『ガンダムSEED』シリーズを新たな視点で“解体” NHK『アニメが問う戦争と未来』を見て

現在、全国の劇場で上映中の映画『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM』が、観客動員数243万人、興行収入41億円を突破した(2024年3月25日時点)。1月26日の公開日から59日で、『機動戦士ガンダムIII めぐりあい宇宙編』(1982年)の興行収入23億円を超え、歴代のガンダム映画史上で1位の成績を収めた。動画配信サービスの拡大とストリーミング鑑賞、映画入場料の値上げなどの要素から映画館離れが進む現代にあって、これは実に凄い記録だ。ここ数年、テレビアニメの劇場版が次々と興行成績面で新記録を打ち立てているが、『SEED FREEDOM』は2002年放送のテレビアニメ『機動戦士ガンダムSEED』と続編『機動戦士ガンダムSEED DESTINY』の、永らく続報が途絶えていた劇場版にもかかわらず、多くの観客から期待をもって迎えられ大ヒットしたことが重要なのだ。

この一大ブームを紐解く特番が3月25日にNHK総合で放送された。『アニメが問う戦争と未来 ~ガンダムSEEDの20年~』と題された通り、現実の戦争と対比させた視点で構成されている。映画公開からどれぐらいのタイミングでこの番組が立案されたか定かではないが、監督の福田己津央はもちろん、ネットワークプロデューサー・宮河恭夫、毎日放送プロデューサー・竹田靑滋、脚本家・吉野弘幸、メカ作画監督・重田智、設定制作・志田香織、主題歌担当の西川貴教、ラクス・クライン役・田中理恵と、よくこれだけの関係者にアポを取り、インタビュー映像を収録したものだと、その機動力に驚かされる。すでに故人のシリーズ構成・両澤千晶に代わり、その実弟で脚本家の両沢和幸からもコメントを取っている。

『機動戦士ガンダム』(1979年)に端を発す、宇宙世紀の年号で展開する作品群とは異なる“アナザーガンダム”と呼ばれる平成のガンダムシリーズは、敵も味方も美形キャラといったビジュアル面から語られることが多い。もちろん『ガンダムSEED』シリーズもその中の1本であるが、NHKのドキュメンタリーは2001年9月のアメリカ同時多発テロ、いわゆる9・11事件の悲惨な出来事を絡めて、我々の生きる世界で起こっている戦争や報復を軸に『ガンダムSEED』シリーズを解体した点が非常に面白く、また斬新だ。

遺伝子操作を受けて最初から優秀な人間に生まれてきた「コーディネイター」と、そうではない普通の人間「ナチュラル」。この両者の対立を描いた『機動戦士ガンダムSEED』の世界観を、人間同士の小さな諍い、差別感情、怒りなど、子どもの社会でも起こり得ることから拡大させたという視点。普通と違うというだけで疎外される側、する側の小さな溝が、やがて大きくなること。些細なきっかけで関係が壊れ、修復が難しくなって行く現実世界の争いが、この作品内に込められているというスタッフの証言を踏まえて観ると、『ガンダムSEED』も前とは違った気付きと発見があるかも知れない。

「今まで仲のよかったグループから突然1人が排斥されはじめることはよくある。それがもっともミニマムな“諍いの根っこ“じゃないのか」と生前に語った両澤千晶の言葉通り、ナチュラル側に味方してガンダムを駆るコーディネイターのキラ・ヤマトは、その秀でた特別感ゆえに次第にナチュラルの友人たちから浮いていく。今まで仲が良かった友人の輪から外されたキラもまた、理不尽さに怒りを爆発させてしまう。そして幼なじみのキラと敵対する、もう1人の主人公アスラン・ザラも、大切な友人をキラに殺されて憎しみを募らせる。

「殺されたから殺して、殺したから殺されて、それで本当に最後は平和になるのかよ!! えぇ!?」

これは『ガンダムSEED』第31話に出てくる名台詞だ。戦争だからとはいえ、互いの大事な仲間を殺され、怒りに任せて殺すことで報復の連鎖が起こる暴力の世界は、みんなが同時に止めようよと思わない限り終わらないのだ。そう語る宮川恭夫と、最初から企画書の中に前述の第31話のシーンを盛り込んでいた福田己津央の証言は特に印象深い。

今回のNHK『ガンダムSEED』特番は、2年にわたるテレビシリーズの膨大なシーンの中から、インタビュー証言者のコメントに合わせて適切な場面を選び出し、両澤が生前に遺した発言、映画化に向けてやりとりしたメールの数々、映画館で鑑賞したばかりのファンの感想、海外の『ガンダムSEED』ファンの声などを集め再構成したドキュメンタリーとして大変充実した番組だった。放送終了後にX(旧Twitter)で福田監督が発信した内容では、放送時間の何十倍もの素材を集めた中から作られた番組だそうで、スタッフの編集手腕に感心していた。願わくばいつか、さらに拡張された完全版が観たいものだ。

(文=のざわよしのり)

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