【袴田さん再審】検察・弁護双方専門家の証人尋問…最大争点「5点の衣類」の血痕の色めぐる主張は(静岡地裁)

(佐野 巧 記者)

「第10回公判に向け、雨が降る中、弁護団が裁判所に入ります」

最大の争点とされている「5点の衣類」の血痕の色問題。25日から3日間、専門家による証人尋問が行われ、再審は大きな山場を迎えます。

25日 朝、浜松市内から静岡地裁へ向かう袴田巌さんの姉ひで子さん。

(袴田 ひで子さん)

「検察側の証人尋問、何を言うかしっかり聞いてみたい。弁護側の証人は前回高裁で聞いている、たぶん同じことを言うだろう。検察の証人尋問は蹴散らしてくれると思う」

1966年、旧清水市で一家4人が殺害された事件で死刑が確定した袴田巌さん。

2023年10月から始まった再審公判で、検察側は「犯人はみそ工場関係者の袴田さんで、犯行着衣の5点の衣類をみそタンクに隠した」などと袴田さんの有罪を主張。一方、弁護側は「事件は強盗殺人ではなく、犯人の恨みによる殺人で、複数人による犯行」などと指摘し、無罪を主張しています。

両者が全く異なる犯人像を描く中、25日の公判は「5点の衣類」の血痕の色をめぐり、検察側の法医学者の証人尋問が行われました。

事件から1年2か月後に事件現場近くのみそタンクから発見された「5点の衣類」をめぐっては、弁護団は衣類についた血痕に「赤み」が残っていて不自然と主張。弁護側は独自のみそ漬け実験や専門家の鑑定書をもとに「血痕を1年以上みそ漬けすると黒く変色する」と訴えました。

そして2023年3月、東京高裁が弁護側の主張を認め、再審開始を決定しました。

この決定を受け、検察側は、法医学者7人による「共同鑑定書」を作成。それをもとに「みそタンク内は酸素が少なく、化学反応が十分に進まなかった」などと説明し、血痕に「赤みが残る可能性がある」と主張しています。

25日の公判では、検察側が申請した、久留米大学の神田芳郎教授と九州大学の池田典昭名誉教授の証人尋問が行われました。

神田教授は「弁護側は、みそタンク内の酸素が乏しい環境を考慮していない」と指摘。弁護側の主張を認めた東京高裁に対しても、「科学的なリテラシーがない」と指摘しました。

一方、法医学者の池田名誉教授は、弁護側の鑑定書について、1年2か月みそ漬けされた血液が黒く変化することは肯定しつつも、弁護側の主張する「衣類についた血痕に赤みが残らない理由」について、「みそタンク内の酸素濃度や乾燥の程度など、検討が不十分」であると指摘しました。

専門家による証人尋問は、25日から3日間行われる予定で、最終日の27日には検察側、弁護側の法医学者らに対し同時に尋問が行われます。

【増田 秀行 弁護士によるスタジオ解説】

再審公判では有罪の決め手となった証拠「検察が犯行着衣とした5点の衣類」が本当に犯行着衣だったのかが最大の争点となっています。争点となった理由は「衣類の血痕の色」です。5点の衣類は、事件の1年2か月後にみそタンクから見つかり、衣類についた”血痕の色”は一定の赤みが残っていました。

弁護側と検察は、それぞれ独自に血痕がついた衣類を長期間みそにつける実験を行い、弁護側は「血痕は黒くなる」犯行着衣はねつ造されたと主張。検察側は「赤みが残ることはある」と主張しています。

再審開始を決めた東京高裁は、弁護団の主張を認めました。

25日から3日間は、”血痕の色”を鑑定をした法医学者などの専門家が法廷で証言します。25日は検察側、26日は弁護側、最終日は両方に対して、血痕の色が変わるメカニズムなどの尋問が行われます。

Q:この3日間が山場と言われていますが、どのような点に注目していますか?

(増田英行弁護士)

「5点の衣類が犯行と袴田さんを結びつける最重要、かつ唯一の証拠と言われています。特に5点の衣類の血痕の色に関しては、犯行着衣は犯人のものなのか?それともねつ造の証拠なのか?ここに関わる重要な証拠を判断する争いをやっている」

25日の証人尋問では、検察側の法医学者が証言法医学者どのようなことを証言したのか、まとめてお伝えします。

検察の共同鑑定書というものがありますが、その鑑定人の一人である法医学者の証言です。

東京高裁の再審開始決定に対して…

・科学的な判断をしていない

・科学的リテラシーがない と指摘しています。

その理由として、

・”赤み”は見た人の主観があり、あやふやなもの

・赤みが残らないことを証明するのは科学的に不可能、一例でもあったらだめになる

・弁護側は血液の変化を検証している。血痕の場合は固まって反応が進みづらいなど、検証が不十分な点があると指摘しました。

Q:検察側の専門家の尋問の内容について、どのように感じましたか?

(増田 英行 弁護士)

「検察側の学者の言うことは、つまるところ、全てのケースに当てはまる科学的真理とは言えないということを、いろいろな側面から主張している。確かに、科学者の知見としては、当然の意見だと思います。ただ、ここは訴訟で、あくまで科学的真理を追究する場ではない、有罪無罪を判断するための立証・証明がどこまで行われたのか、どこまでの責任があるのかという観点から必要な証拠を出すことが大切。ここで重要なことは、検察側の学者も一般論としては、血痕は酸化して赤みが無くなっていくという一般論については否定できないと認めていることに重要なポイントがある。そうだとすると、検察が有罪であると立証するためには、むしろ、赤みが残るケースはこういう場合なんだということを、具体的かつ論理的に証明していかなければいけないということになる」

Q:検察側の立証というのが何よりも重要なポイントということですね。

(増田 英行 弁護士)

「具体的な主張・立証を検察側で積極的にどこまでできるのか、最も注目するポイントになってくる」

Q:今後の公判の中ではそれが出てくると?

(増田 英行 弁護士)

「そうですね、25日に検察側の証人を出しましたが、26日、27日の証人尋問の中で、そういった具体的主張がどこまで出てくるのかというのが見どころかと思う」

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