メイド・イン・ジャパンも支える米名門コースのグリーン整備

パロスバーデスGCのグリーン整備に使用されているバロネスのグリーンモア(撮影/田辺安啓(JJ))

昨年の「全米オープン」を開催したロサンゼルスCC、今年2月に松山英樹が優勝した「ジェネシス招待」のリビエラCC、PGAツアーで33年ぶりのアマチュア優勝者が生まれた「ザ・アメリカンエキスプレス」のPGAウエスト、そしてLPGAツアー「ファーヒルズ朴セリ選手権」の開催コースであるパロスバーデスGC。これらはどれもロサンゼルス近郊の名門コースという共通点があるが、そのグリーンに“日本製”が関わっていることをご存知だろうか?

もちろん、芝や土はアメリカのものであるのは当然なのだが、グリーンの芝を刈る作業機が日本製なのだ。愛知県に本社を置く共栄社のバロネスという芝刈り機が、前述したコースのグリーンを刈っている。

パロスバーデスGCでの作業風景(提供:共栄社)

話を進める前に、まず米国のメンテナンス業界について説明しておこう。米国にはジョンディア、TORO(トロ)、ジャコブセンというメンテナンス機械メーカー”ビッグ3“が存在する。芝刈り機=モア(mower)には、グリーン用、フェアウェイ用など場所によって専用のモアがある。また、小さな運搬トラックやトラクターのほか、散水システムや肥料の購買サービスなど、ビッグ3はメンテナンスのあらゆる場面に関わる機械やサービスをパッケージで提供している。そのため、資金の潤沢な名門クラブであればあるほど、大手メーカーと総合契約をして単一メーカーの機械を納入する傾向があり、新規参入が難しい。

そんな“独占市場“に切り込んでいったのが、日本でバロネスブランドの芝刈り機を製造・販売する共栄社だった。

リビエラCCでの作業風景(提供:共栄社)

日本ではそれなりのシェアを誇るメーカーだが、米国ではまだまだ新参者。グリーンモアは芝をカットする刃が生命線だ。打ち刃物の技術の高い同社のグリーンモアなら米国でも認められるはず、と約20年前に進出。初めはビッグ3の牙城に跳ね返されて見向きもされない日々が続いたが、一部コースのメンテナンス責任者に認められてから軌道に乗った。

バロネスの刃は、ビッグ3のものに比べて刃こぼれが極めて少ない。多くの製造工程を経て鍛えられた刃が、安定したグリーン面を作り上げる。ビッグ3のものは、1面目のグリーンの仕上がりに遜色はないが、2面目、3面目と刈っていくと刃こぼれによる刈りムラが少しずつ現れると聞く。「バロネスで刈ると、何面刈っても刈りムラがない」とされる差を、トーナメントを開催するコースのメンテナンス責任者の目は見逃さなかったのだ。

2023年「全米オープン」の会場になったロサンゼルスCCでは機材を継続使用(提供:共栄社)

全米オープン開催の際には、USGAが契約するメーカーを導入してコースメンテナンスを行うのが通例だが、数年前からバロネスを導入するロサンゼルスCCは「どうしてもグリーンだけはバロネスで刈りたい」と、昨年大会に向けても機種変更をしなかったという。バロネスの信頼性と高いクオリティの証明ともいえる。

パロスバーデスGCのメンテナンス部門最高責任者のスティーブ・マンリケス氏は言う。

パロスバーデスGCのメンテナンス部門最高責任者スティーブ・マンリケス氏(撮影/田辺安啓(JJ))

「我がコースでは、グリーンとフェアウェイモアにバロネスを採用しています。ビッグメーカーにはそれ相応の良さがありますが、バロネスは比較的小さい会社なのでサポートがきめ細かい。もちろん、刃こぼれがないのは特筆ものです。大小メーカーそれぞれの良さを理解して、ウチの機械はミックスしています」

アメリカの名門ゴルフ場の裏方を、日本の技術が支えている。(JJ田辺カメラマン)

パロスバーデスGCで使用するTORO、ジョンディア、バロネスの草刈り機(撮影/田辺安啓(JJ))

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