実写版『【推しの子】』黒川あかね役に抜擢 茅島みずきが“天才女優”にハマる理由

実写版『【推しの子】』が、2024年冬にPrime Videoでドラマシリーズが配信、東映配給で映画が劇場公開される。

赤坂アカ(原作)と横槍メンゴ(作画)が『週刊ヤングジャンプ』で連載している漫画『【推しの子】』(集英社)は、芸能界を舞台にしたサスペンスストーリー。

2023年にアニメ化されたことで人気が爆発し、YOASOBIの歌う主題歌「アイドル」は国内外で大ヒットした。その勢いに乗って今年は配信ドラマと劇場映画が公開される。

櫻井海音、斎藤なぎさ、齋藤飛鳥、原菜乃華、あのといった旬の若手俳優を揃えたキャスト陣にも話題が集まっているが、中でも一番注目なのが天才女優・黒川あかねを演じる茅島みずきである。

昨年、学園ドラマ『最高の教師 一年後、私は生徒に■された』(日本テレビ系)に出演し、大きく注目された茅島は若手女優のホープ。筆者が彼女の存在を初めて意識したのは、2020年に放送されたドラマ&ドキュメント『不要不急の銀河』(NHK総合)だった。

『不要不急の銀河』は新型コロナウイルスが世界中で猛威を振るっていた時期に作られたスナックを舞台にしたドラマだ。茅島が演じたのは、17歳の内にファーストキスがしたいと迫ってくる恋人に対して、少し引いた距離感で付き合っている女子高生の柚木夕香。

二人のやりとりは若いカップルならではの微笑ましいものだが、三密とソーシャルディスタンスが激しく叫ばれていた時期の放送だったため、マスクをつけた夕香が彼氏との距離を測っている様子がとても同時代的なものに感じた。

また、『不要不急の銀河』はドラマ放送前に、コロナ禍でドラマ制作をおこなう様子を記録したドキュメンタリーを放送する2本立ての構成で、茅島はドキュメンタリーパートのナレーションも担当していた。

ナレーションの声の主が明かされないままドキュメンタリーが始まり、途中で茅島が登場して自分が声の主だと明かす見せ方となっていた。そこで初めて観た茅島の外見が、声から想像していた幼い印象とは正反対の、手足がスラッと伸びた大人びた姿だったことは今でも覚えている。

ドキュメンタリーは当時16歳でコロナ禍に上京した新人女優・茅島みずきの記録にもなっており、こんな時期に上京して女優としてやっていくなんて、これから大変だろうなぁと心配したが、その後、茅島は『ここは今から倫理です。』(NHK総合)やNHK連続テレビ小説『おかえりモネ』といった話題のドラマに次々と出演し、強い存在感を示すようになった。

高身長で手足がすらっと長く、大人びた表情を見せる茅島には、立っているだけで絵になる強い存在感がある。そのため学園ドラマに出演して同世代の俳優と並ぶととても目立つが、いざ台詞を口にすると年相応の普通の女の子の喋り方で、大人びた外見との落差もあってか、年齢以上に幼く見える瞬間がある。この外見と声質の落差が、彼女の芝居を面白くしている。

大分発地域ドラマ『君の足音に恋をした』(NHK総合)と、民放ドラマ初主演となった『卒業式に、神谷詩子がいない』(日本テレビ系)で茅島は、大人びて見えるが内面は普通の女の子を演じた。この2作は珠玉の青春ドラマで、どちらの作品にも茅島がダンスを踊るシーンが見せ場としてあり、彼女の武器である被写体としての美しさを際立たせていた。

一方、『教祖のムスメ』(MBS)で演じた、周囲の生徒たちを妖しい魅力で翻弄する謎の転校生・桐谷沙羅や、前述した『最高の教師』で演じたクラスを混乱に陥れる問題児・西野美月で見せた悪役ぶりは大人びた外見が怪物性を増幅しており、若手女優の中では群を抜いている。そして、もっとも鮮烈だったのが、2023年に放送された『明日、私は誰かのカノジョ シーズン2』(MBS/TBS)で演じた、大学を休学して高級ソープランドで働く伊織だ。

をのひなおの同名漫画(Cygames)をドラマ化した本作は、レンタル彼女やパパ活を通して金を稼ぐ女性を主人公にしたオムニバスドラマだ。

茅島が演じる伊織は風俗で働くお金こそ全てと考えている女性だったが、たまたま客としてやってきた配信系アイドルグループの青年に恋をして付き合うことになり、その結果、さまざまなトラブルに巻き込まれていく。

伊織は面白いキャラクターで、対話する相手によって話し方や表情に微妙な変化があることで、表面的には「お金が全て」と考える人間を信じない魔性の風俗嬢に見えるのだが、自分で思っているほど、ドライな人間ではなく、だからこそ配信系アイドルの青年との恋愛関係にハマっていく。劇中で描かれる彼女の変化はとても自然かつ人間味溢れるもので、伊織の中にある多面的で複雑な心情が、茅島の演技によってシームレスに結びついていた。

茅島が演じた悪役系ヒロインの芝居には、正体を欺くために嘘の自分を演じる場面が繰り返し登場する。

『【推しの子】』の黒川あかねも“天才女優”という演じる存在だ。彼女は、独自のプロファイリング技術によって演じる役を分析することで、心身ともに役になり切ることができる天才女優で、窮地に追い込まれた彼女が演技の力で危機を乗り越える姿が原作漫画の見せ場となっている。

女優を演じるということは「何かを演じている存在について演じる」という二重の演技が求められるため、難易度がとても高い。その一方で、演技の深淵に最も深く踏み込むことが求められるため、役者にとって最もやりがいが感じられる役なのかもしれない。

そんな黒川あかねの天才的芝居を茅島がどう演じるのか、今から楽しみだ。

(文=成馬零一)

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