おでこの骨やまぶたがない状態で生まれた長男。医師も想像していなった症状が次々と明らかに。夫の言葉で、ずっとそばで応援し続けると決意【体験談】

まぶたがないため、目を保護する方法を模索していました。

妊娠22週目でおなかの赤ちゃんの頭部に異常があると指摘された星野孝輔さん(27歳)、星野しほさん(33歳)夫婦。赤ちゃんは頭蓋骨が形成されず、おでこの骨やまぶたがない状態で生まれてきました。赤ちゃんは「未来をその手でつかんでほしい」という思いから「未来(みらい)」と名づけられます。未来くんのことをたくさんの人に知ってもらいたいと、YouTubeチャンネル「星のミライChannel」で日々の様子を発信している母親のしほさんに、出産後の未来くんへの思いを聞きました。
全3回のインタビューの2回目です。

生まれた長男にはまぶたがなく、眼球の表面が丸出しの状態。妊娠22週で赤ちゃんの頭部に気になることがあると指摘され・・・【体験談】

出産後に初めて判明する赤ちゃんの症状。予想もしなかったことが次々とわかっていく

生後3カ月の未来くん。まぶたがなく目がむき出しのため、眼球の乾燥防止のため目にラップを貼っています。

――出産後、赤ちゃんの状態についての説明はありましたか?

しほさん(以下敬称略) 出産前の予定では、帝王切開での出産後、夫が先生から赤ちゃんの様子について説明を受けてから私と会うということになっていました。でも赤ちゃんの処置に5時間以上がかかっていたため、夫は帝王切開後に状態が落ち着いた私のところへ先に来てくれてました。そしてその後やっと、赤ちゃんに会いにNICUに行けることになりました。

夫は、NICUから赤ちゃんの写真や動画をたくさん送ってくれました。

――赤ちゃんの写真や動画を見たときはどんな気持ちでしたか?

しほ 両目がかなり離れていることも、鼻やあごが小さいことなども、出産前からわかっていたはずでした。でも、夫が送ってくれた写真や動画を見て改めて認識する思いでした。
「やっと会えた」といういとおしさもありつつ、まぶたがない赤ちゃんの目がむき出しの状態のお顔は、ちょっとインパクトのある外見なんです。写真や動画を見ると「これから、大丈夫だろうか?」と、不安になりました。

そして、夫がどんな気持ちでいるのかも心配になりました。夫はいつも前向きでスーパーポジティブな人です。これまでもずっと私を支えてくれましたが、赤ちゃんをかわいくないって思っていたらどうしよう、やっぱり育てるのは無理だと思っていたら・・・と、いろいろ考えてしまいました。

でも、夫は「まぶたはなかったけど、しほに似て、すごくかわいかったよ!俺としほの子なんだから、絶対この子は幸せになるよ」と、とてもうれしそうなLINEを送ってきてくれました。その前向きさにとっても励まされ、1人で泣いてしまいました。

こんなポジティブな夫の言葉に、「夫と一緒だったら、きっと赤ちゃんと3人で幸せな家庭が作れる。ベストを尽くしていこう」と覚悟を決めることができました。赤ちゃんの名前は、明るい未来を作ってほしいと願いを込め「未来」と名づけました。

――未来くんが生まれてから、改めてわかった症状などはありますか?

しほ まず、妊娠中に当てはまると思っていた「トリーチャー・コリンズ症候群」、「ピエール・ロバン症候群」ではないことがわかりました。そして、出産してわかった症状が思った以上に多かったです。

具体的な症状としては、目と目が離れ、まぶたが完全にありませんでした。その時点では目が見えるかどうかはわからない状態だったようです。
呼吸も口から気道への入り口が狭く、自力で呼吸できなかったため、声帯より下にある気管を切開したとのことでした。肺が通常より小さく、肋骨の形が少々悪いと指摘されました。おでこのあたりが少しぶよぶよしていて、頭蓋骨がどうなっているかわからない、精巣が小さめで左の精巣はあるかどうかわからないなど、生まれてからわかったさまざまな症状がありました。

退院は早くても半年後になるとのことでした。妊娠中に思っていた以上の症状があり、動揺してしまいました。

出産翌日、改めて対面。「私の子だ、かわいいな」と思った

搾乳した母乳は冷凍してストックしていました。

――出産後、しほさんが未来くんに実際に会ったのはいつですか?

しほ 出産翌日です。昼食後、看護師さんに「赤ちゃんに会いに行きますか?」と聞かれました。でもそのときは、ちょっと帝王切開後の痛みがあるので様子を見ますなどと言って、少し時間をおいてもらいました。心の準備ができていなかったんです。その数時間後に、緊張しながらNICUに会いに行きました。

未来はたくさんの管につながれて、むき出しの目がまぶしくないようにガーゼをかぶせられた状態でした。看護師さんがガーゼを取ってくれて、顔を見せてくれました。顔を見て最初に芽生えたのが「あ、昨日私が産んだ子だ。かわいいな、いとおしいな」という感情だったんです。

自分自身がそう思えたことに、とてもほっとした気持ちもありました。もっと早く来てあげればよかったとも思いました。

ただ、病室に戻って1人になるとやっぱりいろいろ考えてしまうんです。「今後大丈夫かな?イメージしていた妊娠・出産とだいぶ違う、思っていた赤ちゃんとも違う」と、悩んで落ち込んでしまいました。

そんなとき、夫が面会に来てくれたんですが、夫の前で大泣きしてしまいました。そのとき抱えていた不安を泣きながら伝えると、夫は優しい笑顔で聞いてくれました。

「未来は特別な存在。僕たちに貴重な経験をさせてくれる」という夫の言葉が力に

生後2カ月で初めての親子3ショットです。

――不安でたまらないしほさんを、夫さんが支えてくれたんですね。

しほ 本当にそのとおりです。夫は「未来がわが家に来てくれたことで、僕たちも初めて知るいろんな感情があるはず。きっと僕たちを成長させてくれる特別な存在だよ」と明るく話してくれました。

夫はほかの人だったら心が折れてしまうような局面でも、ネガティブな感情にとらわれません。実際に起きた出来事を事実としてとらえ「こういうことが起きたんだ、じゃあこんなふうに動いてみよう」と臨機応変に行動を変え、常に前を見ているんです。未来を妊娠する前からそんなタイプの夫だとはわかっていましたが、本当に前向きだな、と強く感じた瞬間でもあります。その前向きさに、支えられています。

――帝王切開後、しほさん自身の体調はどうでしたか?

しほ 順調でした。鎮痛剤は飲んでいましたが、術後5日目にはかなり動けるようになっていました。ほかの帝王切開した方たちと同じように、未来より先に7日目には退院することになりました。

出産したその日から搾乳をしていましたが、入院中は、しょっちゅう未来に会いに行っていて、母乳も届けていました。NICUのフロアは、消毒液のような独特のにおいがするんです。最初はそのにおいをかぐと、少し気持ちが重くなったのですが、入院後半になると、安心するにおいに感じられました。「ここに未来がいるんだな、もうすぐ会える」と思えて、ウキウキしていました。

――未来くんはどんな様子でしたか?

しほ 気管切開をしていたので絶対安静の状態で、動いたら危険ということで、最初は鎮静剤の入った点滴をしていてほとんど眠った状態でした。口でミルクを飲めるかは慎重に判断しないといけないと言われていました。口からミルクが飲めず、経管栄養が必要な子は、通常は鼻から栄養を入れるのが一般的なのですが、未来の場合は頭蓋骨の状態がわかっていなかったので、鼻から管を入れ、万が一脳などに管が刺さってしまうのは危険なため、口から胃に挿管し、母乳を入れていました。

生後16日目で抱っこしたわが子はあたたかくて小さい、いとおしい存在だった

初めての抱っこ。あまりにあたたかくてしほさんは思わずうるうるしたとか。

――退院後はどんな毎日を送りましたか?

しほ 7日目に私が先に退院し、1日休んで翌々日から未来に会うために病院に通いました。未来が入院している病院は、自宅から高速を使って1時間くらいかかるところにあります。育休を取得した夫に運転してもらって行っていました。ただ、コロナ禍のピークは過ぎていたものの、感染対策が厳しい病院だったので、2人同時に面会はできないルールでした。

そこで交代で面会して一緒に帰る生活を2カ月くらい続けました。その後、私が週に5~6回、夫が週に1~2回くらいの頻度で通っていました。
一度面会に病院に行くと、私はだいたい5~6時間は滞在していました。途中で2回くらい搾乳していたので、その時間はあっという間でした。

――面会時は、未来くんに触れることはできたのでしょうか?

しほ 生後16日目に看護師さんから「抱っこしますか?」と初めて聞かれたんです。のどに呼吸器、口に胃管、右足に点滴、左足にサチュレーション測定器といろんな管がついているので、看護師さん2人がかりで準備してくれました。未来は初めての感覚にびっくりしたのかじっと動かないままキョロキョロしていました。初めて抱っこする未来は、温かくて小さくて、思わずうるうるしてしまいました。

生後30日には初めて沐浴もできました。それまではずっと呼吸器がついていて保育器から出るのも大変でした。生後27日ごろから、「人工鼻」という気管切開の穴からの吸気を加湿・ろ過し、たんやせきを減らす手助けをしてくれるものを付け、自発呼吸の練習をしたところ、30分程度であれば自発呼吸も可能に。

そこで、ようやくおふろに入れてあげることができました。未来はおふろが大好きみたいで、ゆっくりお湯に入れてあげると気持ちよさそうにしていました。

医師の説明を聞いた夫は「オンリーワンの子だ!」とポジティブな反応

生後4カ月で撮影したCT結果の3D再現画像です。頭蓋骨の前部分がないのがわかります。

――生まれてからの未来くんはたくさんの検査も受けたと思います。どんな説明を受けましたか?

しほ 未来は、生まれてからCTやMRIなどさまざまな検査を受けました。先生から未来の症状について説明を受けたのですが、(1)「前頭骨」と「頬骨」がまるまる欠損している(2)頬骨が欠損しているため、眼球を支える骨がなく、目が左右下方に流れ、目と目が離れてしまった(3)まぶたが欠損している(4)小下顎症などの症状があるとのことでした。

寝返りを打ったり動き始めたりしたとき、頭蓋骨の欠損がどんな影響を与えるかわからない、ヘルメットを使うとしても、支える頭蓋骨がないので脳が衝撃を受けてしまうかもしれないと言っていました。
当初心配していた左の精巣はその後見つかり、肺も問題なさそうでした。

多くの赤ちゃんを診てきた先生方にとっても前例がなく、見たことがない症状とのことでした。夫は「本当にオンリーワンなんだ!」と言い、今後の治療方針の話も身を乗り出して聞き、やる気に満ちていました。

生後約2カ月でNICUからGCU(回復治療室)に移ることになりました。いろんな症状があるものの、発育自体は順調で元気だったからです。そしてその後、一般小児病棟に転棟することになりました。

生後100日の小さな体で、まぶたの形成手術を

生後3カ月、下まぶたの形成手術後の様子です。動いて目を傷つけないように拘束が。

――未来くんにはまぶたがなかったとのことですが、どんな状態だったのでしょうか?

しほ 上下のまぶたがなく、目を閉じられませんでした。まぶたを動かすための神経と筋肉もないため、自由に目を開け閉めできないんです。するとどうしても眼球が乾燥してしまいます。目の表面が乾くと、眼球にスカスカの穴が開いたような状態になるため、万が一バイキンが入ったときに一気に脳までいってしまう可能性が高いそうです。そのため、ラップにプロペトというワセリン軟こうをつけて目に張り付けていました。ラップだとはがれてしまうのではないかと思ったのですが、看護師さんによれば、この方法がいちばんはがれにくく確実だとのことでした。

眼球内の構造としては必要な組織はそろっていて、問題なく物は見えそうだと言われ、ほっとしました。ただ、脳内の見えたものを受け取る部分が正常に機能するかどうかは2歳近くになって脳派の検査をしないとわからないとのことでした。

眼球そのものや、眼球の乾燥を守るためにはまぶたが大切な役割を果たしていて、目にはまぶたが必要です。
まぶたは形成手術で作ることができるとの説明ではありましたが、年齢的にはもう少し先、2~3歳ごろではないかというのが、先生方の最初の考えでした。
けれど、ラップで保護する以上の管理方法の確立は難しく、さまざまなことを検討した結果、せっかくある視機能を守るために少しでも眼球が守られる範囲が広いほうがいいという判断で、生後100日目に手術をすることになりました。

――具体的にはどのような手術だったのでしょうか?

しほ 眼球保護のため、眼球の露出範囲を減らすための手術が行われました。現状ある機能はなるべく生かし、かろうじて軟骨やまつ毛がある上まぶたには触れず下まぶたを作りました。皮膚がない部分は、未来のおなかの皮膚を移植しました。成功の算段はあったものの前例のない手術ということで、手術中はドキドキしていました。

手術も、そしてその術後も順調で、スムーズに抜糸もできました。手術したことで、目に入る光の量が抑えられるようになったからか、ぐっすり寝てくれるようになりました。ラップを貼り付けた保護は夜間のみで、日中は4回の点眼で過ごせるようになりました。

おなかから皮膚をとったので、下腹部に長めに横一列に縫ったあとがあります。それが私の帝王切開のあとに似ていて、「ママとおそろいになっちゃった」と思いました。

未来は「かわいそうな子」ではない。ずっとそばで応援し続けると決意

生後4カ月で目のガーゼと手の抑制具がはずされ自由が増したころの様子。

――未来くんは今後も手術をすることがあるかもしれません。そのことについてどう思っていますか?

しほ まぶたを作る形成手術は、未来自身の皮膚を移植することで行われました。一般的には鎖骨のあたりの皮膚が色や肌質を使うらしいです。でも、未来は生後3カ月の赤ちゃんで、皮膚が取れる範囲が小さいうえに今後、修正手術を繰り返すことを考えて、なるべく皮膚が多くて今後も取りやすいおなかの皮膚を使ったほうがいいということになりました。
移植された皮膚はゆっくり縮んでいくようで、成長とともに目の開き具合は大きく変わっていくそうです。そうすると乾燥が避けられなくなるので、修正手術をすることになるかもしれません。

そして、まぶただけでなく、これからもたくさん大きな手術をするかもしれません。でも、それも未来の人生の一部であり、乗り越えるべきことだと考えるようになりました。未来は、自分の人生を一生懸命生きています。その姿を見ていると「かわいそう」と思うのは失礼にあたるなと感じています。「かわいそう」という感情って、ちょっと上から目線というか、あわれみが含まれていると思うんです。

私たちは自分の人生を歩み始めた未来を尊重し、いちばん近くでしっかり支えるつもりです。「かわいそうな子」と思うのではなく、「頑張っていてかっこいいよ、ママとパパが一緒にいるからね!」と全力で応援する存在になりたいと思っています。

お話・写真提供/星野しほさん 取材・文/齋田多恵、たまひよONLINE編集部

誕生後、おなかの中にいるときはわからなかった症状が次々とわかってきた未来くん。「かわいそうと思うのは未来くんに対して失礼。彼の人生を尊重し、支えてあげたい」というしほさんの言葉が印象的です。世界でも例を見ない症例とのことですが、元気な姿をたくさん見せてほしいと思います。

「たまひよ 家族を考える」では、すべての赤ちゃんや家族にとって、よりよい社会・環境となることを目指してさまざまな課題を取材し、発信していきます。

星のミライChannel

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●この記事は個人の体験を取材し、編集したものです。
●記事の内容は2024年3月当時の情報であり、現在と異なる場合があります。

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