9回2死の場面で敢行した盗塁に悔いなし――。なぜ八戸学院光星は土壇場でリスクを冒す選択をしたのか?

盗塁はリスク――。

野球界にある格言のひとつに、そのように言われる時がある。試合終盤での積極的な攻めはむしろ自ら首を絞める。こと盗塁においては僅差の試合での仕掛けは、その結果いかんで大きく試合を左右する時がある。だから、試合の序盤にはチャレンジできても、試合終盤に盗塁のリスクを背負うことは御法度とされるケースは少なくない。

2回戦の八戸学院光星-星稜の試合は、まさに、そんなクライマックスを迎えた。

1点ビハインドの9回表、八戸学院光星は代打の寺沢海音が中前ヒットで出塁、代走に1回戦でも好走塁を見せた岡本大地を送り込んだ。しかし、二死となって1番を迎えた場面のカウント0-1の場面で盗塁を試みたが、敢えなく盗塁死。ゲームセットとなった。

「僕が試合に出る以上はホームに還らないといけない。それが役目だと思っています。それができなかったのは自分の力不足です」

代走の岡本はそういって悔しさを滲ませた。昨秋の県大会はベンチ外。東北大会になって声がかかりメンバー入り。甲子園前の練習試合では盗塁を全て成功。自信を持って大会に入った。近年でも八戸学院光星はベンチ入りの選手を多く使う機会が増え、その中でもしっかりと役割をもらい、岡本大はやりがいを感じていた。

1回戦でも代走で出場。9回に同点のホームを踏んでタイブレークにもつれた試合の勝利に貢献している。この日も試合終盤での出番を想定して準備していたが、土壇場の場面で回ってきたのだった。

「準備不足というか、もっとできることはあったのかなと思う」

岡本がそう語るのは、盗塁を失敗した場面以外も盗塁する機会を窺っていたが、相手投手のクイックがうまく、スタートを切ることができなかったからだ。岡本大はその前の打者のところから代走に入っていたが、スタートを切るタイミングが見つからなかったという。その中で「1アウトの時に打者が三振して、どうにかして2アウトから二塁に進めたかった」と問題の場面での盗塁死となったわけである。 盗塁はリスクと考えれば結果的にいえば失敗に終わったわけだが、仲井監督はこの盗塁を後ろ向きにはとらえていない。

仲井監督はいう。
「そのために出している選手ですので、なんとか決めてくれると思った。アウトになってしまいましたが、試合展開からもそういう形で点を取らなければいけなかったし、こちらからアタックしていかないと点は取れない。その前の打者の時も走れないことはなかったですけど、カウントが3−2まで持っていけていた。逆に岡本大を警戒してくれて、打てる球が来るかなと思っていたので、作戦は外れたのですが、悔いはないです」

リスクと考えれば何もチャレンジはできない。甲子園は勝たなければいけない舞台ではあるものの、成長過程のある高校生にしてみればここで失敗をすることを恐れては、何も学ぶことはできないだろう。

「気持ちが引いてはいけないと思う。実力がないことがこの試合で分かったんで、もっとリードの取り方から盗塁のピッチャーの特徴を掴んだり、もっと言ったら、足を速くして、同じ場面で任された時には決めれるようになりたい」

2013年のWBCで鳥谷敬が見せた神走塁のように、試合の流れを手繰り寄せる盗塁は存在する。

いつか、岡本大がとんでもない盗塁を決めることができれば、この日のリスクも決して無謀なものとは思えなくなるだろう。この失敗を糧に盗塁を極めてほしい。

取材・文●氏原英明(ベースボールジャーナリスト)

【著者プロフィール】
うじはら・ひであき/1977年生まれ。日本のプロ・アマを取材するベースボールジャーナリスト。『スラッガー』をはじめ、数々のウェブ媒体などでも活躍を続ける。近著に『甲子園は通過点です』(新潮社)、『baseballアスリートたちの限界突破』(青志社)がある。ライターの傍ら、音声アプリ「Voicy」のパーソナリティーを務め、YouTubeチャンネルも開設している。

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