木の芽流しの季節

 春めいた今時分に降る雨を「木(こ)の芽雨」とも「木の芽流し」ともいい、雨粒が芽をきれいに洗うような響きがある。このところ春光には恵まれないが、日の光だけでなく雨もまた、木の芽を膨らませることだろう▲木の芽が育ち、これから花を咲かせるというこの季節は、どこかしら「日本のいま」と二重写しになる。訪日客の復活の足音があちこちから聞こえるが、訪日クルーズ船について言うと、開花宣言はまだ先らしい▲国土交通省の発表によると、昨年のクルーズ船での訪日客は35万6千人で、ピーク時の2017年の14%にとどまった。中国人客の回復の遅れが響いたという▲港湾ごとにみると、寄港数のトップは横浜、2位は長崎(95回)。佐世保は19位(18回)。観光県長崎はまずまずだが、17年の長崎寄港は267回、佐世保は84回…。満開にはまだ遠い▲国内では昨年、船が入った港の数が過去最多だった。クルーズ船を沖合で停泊させ、訪日客は小型の船で景勝地に近い岸壁に着く。こんな新しい形も生まれている▲港町長崎はただ開花を待つだけではおぼつかない。木の芽どきに気分が高まることを「木の芽ぼこり(誇り)」という。クルーズ船を迎える機運が上向いているいま、木の芽を満開に咲く花とするには一工夫も二工夫も要るのだろう。(徹)

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