ZOZOグループ入りわずか3年で上場!突然変異アパレル、yutoriは何が新しいのか?

2023年12月、ZOZOグループでストリート系ブランドを展開するyutori(東京都)がグロース市場へ上場した。yutoriは、2018年4月の設立。Z世代をターゲットとしたアパレルブランドを22ブランド展開する同社は2020年7月にZOZOグループ入りを発表、その時点で片石貴展社長が数年内の上場を目指すことを宣言していた。2020年3月期にわずか1億4000万円だった売上高は、2023年3月期に24億7000万円と急成長した。本日は、この突然変異アパレルの今後について私の分析を披露したい。

従来のアパレルとは全く異なるビジネスモデル

経営幹部の平均年齢は60歳に近く、黒塗りのクルマで毎朝出勤、社員の平均年齢も40代後半。主要顧客は地方の富裕層。数十年前のブランドを今でも後生大事にし、精算は大手総合商社にOEM委託。プロモーションはテレビか駅ナカの広告。百貨店や専門店で店を構え、6月と11月には決まってセールを行う…… これが、典型的な日本のアパレル企業の実像だろう。

一方私は、海外とくにアジアなど新興国の成長ブランドはSPAではなく、在庫レスで「個」客データを持つプラットフォーマーであることを幾度も説いた。彼らは自分のことをアパレル企業とは呼ばず、「テック企業」だとみなしている。

プロモーションは、InstagramやX(旧twitter)を使い、主にネットを主戦場に成長しているのが特徴だ。これらの外資アパレルは、すでに日本で合計1兆円の売上規模を持っている。

このアパレル(本人はテック企業という意識だが)の最大の特徴は、社員がファッション好きだということだ。「そんなことはあたりまえではないか」という声が聞こえそうだが、私が知る限り「ファッションが大好き」という社員が揃っているアパレル・小売は非常に競争力があり、「サラリーマン仕事」をしているアパレルは競争力が無い。自分達のビジネスモデルに、自分自身が没入していないのである。

今回解説するyutoriは「ファッション好き」が「好き」を前面に出しているのが最大の特徴だ。冒頭にあげたような昔ながらのアパレルビジネスはなく、アジアのアパレルテックと同様、InstagramなどのSNSをつかったプロモーションを行う。同社のフォロワー数の合計は約153万人。LINEやX、自社アプリなど、全てを合計するとのべ約337万人のフォロワーを持つ

直近の決算(23年3月期)は為替の影響による原価高騰で6800万円の純損失だった。サプライヤーの集約によって原価を抑え、5月に公表予定の2024年3月期決算では売上高35億6500万円、営業利益3億3700万円を見込む。純利益は2億1500万円の見通しだ。

yutoriは自らを「D2C」(ディレクトトゥコンシューマ)と称しているが、グローバルでいうD2Cとは、生産工場からダイレクトに個配でユーザーに届けるビジネスモデルであり、彼らのそれとは異なっているが、300万人のファッショニスタの顧客データ。および、社員のほとんどがファッション好きということ、さらに社長自身がまだ30代で、非常に若い感覚をもっていることなど、非常に強い競争力を持ちビジネスモデルがグローバル基準であり将来の高い成長が期待できる。

yutori、唯一の弱点とは

ただし懸念点もある。社長が30歳で社員が20~30代のファッション好きということで、企業規模拡大するにつれて必要になる「ビジネスリテラシー」が追いつくかどうかは未知数だという点だ。

勢いのある会社だからこそ、時には「歯止め」を掛けられるビジネスのプロが必要になってくる。逆に言えば、ビジネスのプロが入ることで、yutoriは日本を代表するアパレル企業になる可能性も高いだろう。

なにしろ、ビジネスモデルが新しく、無駄がないことが最大の強みだ。3年以上前に傘下に収めたZOZOの慧眼ともいえるだろう。

yutoriは、1ブランドを年商100億円まで育てることに興味は無いという。むしろ、小さくても「熱量」があるブランドを複数持つことが大事だという考え方だが、「市場」がそれを許さないだろう。あと5年もすればZ世代が中心購買層になり、購買パワーもついてくる。結果的に1ブランドで100億〜200億円のブランドが生まれることは想像に難くない。

一方、同社が主張するように小さいブランドをたくさん持つというのは、非常に理にかなっている。今、世の中のマーケティングセグメンテーションはデジタルによって細分化されSNSでつながっているからだ。

私のような「AKB48が全員同じ顔に見える」的おじさんが、経営の舵を握っているようではダメだ。私たちがみて同じに見えても、その中の「違い」がはっきり分かっている若い人がファッション業界では必要とされている。

今、ファッション業界は、数値やKPI、デジタル偏重により、業績は大きく沈まない代わりに成長もしない状態になっている。その要因は、企画力が弱体化しているからだ。一方yutoriが手掛けるブランドは、それぞれ強烈な顔を持っており若者への訴求力も高い。

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yutoriのリスクは今後の急成長局面で顕在化する

ではyutoriのリスクはどこにあるのか?それはいずれ企業規模が拡大する際に訪れる、オペレーションの複雑化に伴う制御危機をどう乗り越えられるかだろう。

いくら、「伝統的な経営の教科書」が古くなり新しい芽がでないとはいえ、中には守るべき約束ごとは存在する。yutoriはグロース市場に上場したが、過去、私が支援したネットアパレル企業は上場後、手に入れた莫大な資金をすべて失ってしまったという経験がある。もっとうまく使えば、売上500億円、1000億円へと成長できたはずだった。

上場するということは、成長を株主と約束するということだ。したがって、一つのブランドが100億円にいかなくてもよい、というなら「50億円のブランドを2つ作れ」といわれるのが、上場企業である。

もちろん彼らはそれを志向しているのだが、一方でそんなことを繰り返していたら、社内のオペレーションはいっそう複雑化し、制御不能となるだろう。

オペレーション効率からいえば、ワンブランドを100億~200億円ぐらいにし、5~10のブランドで1000億円を狙うというのが、正しい経営のように見える。だが、その場合、社長の方針とコンフリクト(衝突)がでてくる可能性がある。こうした事例があちこちで出る前に、ときに邪魔な存在になるとはいえ、やはりビジネスのプロの参画が必要になるだろう。

いずれにせよ、日本企業の勢いがついてきた。yutoriが日本を代表する上場企業となり、海外から「ユニクロだけだ」といわれないようなブランドになってもらいたいと心から願う。

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プロフィール

株式会社FRI & Company ltd..代表 Arthur D Little Japan, Kurt Salmon US inc, Accenture stratgy, 日本IBMのパートナー等、世界企業のマネジメントを歴任。大手通販 (株)スクロール(東証一部上場)の社外取締役 (2016年5月まで)。The longreachgroup(投資ファンド)のマネジメントアドバイザを経て、最近はスタートアップ企業のIPO支援、DX戦略などアパレル産業以外に業務は拡大。会社のヴィジョンは小さな総合病院

著作:アパレル三部作「ブランドで競争する技術」「生き残るアパレル死ぬアパレル」「知らなきゃいけないアパレルの話」。メディア出演:「クローズアップ現代」「ABEMA TV」「海外向け衛星放送Bizbuzz Japan」「テレビ広島」「NHKニュース」。経済産業省有識者会議に出席し産業政策を提言。デジタルSPA、Tokyo city showroom 戦略など斬新な戦略コンセプトを産業界へ提言

筆者へのコンタクト
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