【3月26日付編集日記】君たちはどう生きるか

 量子力学の世界には多世界理論というものがある。今では有力な学説の一つだが、最初にこれを考えた大学院生は他の研究者に理解されず、実業の道に進んだ。彼の説がもう少し早く認められていれば、彼の人生も量子力学の歴史も大きく変わっていただろう

 ▼例えば、10円玉を転がした時、表が出た世界と裏が出た世界の二つに枝分かれするというのが、この理論の大まかな考え方。まるでSFの世界だが、そのように考えないとうまく説明できないのが量子力学らしい

 ▼映画「君たちはどう生きるか」を見て、この理論を思い出した。上映中なので詳細は省くが、ある登場人物が、先々不幸な目に遭うと知りつつ、あえてその道を選ぶ場面がある。そうすることが大切な人の未来につながる―と考えたからだ

 ▼10円玉の表が出ようと、裏が出ようと、大きな違いは生じない。しかし、人生も選択の連続だ。多世界理論に従えば、私たちはいつも、無限に枝分かれした世界の中の一つの先端にいる

 ▼多くの若者が新しい一歩を踏み出す春。思い描いていた道を行く人も、さまざまな理由で別の道を進むのを選んだ人もいるだろう。まずは進んでみよう。たくさんの分岐点が君を待っている。

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