『ブギウギ』最終週、脚本家に聞く「書きがいあった」スズ子の引退理由、草彅剛の「トゥリー」にこだわり

〝ブギの女王〟と称され、戦後の日本を照らした歌手・笠置シヅ子をモデルとしたヒロイン・福来スズ子(趣里)の半生を描いたNHK連続テレビ小説『ブギウギ』が最終週を迎えた。フィナーレを前に、同作の脚本を担当した足立紳氏が、娯楽映画研究家・オトナの歌謡曲プロデューサーの佐藤利明氏と都内でトークショーを開催し、その裏話や作品への思いを語った。(文中一部敬称略)

足立氏は1972年生まれ。2014年公開の映画「百円の恋」で日本アカデミー賞最優秀脚本賞、自身が監督した映画「喜劇 愛妻物語」(20年公開)で東京国際映画祭最優秀脚本賞を受賞するなど第一線で活躍中だ。その足立氏にとって〝朝ドラ〟の仕事は初。櫻井剛氏との2人体制で、全126話のうち、85話(17週分)を執筆した。「笠置さんは波乱万丈な人生を送られてきた方。自分が面白いと思うものを提示した」という。

佐藤氏は「脇役が面白い。でたらめな人にも居場所がある感じを『アホのおっちゃん』(岡部たかし)や『ゴンベエ』(宇野祥平)らで出している」と評し、足立氏も「そういう人がいない世の中にはしたくないなという思いはありました」とうなづいた。

また、茨田りつ子(菊地凛子)のモデルである淡谷のり子について、足立氏は「当初は〝モノマネの審査員の人〟としか知らなかったのですが、いろいろ文献を読ませていただくと、そのキャラクターはかなり強い」と指摘した。

そして、主役を語った。

足立氏は「『ブギウギ』は趣里さんの素晴らしさに尽きると思います。オーディションの時から演技の表情が本当に愛くるしくて、『この方がスズ子を演じてくれたら相当、愛されるんじゃないかな』と思っていました」と振り返る。

イベント後、記者が、代表曲「東京ブギウギ」が主題となった第91話について質問すると、足立氏は「スズ子の人生を脚本家として書いているというより、伴走者としての気分になっていた。大切な人を亡くしても明るくたくましく生きているスズ子が初めて羽鳥先生に『自分のために曲を作って』と自ら頼む場面、あの時、スズ子は立ち上がりたかったのだと思います」とターニングポイントを解説した。

25日放送の第122話で、スズ子は歌手引退の意志を恩師の作曲家・羽鳥善一(草彅剛)に伝えた。足立氏は「スズ子の引退理由は書きがいがあった。また、水川あさみさんが演じた育ての母・ツヤさんが第1週で『義理と人情を大切にしなさい』という言葉を残しましたが、『この時代の義理と人情って何だろう』という思いも最終週の台本に書いたつもりです」という。

足立氏は主要人物・羽鳥への思いも語る。

「(モデルとなった)服部良一さんは、新曲ができたら深夜だろうが早朝だろうが、家族を起こして聴かせていたらしくて、僕も台本を書き上げると、読んでもらいたくて、寝ている妻を起こし、すごく怒られるんですけど、同じだなと思って。(良一の孫で)音楽担当の服部隆之さんと食事させていただいたんですが、無理のない『にこやかさ』がすごく素敵で、お二人を足して2で割らない感じで書きました」

羽鳥を演じた草彅に「こだわりのセリフ」を託した。

「(曲が始まる前のカウント)『トゥリー・ツゥー・ワン・ゼロ』は唯一、『ブギウギ』の中で変えてほしくないセリフでした。『スリー』も『トゥリー』で(笑)。台本を出した時、音楽考証の先生から『当時の音楽家は、イチ、ニ、サン、ハイ…です』という答えだった。それで、隆之さんにイチかバチか、『いかがでしょう?』と聞いたら、『面白いじゃない』って軽くOKしてくださって。なぜ『トゥリー』か、大した理由はないですけど、『セッション』という(14年製作の米国)映画が好きで、先生役がモノマネしたくなる感じだったので、そうなるといいなと思って。草彅さんは見事に演じてくださって、思い通りの『トゥリー』でした」

ネタは尽きない。会場の最後列では、所属事務所「株式会社TAMAKAN」の社長である妻の晃子さんが見守っていた。

晃子さんは大仕事をやり遂げた夫に「100円ショップのバイトも週1で、それも行きたがらなかったのに、よくできました。みなさんのおかげです」と感謝し、「22歳で映画学校を出て(一本立ちした)『百円の恋』は40過ぎ。ずっと潜伏していたので、ようやくというか、これからですね」と激励する。その人生は昨秋出版された小説「春よ来い、マジで来い」(キネマ旬報社)にも反映されている。

足立氏は「これだけ長く、たくさんの登場人物を書いてきて、最終週の台本を渡す時に初めて寂しい気持ちになりました」と感慨を込めた。ちなみに最後の原稿を渡したのは「昨年10月、放映が始まってすぐの頃だった」という。それから半年。最終回(29日放送)までの内容が視聴者に共有されることで〝朝ドラの仕事〟は完遂する。今後に向け、足立氏は「また機会があればやってみたいです」と再登板にも前向きだった。

(デイリースポーツ/よろず~ニュース・北村 泰介)

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