成長続ける、若き指導者 長崎ヴェルカのコーチ兼通訳・弓波英人さん(24) 「選手の良さ」引き出したい 

スキルコーチ兼通訳としてチームを支える弓波=長崎市、県立総合体育館

 バスケットボール男子のBリーグ1部(B1)で目標の「30勝」に向けて挑戦を続ける長崎ヴェルカ。達成するためには日本代表の馬場雄大ら選手たちの活躍はもちろん、裏方としてチームを支えるスタッフ陣の存在も欠かせない。B3に初参戦したシーズンのメンバーで、現在はスキルコーチ兼通訳を務める弓波英人もその一人。「選手の良さを最大まで引き出せるようにしたい」。24歳の指導者は技術のコーチングに加えて、選手、スタッフ間の橋渡し役として汗を流している。
□米国に移住
 千葉県出身。ミニバスケットボールのコーチをしていた父親の影響で4歳から競技を始めた。「本格的な環境でバスケットをやらせたい」という父の意向で、9歳のころに家族で米国に移住。パインレイク・プレップ高時代は中心選手として活躍して、卒業後はNCAA(全米大学体育協会)1部のジョージアサザン大でプレーした。
 コーチ業を意識し始めたのは高校のころ。身長が160センチ台と小柄なため、選手としての限界を感じていたことも理由の一つだったが「(自分の高校が)弱小だったのに強豪を何度も倒していた。実力以上に選手の力を引き出すコーチングに面白さを感じた」。徐々にコーチングの魅力にはまっていった。
 学業も優秀で大学を3年で卒業。そのまま米国に残って指導者を目指そうとも考えたが、広い人脈を持つ当時の伊藤拓摩監督(現社長兼ゼネラルマネージャー)から、ヴェルカへ選手として誘われた。「コーチになる上で、プロを経験しているのとそうではないのでは全然違う」。帰国して新設クラブ入りを決めた。
□プロの洗礼
 B3で新たな一歩を踏み出した2021~22年シーズン。だが、身長が低く、突出した身体能力もない選手にとって、プロの世界は甘くなかった。加入間もない7月、伊藤監督から「選手としては厳しい」と宣告された。「でも、選手として契約した以上、1年間はプレーしたかった」。以降は選手兼コーチとしての日々が始まった。
 朝7時に誰よりも早くクラブハウスに行き、そこから2時間の個人練習。チーム練習ではコーチとして他の選手を手伝い、練習後は敵チームの分析をする。自宅に戻るのは夜遅く。「間違いなく人生で一番つらかった」と苦笑いするが、いろんなことを吸収できた1年間でもあった。
 2年目も米国の大学からコーチとしての誘いはあったが「ヴェルカにいることが最も自分が成長できると思った」とインターンコーチとしてチームに残留。伊藤GMにコーチングのいろはを、前田健滋朗監督に戦術を、磯野眞アナライジングコーチに分析を学び、少しずつコーチとしてのスキルを上げていった。
□NCAAで
 スキルコーチ兼通訳として迎えたB1元年の今季。チームは開幕から好スタートを切ったが、現在はなかなか勝てずにもがく日々が続いている。「ヴェルカはここまで大きな壁にぶつかってこなかった。ネガティブになることもあるが、選手、コーチ全員がすべてを出し切って、強いチームになっていきたい」
 ずっと心に決めている目標がある。NCAA1部でのヘッドコーチ就任だ。そして、いずれは「尊敬する伊藤さんや前田さんのチームを倒したい」。そんな未来を描きながら、若き指導者は成長を続ける。

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