水上恒司、黒崎煌代、三浦獠太、黒田有 『ブギウギ』スズ子を支えた個性豊かな俳優たち

NHK連続テレビ小説『ブギウギ』が3月29日に最終回を迎える。パワフルな歌声とダンスで戦後の日本を明るく照らした笠置シヅ子をモデルに、大阪の下町にある銭湯の看板娘が歌手・福来スズ子(趣里)としてスターへの階段を駆け上がっていくさまを描いた本作。その波乱に満ちた半生は、義理と人情によって支えられてきた。スズ子を助け、スズ子によって助けられてきた多くの登場人物たち。その中でも、本作で強いインパクトを残し、ここからさらに飛躍していくであろう男性俳優4人の魅力をプレイバックしたい。

まずは、スズ子の“最愛の人”として物語中盤に登場した村山興業の御曹司・愛助(水上恒司)。この人なくしてスズ子の人生を語ることはできない。戦争が長引く中で楽団を率いて地方巡業を重ねていた頃、スズ子は愛助と運命的な出会いを果たした。愛助は幼い頃から身体が弱く、一緒にいられた時間は短いものとなったが、文字通り命を燃やすように愛し合った2人。

今でも学生服を着た愛助が憧れのスズ子を見る純粋なまなこを思い出すことができる。最初は少し頼りない印象も受けたが、スズ子の恋人として以上に、歌手・福来スズ子を最も愛する人間として全身全霊で彼女に寄り添う内にだんだんその瞳にも力強さが宿っていった。

病に侵され、今にも息絶えようとしている時でさえも、水上がインタビューで語っていたようにスズ子のことを一番に考えていた愛助。最後の力を振り絞り、「つらいことがあったら歌ってください」と震える手でスズ子に生きていくための術を託す鬼気迫る表情に身震いするような感動を覚えた。スズ子は愛助の“愛”に“助”けられ、今も生きている。その真っ直ぐで誠実な愛を体現した水上に拍手を送りたい。

そんな2人の恋の強力なキューピットだったのが、村山興業の東京支社長・坂口(黒田有)だ。この人以上にイメージが好転した人はいない。最初はスズ子と愛助の交際に反対していた坂口。「うちのボンをたぶらかすのやめていただきたい」とスズ子に直訴しに来た時は、凄みのある声と表情も相まって、難攻不落な壁に見えた。

けれど、それは恩人であるトミ(小雪)に頼まれて、ずっとその成長を見守ってきた大事な愛助を託せるほどの信頼がまだスズ子になかったから。戦争が激化する中で結核にかかった愛助を献身的に支えるスズ子の姿を見て、坂口は態度を軟化させる。以降はトミの存在に怯えながらもスズ子と愛助を応援し、時折コミカルな一面も覗かせるように。当初、『あさイチ』(NHK総合)の朝ドラ受けで博多大吉が「ああ見えていい人なんで」とフォローしていたように、大阪で愛される黒田の親しみのある人柄が坂口からは溢れていた。

近年の朝ドラでは、すでに活躍している俳優がキャスティングでヒロインに選ばれるケースがほとんどだが、ブレイク俳優の宝庫であることには変わりない。『カムカムエヴリバディ』の小野花梨や青木柚、『舞いあがれ!』の葵揚や中川大輔、『らんまん』の前原瑞樹や前原滉など、朝ドラで多くの才能が見出され、役者としてさらに大きく羽ばたいていった。

その後に続くネクストブレイク候補としてまず思い浮かぶのが、スズ子の弟・六郎を演じた黒崎煌代だ。初回の放送で“亀が好きなちょっとトロい子”と鈴子(澤井梨丘)のナレーションで紹介されていた幼き日の六郎(又野暁仁)。マイペースな性格ゆえに学校ではからかいの対象になってしまっていたが、誰よりもピュアで心優しく、時に本質を突いた言葉で周囲に気づきを与える六郎は視聴者からも愛され、「この子が笑顔でいられる世の中であってほしい」と思わざるを得ないような存在となっていった。

そんな六郎が戦地に旅立つ前に、「死ぬのが怖い」と吐露する場面は今思い出しても目頭が熱くなる。役と完全に一体化したようなあまりにナチュラルな演技だったので、このドラマが本格的な俳優デビュー作と知った時の衝撃は大きかった。21歳という若さながら、往年の二枚目俳優を思わせる硬派な出で立ちが印象的な黒崎。スクリーンデビュー作『さよなら ほやマン』での好演も話題となった彼は間違いなく、これからの日本映画界を盛り上げていく存在となるだろう。

もう一人は、主演の趣里と同じくトップコートに所属する俳優・三浦獠太だ。彼は山下(近藤芳正)からマネージャー職を引き継いだ、ポンコツだけどなぜか憎めない甥のタケシを好演している。タケシはもともと音楽はおろか、夢中になれるものが何もなく、職を転々としてきた。婚約者と一緒にアメリカへと旅立ったスズ子の元付き人・小夜(富田望生)と同じくハレーションを起こすキャラクターではあるが、不器用な子を放っておけない性分のスズ子は義理と人情の精神で彼の面倒を見ることに。

今では、大スター・スズ子のマネージャーとして大威張りしているタケシ。調子乗りなところもあるけれど、「この人は自分を見捨てない」という安心しきった表情を浮かべる彼を見ていたら色んなことがどうでもよくなる。三浦は一歩間違えればうざいキャラになってしまいそうなところを、絶妙な塩梅でタケシを愛されキャラに留めた。彼もまだデビュー5年目の、これからがますます楽しみな若手だ。

『ブギウギ』はもうすぐ幕を閉じるが、4人にはぜひともズキズキワクワクするような活躍を今後も見せてほしい。
(文=苫とり子)

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