「作る側の抱える悩み知った」廃棄寸前の高級イチゴがサステナブルスイーツに!名門ホテルが「規格外品」使うワケ

JR静岡駅前のホテル「ホテルアソシア静岡」が3月20日から始めた「美味しく食べてフルーツロス削減」。静岡県内の生産者とタッグを組み、市場に出回らない食材「規格外品」を積極的に活用していこうという企画です。静岡が誇る名門ホテルがこういった企画を催すのは、今回が2回目。背景には、ホテル業界が抱える「食品ロス」の新たな解決策を模索しようという狙いがありました。

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300g2,000円の“高級規格外品”

「個性の強いフルーツでしたので、相当知恵を絞った」
企画スタート前の3月19日、関係者を集めて行われた試食会で、ホテルアソシア静岡の森川芳行製菓料理長は、制作過程を振り返りました。個性の強いフルーツとは、イチゴの「桃薫」。名前の通り、桃に似た芳醇な香りとジューシーな果汁、さらに白いフォルムが特徴で、300gで2,000円を超えるという高級品です。

フルーツタルトで有名な「キルフェボン」でも採用されている個性派イチゴの「規格外品」を使ったスイーツを考案し、ホテルのラウンジなどで提供することにしました。

「サステナブルスイーツ」として提供するのは、「桃薫のふんわりクリーム大福」「桃薫のパンナコッタ」「桃薫のデニッシュ」の計3品。ポイントは、桃薫ならではの「香り」「食感」「色」を生かすことです。例えば、パンナコッタは、あえて蓋つきの容器を選び、「桃薫の香りを閉じ込めることでお客様に楽しんでもらう」(森川料理長)。クリーム大福では、イチゴをまるごと使うことで、果実のジューシーさを感じることができます。

森川料理長は「個性が強い食材ほど、腕の見せ所、とてもやりがいがあった」と出来栄えに自信を見せます。

地元食材を使うことでわかったこと

では、なぜ、シティホテルが「規格外品」を扱うのでしょうか。宿泊に特化するビジネスホテルと異なり、レストランや宴会などを扱う“フルスペック”のシティホテルにとって、「食品ロス」は長年の課題です。

環境省の調べによると、外食産業など事業系食品ロスの発生量は約279万トン(2021年度)。国では、2030年までに、2000年度比で半減させるという目標を掲げています。レストランや喫茶のほか、宴会などで多くの食品を扱うホテルアソシア静岡でも「朝食のブッフェなどでは、小盛り皿での提供などに取り組んでいるが、まだまだ模索中」(西田善輝営業部長)だといいます。

「食品ロス」への関心が高まる中、今回の企画は、地元静岡の食材を使っているホテルならではの視点から生まれたといいます。

「ホテルのメニューは、だいたい約3か月前から考えるが、生産者との話の中で、作る側の抱える悩みを知り、この解決にも一役買えないか」(西田営業部長)。第1弾は2023年11月、静岡県掛川市の会社「ジャパンベジタブル」と島田市の農業生産法人「エフエフランドアグリ静岡」と協力し、それぞれがこれまで廃棄していた「ミニサツマイモ」と「摘果ミカン」を使い、料理やスイーツとして提供しました。

50グラム以下のミニサツマイモは、ポタージュやブリュレに、間引きで出たミカンは、パスタの具材やベイクドチーズケーキに姿を変え、4か月間にわたって提供されました。

西田部長によると、生産者からは「ぜひ、来年もコラボしたい。商品開発の早い段階から協力したい」と声がかかったとのこと。さらには、新玉ねぎや大根などの規格外品の提供を受け、ホテル内で出されるスープや前菜の食材に活用する動きも始まっています。

このコラボでは、ホテル側にも変化がありました。第2弾では、スポンジケーキの端切れを使い、いちご大福に活用。食品ロスを自分事化することで、新たな発想が次々と生まれています。

「ジャムでは良さが失われる」

今回、「桃薫」を提供した生産者も、今回のコラボに大きな期待を寄せます。静岡県焼津市のシックスベリーファーマーズ松田農園。父・肇さんと生産を行う松田義人さんにはこんな悩みがありました。

「生産をしていると、どうしても数パーセントは、規格外品が生まれてしまう」。例えば、形が悪いものや7~8グラムより小さなサイズは出荷しません。規格外品といっても、味や風味にそん色はありませんが、「加工品なども考えたが、ジャムにすると桃薫の良さが失われてしまう。いい方法はないか、ここ何年も模索してきた」(松田さん)

そんな時、行政を通じて、今回のコラボ話が舞い込みました。橋渡しをした焼津市農政課の藤野大課長によると、廃棄する作物はわずかでも、生産者によっては、大きな数字だというのです。

さらに、物価高騰が続くことで、生産者の負担は膨らんでしまうからこそ、「規格外品を活用した商品化が生産者の収益につながれば大きい。また、ホテルで扱ってもらうことで、“焼津の逸品”が静岡県外の方に知ってもらうきっかけにもなる」と語ります。

『規格外品』というおいしい食材を生かしたメニューが並ぶレストランへ

完成した3品を試食した松田さんは「いろいろお願いをし、(森川料理長らには)ご苦労を掛けたと思う。桃薫の香りや酸味を見事に生かしてもらえてありがたい。本当においしかった」

西田部長は「コラボ企画を、企画と謳わずとも当たり前に、地元の食材を使う、『規格外品』という名のおいしい食材を生かしたメニューが並ぶレストランがあるホテルになることが目標」とこれからを見据えます。

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