【おんなの目】 洗濯機様

 よし、もう一度。スイッチを心を込めて押す・・・。ピーピーピー、エラー音が鳴る。ああ、ダメだ。動かない。 

 二か月前から全自動洗濯機の機嫌が悪い。洗濯開始のスイッチがスムーズに入らない。

 洗濯物を洗濯槽に入れる。洗濯粉を上にばらまく。蓋をする。洗濯物の量に応じて水量を選ぶ。開始のボタンを押す。動かない。洗濯物の入れ具合が悪いのか、と洗濯物の位置を上下入れ替える。丁寧に蓋をして、開始ボタンを深く押す。動かない。もう一度最初から。今度はバスタオルを下にしてズボンを上にしてみる。(自分の汚れ物なのに触りたくない)。静かに蓋をして撫でてやる。念力を込めて、えい、とスイッチを押す。動かない。「これ以上わがままなら捨てるわよ」。洗濯機はピックと身を震わせる。が動かない。もう一度、蓋に手を置き「動いてよ。十年の付き合いでしょ。このまま別れるなんてできないわ」。動かない。坐りこみ手を合わせる、と目線の先に警告のプレート! 『設計標準期間を越えてお使いの場合経年劣化により発火事故に至る恐れがあります』。標準期間とは七年。三年過ぎている。洗濯機は後期高齢者、老骨に鞭打っているのだ。私も同じよ、お願い今日だけでも動いて。押す。動いた! 明日もお願い・・・。

© 株式会社サンデー山口