の研究ではその中でも特に視床下部から中脳水道灰白質へと投射する神経回路が、痒みと痛みの相反的な制御に重要と判明した。
さらに、臨床現場に見る病的な痒みを反映した慢性掻痒モデルマウスを用いた実験により、オレキシン神経が慢性掻痒の病態悪化にも寄与していることを明らかにした。視床下部オレキシン神経が慢性掻痒治療法開発の新たなターゲットになる可能性が示唆される。
今回の研究により、なぜ痒みと痛みが互いに打ち消し合うという不思議な相互作用を持つ感覚であるのか、という疑問に対して、その答えを担う神経制御機構の一端が解明された。これにより、新たな視点からの鎮痛薬や鎮痒薬の新薬研究開発につながることが期待されるとしている。
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