【フィリピン】BPO産業、高度化の道遠く[IT] 単純労働6割、優秀な人材流出

フィリピン情報技術ビジネス・プロセス協会のマドリード会長は将来の成長に人材育成が重要との見方を示している=5日、タギッグ市(NNA撮影)

フィリピンの経済成長をけん引する産業の一つであるITビジネス・プロセス・アウトソーシング(BPO)が業務の高度化に苦慮している。普及段階にある人工知能(AI)への対応が急務だが、コールセンターなどの単純労働が全体の約6割を占める。専門性が問われる職種は給料が高い他国に流出する傾向にあり、人材育成が急務になっている。

IT・BPO団体のフィリピン情報技術ビジネス・プロセス協会(IBPAP)によると、同産業の雇用者数は2023年時点で170万人だった。内訳はコールセンターを中心とする顧客サービスが100万人と全体の約6割を占めた。単純作業が多く、産業が高度化できていない実態が浮き彫りになっている。

ジャック・マドリード会長は「団体に属する企業の45%がAIを既に導入している。一部のコールセンターでは業務効率が10倍に上がった」と述べ、単純作業の業務で失業者が増える要因になっているとの見方を示す。

フィリピンのBPOはこれまで、ビジネスレベルの英語話者が多く賃金も安いことが魅力となり、多国籍企業から受注を獲得してきた。欧米では国内で単純労働の人件費が高くなり、外部委託の需要が生まれた。

その後にITを取り入れ顧客企業の要望への対応を試みているが、付加価値の高い労働者は給料の高い国に流出しやすい環境になっている。単純作業もAIの普及により雇用が縮小するリスクは日に日に増している。

IT・BPO産業は業務の高度化が十分に進んでいるとはいえない。雇用者170万人のうち、専門性が求められる分野では、海外企業のバックオフィス業務関連が24万人、ヘルスケアとITが各20万人、アニメーションなどのクリエーティブ分野が1万人以下にとどまる。

もっとも、発注先の企業がIT・BPOの業務の高度化をどこまで求めているのかは定かではない。現行でもフィリピンでは年約8%のペースで成長し、国内総生産(GDP)の約10%を占める。世界首位のインドなどに次ぐ規模だ。ただ稼ぎ頭であるうちに、新技術に対応しなければ受注が一気に減る恐れがある。

フィリピン情報技術ビジネス・プロセス協会は、今後の生き残りに向けて人材育成を優先する方針を示している。まずは海外での就労経験がある看護師をヘルスケア分野の雇用に取り込むほか、IT分野の従事者のスキルアップに向けた研修制度を支援する。

同協会のマドリード氏は今月、マルコス大統領のチェコ訪問に同行した。フィリピン商工会議所(PCCI)とともに、同国の経済団体とIT・BPO産業の人材育成と情報交換に関する覚書を交わした。

この産業の未来はまだ明るい。24年の売上高は前年比12.7%増の400億米ドル(約6兆円)、雇用者数は同8.2%増の184万人を目指している。28年までに売上高は590億米ドル、雇用者数は250万人に増加する見込み。結実するまで長期間を要する人材育成の成果が、今後の産業の成長を左右する。

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