スイスのメディアが報じた日本のニュース

3月20日、韓国ソウルで行われた米メジャーリーグ(MLB)開幕戦(対パドレス)で、通訳の水原一平氏と談笑する大谷翔平選手 (Keystone/AP Photo/Lee Jin-man)

スイスの主要報道機関が先週(3月18日〜24日)伝えた日本関連のニュースから、2件をピックアップ。要約して紹介します。 ※SWI swissinfo.chでは毎週月曜日、スイスの主要メディアが報じた日本関連ニュースのまとめ記事を配信しています。こちらからニュースレターにご登録いただければ、メール形式で全文をお読みいただけます。 日銀がマイナス金利政策に終止符 日銀は18~19日に開かれた金融政策決定会合で、2016年に導入したマイナス金利政策の解除を決めました。利上げは2007年以来17年ぶり。ドイツ語圏のスイス公共放送(SRF)は「唯一無二の金融政策の実験が終わった」と報じました。 「1980年代のバブル崩壊後の日本ほど富を喪失した国はない」。安倍晋三元首相が2013年に超緩和政策でこの危機を乗り越えようとしたものの、「消費者や経営者のデフレ心理はあまりに根深かった」ため、消費・投資よりも貯蓄が進んだと説明しました。 パンデミックの終焉とウクライナ戦争に端を発する世界的な物価高で、ようやく日本でも物価と賃金上昇の連鎖が期待できるようになりました。しかしSRFは「日本は特殊ケースであり続けるだろう」と続けます。既に物価上昇は鈍化しておりデフレが再発する恐れがあるためで、「さらなる外的ショックがなければ当面はゼロ金利が常態となる」とみています。 さらに「日本にとっての正念場は、国家が財政を賄うためにさらに多くの外国資本を必要とするときに訪れる」と警告します。外国人投資家は低い金利に満足せず、投資を呼び込むために利上げせざる得ないためです。 ドイツ語圏の日刊紙NZZは、逆にインフレスパイラルが起きる可能性に触れました。2024年春闘では労働組合の大幅な賃上げ要求に満額回答が相次ぎましたが、中にはそれを超える賃上げを提示した大企業もありました。そこには深刻な労働力不足という構造的な背景があります。 日本に詳しい経済学者のイェスパー・コール氏はNZZの取材に対し、「日銀の計画がうまく機能しすぎて大きなジレンマに陥る可能性がある」と警鐘を鳴らしました。同氏によると、日本経済を過熱も冷却もしすぎない金利は「2%強」ですが、①膨張した国債の利払い費を押し上げる②既存の変動金利型住宅ローンの返済額が膨らみ、個人消費が低迷する―との理由からです。 イタリア語圏の日刊紙コリエーレ・デル・ティチーノは、日銀が利上げに踏み切ったのは「融資利ざやが圧縮されている銀行や、『ゾンビ企業』がひしめく経済というマイナス金利の代償がある」ためだと分析しました。 そして米連邦制度準備理事会(FRB)や欧州中央銀行(ECB)が利下げのタイミングを探る今、日銀の利上げが円高をもたらすリスクを指摘しました。「円高の中で消費が活性化し賃金上昇が進めば、高齢化のなかで持続可能なインフレを維持するという難題がふりかかる」 同紙は利上げが発表される前日の記事で、一部の銀行では若手銀行員に向け、「金利ある世界」の融資や預金について学ぶ研修が施されていることも紹介しました。20年以上金利がゼロかマイナスだったため、「若い世代は『お金のコスト』が何を意味するのか知らない」と指摘し、ロイター通信の記事を引用しました。(出典:SRF/ドイツ語、NZZ/ドイツ語、コリエーレ・デル・ティチーノ/イタリア語) スポーツ賭博に厳しい光を当てる「大谷事件」 野球が盛んでない欧州では野球のニュースはほとんど話題になりませんが、先週は大谷翔平選手が大きな見出しを飾りました。フランス語圏の日刊紙ル・タンは20日、メジャーリーグ(MLB)開幕にあたり「誰もが大谷翔平に夢中」と題する大型記事を掲載しました。 記事はまず、MLBの開幕戦が韓国で開催される点に着目しました。「日本と韓国は野球大国であることは、米国・カナダ以外ではほとんど誇れることではない」が、1試合当たりの観客数は人口比では日韓はMLBを上回っていると、両国での野球の人気ぶりを説明しています。 ちなみにスイスには野球連盟とソフトボール連盟があり、2023年の国内大会で優勝した「チューリヒ・チャレンジャーズ」のほか、米国のチーム名を模倣したような「ブル・レッドソックス」や「ジュネーブ・タイガース」といった球団もあるそうです。 そのうえで、大谷選手は「真の野球のアイコンであり、多くの人が比類のない現象であると考えている」と紹介。韓国でも称賛され、「日本との歴史的的な敵対関係を覆い隠した」と説明しました。韓国だけでなく本場米国でも大谷選手がさまざまな企業の広告塔となっており、「MLBは、金の卵を産む新しいガチョウから搾り取れるものはすべて搾り取るつもりだ」と伝えています。 こうした華々しい記事から一転、21日には専属通訳の水原一平氏が賭博・窃盗疑惑で解雇された件が報じられました。ル・タンは22日の記事で、事件が「日本のスター選手が持っていた非常に穏やかなイメージを傷つけ、いつも側にいた親しい友人の1人を遠ざけたことに加えて、合法化が比較的進んでいない米国におけるスポーツ賭博の問題に厳しい光を当てている」と解説。 「大谷事件」の影響が野球だけでなく、シーズンを迎えるバスケットボールやフットボールにも及ぶとしました。そして八百長の発生を防ぐためには、不正が証明された事件を厳重に処罰する、賭博そのものを禁止する必要があると指摘しました。 ドイツ語圏の日刊紙ターゲス・アンツァイガーは21日、「日本の野球スター、自身の通訳から強奪される」と報じました。水原氏が当初「大谷氏が借金を肩代わりした」と説明したものの、大谷選手側が「翔平は窃盗の被害者であり、問題を刑事当局に引き渡す」と認識を変えたという経緯も解説しました。 また、水原氏が賭博は違法だと認識していたこと、野球には賭けていなかったと主張したことにも触れ、「しかしこれで水原氏の主張にどんな価値があるかは分かった」と結びました。(出典:ル・タン/フランス語、ターゲス・アンツァイガー/ドイツ語) 【その他、スイスで報道されたトピック】 話題になったスイスのニュース 先週、最も注目されたスイスのニュースは「スイス中銀の9年ぶりの利下げ、予想外の発表に賛否」(記事/日本語)でした。他に、「世界大学ランキングに背を向ける大学たち」(記事/日本語)「米軍へのタイガー戦闘機引き渡し開始」(記事/英語)も良く読まれました。 意見交換 日本語を含む10言語に対応した意見交換ページで、世界の読者やswissinfo.chの記者と意見を交換しませんか?下のリンクからお気軽にご参加ください。 今日のテーマ:あなたの国でホームレスが発生する原因は? ご意見やご感想、取り上げて欲しいテーマなどのご要望がありましたら、お気軽にこちらのメールアドレスまでお寄せください。 校閲:大野瑠衣子

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