元気な妻についていけない夫、何もできない夫から解放されたい妻…更年期を迎えた夫婦が円満を保つ秘訣とは【医師が助言】

(※写真はイメージです/PIXTA)

夫が定年退職してから夫婦で過ごす時間が増えると、夫婦仲が悪化してしまうケースも少なくありません。こうした夫婦関係の悪化は「医学的視点からみれば当然」だと精神科医の和田秀樹氏はいいます。本記事では和田氏の著書『老化恐怖症』(小学館)から一部抜粋し、更年期を迎えてからも「夫婦円満」を保つ秘訣について解説します。

「妻についていけない」〝思秋期〟の夫婦に溝ができる理由

50代から60代を迎えると、人は誰しも心身の老化による衰えを意識せざるを得なくなります。しかし、そのスピードや程度は個人差があるだけでなく、男女の違いが際立ってきます。奥さんが元気に出かけたがるのに、夫の側が「ついていけない」とボヤく意見を耳にすることもしばしばです。

しかし、実はこれは医学的には当たり前のことなのです。順を追って説明します。

まず、人間の一生には、男女ともに性ホルモンの分泌が活発になって子供から大人の体になる10代の「思春期」と、性ホルモンの分泌が減り大人から高齢者へと変わっていく40〜60代の「更年期」の2つの大きな変化の時期があります。

私は後者を特に「思秋期」と呼び、その過ごし方が人生にとって一番大事だと考えています。その後に訪れる70代、80代の人生が輝くのか、それともその逆になるのかは、「人生そのものの質」さえ左右するほどです。

男女ともに思秋期を迎えると、「何かをやろう」という自発性や意欲が低下し、感情のコントロールがしにくくなるなどの「感情の老化」が始まります。これは知力や体力の衰えよりも先に始まって、しかも気付きにくいのが特徴です。

なぜ感情の老化が起こるのか。それは、思考、意欲、感情、性格、理性などを司り、いわゆる「人らしい感情や行動」を生み出す脳の前頭葉が加齢により萎縮するためだと考えられます。私は高齢者専門の精神科医として、これまで脳の画像を数千枚は見てきました。

そのなかで、認知症ではない健康な人でも、歳をとれば誰もが前頭葉から先に萎縮し始めることを確かめています。

性ホルモンの「男女差」が、妻と夫の感情にも影響する

さて、性ホルモンの変化には「男女差」があります。女性が更年期を終えると(たいていは50代の半ばまでに)、女性ホルモンが減る一方で、男性ホルモンがむしろ増えます。男女ともに前頭葉が縮むので意欲などは減退しますが、妻(女性)の場合、男性ホルモンの分泌が増えるおかげで50代以降も意欲が保たれるわけです。

趣味や人付き合いにも積極的になり、知的好奇心も増すことがあるでしょう。娘と一緒に若い男性アイドルや韓流の追っかけを楽しむケースがあるように、異性に対する関心が増す場合もあります。

一方、男性ホルモンの分泌が減るうえに、前頭葉が縮んで「感情の老化」も進む夫(男性)はどうでしょうか。

意欲も好奇心も低下すれば、妻から旅行やちょっとした外出に誘われても気が乗らないのは理解できますし、人付き合いにも消極さが目立つようになるでしょう。

より活動的になり、人間関係も含めて新しい世界を開拓しようとする妻と、放っておけば元気がなくなる一方の夫の間に溝ができてしまうのは、ある意味では当然のこと。

もし、定年を前にした男性が「妻についていけない」と思い悩むようなら、「夫婦なんだから一緒に行動しなければ」という思い込みをお互いにまず捨てることをお勧めします。

定年後に自宅で過ごす場合でも、1日3食を同じテーブルで向かい合って食べる必要はないでしょう。たとえば昼食はそれぞれが好きなものを好きなところで食べればいい。

妻が旅行に行きたがれば、親しい友人との旅行を勧めるなどして、夫はいちいち干渉しないほうが、お互いにとって無理のない生活と言えないでしょうか。

「何をしても妻に怒られる」…解決法は?

思秋期を迎えた夫婦の間に溝ができてくると、妻の側にストレスが溜まって病気として発症することがあります。タレントの上沼恵美子さんが夫の定年退職を機に患ったことで有名な「夫源病(ふげんびょう)」は、感情の老化や男性ホルモンの減少により意欲などが低下した夫の言動など、夫によるストレスが原因で引き起こされる、妻の心身の様々な不調のことです。

若い頃は外で働く夫が偉そうに振る舞い、家で妻に怒ったりしていても、歳をとって弱気になると、立場が逆転することがあります。「奥さんに捨てられたくない」と思う夫も増えるでしょう。

一方、妻が特に専業主婦の場合、それまでは「ひとりでは食べていくことができないから」と我慢してきただけのケースも多い。

夫源病のなかには、歳を重ねて弱気になり、何かと不安がるようになった夫が妻を束縛し、愚痴ばかり聞かせるなどした結果、本音では「夫から解放されたい」と考える妻が調子を崩すケースが多いのではないかと私はみています。

一方、夫側は定年後は仕事を離れて家にいる時間が長くなることで、些細なことで妻から注意を受ける機会も増すでしょう。トイレの使い方や汚れた衣類の扱い、ゴミの捨て方や片付けの仕方など……。

妻の機嫌を取ろうと思って食器を洗ってみても、「やり方が違う」「汚れが落ちてない」などとかえって怒られたりします。そうしたことが積み重なった結果、「家には居場所がない」と訴える夫の話を聞くこともよくあります。

本来、夫婦ともに一番くつろげるはずの「家」にいることがつらくなってしまう――定年後にありがちな夫婦のトラブルの原因は、その距離が近くなりすぎてしまったせいだと私は考えます。相手の言動や機嫌を気にし過ぎるあまり、束縛し合うのかもしれません。

視界に入る相手の存在が大き過ぎれば、欠点や失敗ばかりが目につき、夫のやることなすことすべてが妻の気に障るといった事態になることも容易に想像できます。

夫が仕事で家を空けていた時には気にならなかったとすれば、それは適度な距離を作れていたということ。定年後に相手への不満が気になりだしたのなら、お互いに「離れる」ことを意識する必要があります。

妻が「友人とどこかに出かけたい」と外出してくれるなら、むしろそれはお互いにとってメリットが大きいと言えるでしょう。

夫婦がほどよい距離感を保つことが思秋期を迎えた夫婦には必要だと考えます。

和田 秀樹

精神科医

※本記事は『老化恐怖症』(小学館)の一部を抜粋し、THE GOLD ONLINE編集部が本文を一部改変しております。

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