【インタビュー】お風呂でピーナッツ、2nd EPの多様で自由な音楽性の理由「いい規模感で聴いてもらいたい」

1年以上かけてゆっくりと、着実に積み重ねてきた軌跡の音がここにある。世界を飛び回る人気モデルの樋口可弥子(Vo)と、コンポーザーやサポートギタリストとしても活躍する若林純(G)のユニット、お風呂でピーナッツの2nd EP『スーパー銭湯 2』(4月17日配信リリース)がいい感じだ。

「後夜」から「擬態」までの配信5曲に新曲「電気」を加えた6曲は、ロック、バラード、R&B、’80s歌謡曲、ハウスやダヴステップに至る多様な音楽性の折衷を、あくまでJ-POPの心地よさと聴きやすさに集約させた清新な作品。多様であることに本質を求める自由な音楽性は、いかにして育まれたのか? 今回も、ロンドンの樋口可弥子と東京の若林純をリモートで結んだインタビューをお送りする。

▲2nd EP『スーパー銭湯 2』
◆ ◆ ◆

■ギターリフから入る曲ってカッコいい■ロック小僧の作り方ですね

──今回のEPは過去1年ちょっとの軌跡をまとめたものと言えるわけですけど、最初からそういうプランだったわけですか?

若林:そうです。もともとEPで出すことを考えつつのシングル配信だったので、シングルとしても強くありつつ、EPで並んだ時にどう見えるかな?みたいなことも考えながら作ってきた感じです。可弥子とも「この曲とこの曲は似てるよね」みたいな話をして、似てたら外すとか。デモをいっぱい作っている中で、バランスのいい6曲になったと思います。

──僕は1曲出るたびに音楽を聴いて、話を聞いてきたので、点と点が線で繋がった感じがすごくしました。なるほど!みたいな。

若林:ありがたいです。

──やっぱり、アルバムとかEPって面白いですよね。流れで聴けるから。

若林:そうなんですよ。最近はサブスクもあって、1曲ずつが主流じゃないですか。でも自分はEPやアルバムとかで聴くのもけっこう好きで、いきなりEPでドン!と出すのもいいなと思ったりしますね。曲単位で描けるものと、アルバム単位で描けるものはまた違うと思っているので。

──樋口さんは、今回のEPについてはどんな感想が?

樋口:やっぱり嬉しいですね。イヤーブック的な感じがします。イヤーブックって、日本ではあんまり出さないのかな。私たちの高校は、イヤーブックだったんですよ。

若林:そうそう!

樋口:卒業生だけに配られるんじゃなくて、毎年全校生徒の写真が載ったものが配られるんです。ちょっとアメリカンな感じですよね。普通の公立高校なんですけど(笑)。

若林:3年間で3冊もらえるんです。

樋口:そういうふうに、わかりやすい形でまとめられたものが好きなんですよね。音楽も、たぶん私たちがCDで聴く最後のリアルタイム世代だったと思うんですよ。最初に自分で選んで聴いた音楽も、CDのアルバム単位で聴いてたから、そこに対する憧れはすごくあって、だからすごく嬉しいです。シングルとはまた違った楽しさがありますね。

──ところで、もらった資料にはまだ『タイトル未定』と書いてあるんですけども。

若林:いまのところ未定です(笑)。ただイメージしているのは、ごちゃまぜ具合が1作目の『スーパー銭湯』にけっこう似てるかな?と思っていて、それを汲み取れるタイトルにしたいなとは思っているんですよね。絶賛思考中です。(編註:『スーパー銭湯 2』に決定)。

──楽しみです。では早速、新曲「電気」の話をしましょうか。これは一番新しく作った曲ということですよね。

若林:そうです。レコーディングは2023年夏ですけど、その直前にできた曲ですね。

──これだけBPMの速い曲ってなかったですよね。お風呂でピーナッツ史上最速じゃないですか。イントロからめちゃくちゃカッコよくて、ギターとドラムの絡みは最高だし、イントロ10秒で勝った!って感じがしましたね。どんな狙いがあったんですか。「電気」については。

若林:この曲はギターを触りながら作った曲ですね。ギターリフから入る曲ってカッコいいじゃないですか。そういうものを作りたくて、イントロのリフができて、そこから曲ができていったという感じです。ロック小僧の作り方ですね。

──普段は歌もの、J-POPの意識もすごく強いと思うので、こういうふうにギターが前面に出る曲は新鮮です。

若林:メロディに関しては、可弥子に投げてる部分が多いんですよ。僕はただギターリフがカッコいいものを作りたいと思って、ギターリフだけ作って、メロディどうしよう?ってなった時に、可弥子がいい感じにメロディを乗せてくれて、そこから広げていった感じです。

樋口:たまにある私たちの手法なんですけど、本当にシンプルな、要になる部分だけのデモをもらって…どのくらいのシンプル加減だったっけ。

若林:ギター、ドラム、ベースが入っていたぐらいかな。

樋口:鼻歌レベルで、何回か自分でボイスメモで録ってみて、そこから形にしていく作業をたまにするんですけども、そのパターンでした。わりと、パッと出た気はする。

──テンポ速いぞ、とは思わなかったですか。

樋口:思いました。たぶん私が作るメロディって、言葉をぎちぎちに入れる傾向があるんですよね。だから自分で作ったのに、速すぎるし、言葉を詰めすぎてるし、“難しい!”って思いながらすごく苦しんでました。レコーディングの時は。

──メロディが先で、歌詞は後ですか。

樋口:そうですね。ただ、メロディを作る時に歌詞も一緒に出てくることがたまにあって、今回はそういう感じが多かったかな。サビの一部分とか、Aメロの最初の部分とか、パッと思いついた歌詞だったと思います。全体の2割か3割ぐらいですけど。

──どうですか、こういう曲調は。難しさはさておき、自身の好みとして。

樋口:大好きなんですよね。こういう、若干力技が必要みたいな曲って(笑)。こういう“ザ・バンドサウンド”みたいな、ギターが一番カッコいいみたいな、ちょっとロック風味な曲がすごく好きなので、歌ってて楽しい曲ではありましたね。難しかったですけど。

──歌詞はどうですか。首都高やバイパスが出てきたり、車に乗っている風景を中心に、感情や心理が見えるようなドラマチックな書き方をしていますよね。

樋口:テンポがすごく速くて疾走感があるイメージだったので、そこで…その時期は歌詞に情景がすぐ見えるような単語使いをしてみようと意識していた時だったので、自然に出てきたのかなと思います。

──ストーリーが見えますよね。恋愛ドラマというか、この二人はどうなっちゃうんだろう?って。もう終わりかけなのかな?って。

樋口:終わっちゃうんじゃないですかね(笑)。

──ですよね…。

樋口:恋愛で切羽詰まってる時って、時間の感覚がおかしくなって、マインドが普段のテンポじゃないというか、ちょっと頭おかしくなっちゃうみたいな瞬間があると思うので。今、自分で話していて気づきましたけど、終わりかけの爆発寸前みたいな時期の、ぐらついた感じとかがすごく合うなと思って、言葉をはめていったところはありますね。

──ああー。なるほど。

樋口:それと、もうどうしようもない気持ちの時には、とにかく速く動きたくなる衝動がある気がするんですね、人間って。私は運転できないんですけど、恋愛だけじゃなくても、ストレスが溜まった時には速く突き抜けたいみたいな気持ちがあるんですよ。だから首都高という言葉も、そことリンクしてたのかな?って今になると思います。

■メッセージは同じかもしれないけど■いろんな面白い出し方を技術を使って

──あとはやっぱり、タイトルにもなった「電気」というワードですよね。曲のタイトルとしてはありそうでなかった、ものすごいインパクト。

樋口:デモの時点で「電気」というタイトルだった気がします。それはすごく納得で、ギターの動き方とか聴いていると“まさに!”と思ったので。毎回そうなんですけど、音から得るイメージ像がすごく似てる感じがするんですよ、若林くんと。だから分業でやっていても、あんまり苦に思ったことがなくて。

──若林さん、最初から「電気」だったんですね。

若林:そうなんですよ。イメージを固めたくない時は「デモ3」とかで送るんですけど、もうイメージはあったので、「電気」とだけ入れて送りました。なぜ「電気」とつけたのかは、音のイメージ感だけなんですけど、何かをすごく感じたんですよね。それで歌詞が返ってきて「そうなったのか」って、ちょっと角度は違うけどハマった感覚があって、繋がったと思いました。

──そもそもエレクトリックギターが電気ですよね。

若林:そう、本当に最初はそのくらいのイメージだったかもしれない(笑)。直感で“電気っぽいな”と思った、それだけなんですよね。そのイメージはデモからあんまり変わってなくて、そこにアレンジが乗って、音像がはっきりした感じです。

──ちょっと横へ逸れて、さっきの樋口さんの「歌詞に情景がすぐ見えるような単語使いをしてみよう」という言葉を、深堀りしてみたいんですけども。このEPに入っている1年ちょっと曲の中で、歌詞の書き方が変わってきたとか、いろんな手法を試してきたとか、そういう思いはありますか。

樋口:ありますね。言葉の選び方が変わってきていると思います。私は2〜3年前ぐらいまではあんまり歌詞に共感するという感覚を覚えたことがなくて。でもこの2〜3年でいろいろあって、急に聴き方が変わったというか、ただ音が好きで聴いていた曲の歌詞の意味が、“こういうことだったのかもしれない”みたいな感じで、自分の中で結びつくことが多くなったんです。それ以前は、わかりやすい表現や単語選びを避ける傾向があったんですよね。そのスタイルもいまだに好きではあるんですけど、このEP制作を始めたぐらいの時にちょうど、ある意味大衆化されたというか、わかりやすい具体例や情景描写が音に乗ることが、ポップスの大きな魅力の一つだなと思うようになったんですね。

──はい。なるほど。

樋口:そこで、作曲者や作詞者が思い浮かべる状況や情景が、聴いてくれている人たちに100パーセント同じように伝わるわけではないんだけど。でもたとえば“首都高を走る”という情景一つとっても、個人の経験だったり、見てきた作品だったりに照らし合わせて、それぞれ違うイメージが成り立っていくのがすごく面白いなと思っていて。それができやすいのは、もうちょっと開けた、わかりやすい単語選びにあるのかな?と思って、最近はポップスをすごい聴いているし、作ってみたいと思っていますね。

──面白いですね。書き方の変化が聴き方に影響を与えて、それがまた書き方に影響を与えて。

樋口:面白いです。昔ハマってた曲を聴いても、聴こえ方というか、歌詞とのリンクの仕方とか、見え方が違うんですよね。

若林:今、話を聞きながら思ったんですけど、可弥子の曲作りは確かにめっちゃ変わりましたね。1作目はやっぱり恥ずかしさというか、意図的にちょっと距離感のあるものを書いていた感覚があったんですけど、最近は可弥子の生活とか、わかりやすさが出てきて、すごく面白いなと思ってます。僕だったら絶対書けないなという歌詞が返ってくることが多いんですよね。「電気」だったら“ビリビリ痛い”とか、“予備のバッテリーなんて持ち合わせていない”とか、わかりやすいんだけど、出てこない表現ってあるじゃないですか。それがここ最近の作品の可弥子の歌詞で、面白いなと思っているところかな。「後夜」だったら“ロックミュージック”とか、ああいう単語も僕からは出てこないし、たぶん1作目のEPの時の可弥子からも出てきてなくて、感覚が変わったんだなって、今の話を聞きながら思いましたね。

──そこは本当に今回のEPの聴きどころで、1st EP『スーパー銭湯』と比べても一番変わったところだと思います。若林さんも「擬態」を出した時に、本を読んでそこからヒントを得て、という話をしてくれましたけど、それも今までなかったことだったし。若林さんの中にも、いろんな変化があるのかなとか思ったりします。

若林:そうですね。1作目は曲を頑張って完成させるのがゴールだったというか、そこまでの必死さでしかなかったんですけど、最近はちょっと余裕があるというか。“こうやったら曲はできるよね”いうものがあって、その中にどう遊び入れるか?を考えられるようになったかなと思っているんですよね。“このメッセージを伝えたいから、これを入れるんだ”みたいなことに加えて、言葉遊びとか、音との関係とか、そういうことも面白いなと思うようになってきた感じですね。「擬態」も、韻を踏むことが面白いなと思ったし、歌詞を歌詞として考えられるようになったのかもしれないです。内省して言葉を紡ぐというよりは、“こうすると面白いかな”みたいな感じなんですよね、今は。

──そこで、我々も一緒に成長している感じがするんですよね。こういうインタビューで、その時の心境や手法を語ることで、積み重ねていっていることをすごく感じます。

若林:曲作りについても、自分の根幹にあるメッセージみたいなものって、結局一人の人生だから、出てくるものは限られてるなと思っていて。いろんなメッセージに見えるけど、根っこの部分で考えていることは一緒で、それがいろんな側面で出るからいろんな曲になっている、みたいな感覚ですかね。持っているメッセージは同じかもしれないけど、いろんな面白い出し方を、技術を使って出していく、そういう感覚かもしれない。だから、技みたいなものがだんだん乗っかってきたりとか。

──元になるものは変わらないけど。

若林:そう。そこを変えようとして、たとえば旅に出るとかはちょっと違うなと思っていて(笑)。違う経験を生みたいから、1ヵ月間無人島生活して曲を書きますとか、そういう感覚じゃなくて。日常の中で出てくるものはたぶん変わらないけど、それをより面白く、日記のように綴っていくのがいいのかな?と思ってます。だからこれからの曲作りも、知識とか技術とか、意識的なインプットが必要なのかな?と思っていますね。1作目は本当に、根幹の部分をどう絞り出すか?みたいな感じだったんですけど、2作目を作ってみて、3作目はまたさらにそうなってくんだろうな、みたいな感覚ですね。

──曲調のバラエティ豊かさは同じでも、二人の表情や心の中は着実に変化している。みなさん、お風呂でピーナッツの新しいイヤーブックを楽しんでほしいと思います。

■たぶん二人とも飽き性で■私たちはもっといろいろ試してみたい

若林:逆に、全部聴いていただいて、やっぱり全然バラバラだなみたいな感覚ですか? それとも、何か根幹は共通しているなと思いますか?

──もちろん共通点は感じますよ。EPにまとまることで、より感じ取れる部分はありました。

若林:ありますか。そうか。

──それはね、以前に若林さんも言っていましたけど、やっぱり樋口さんの声ですよ。 樋口さんが歌えばお風呂でピーナッツになるし、J-POPになるというのは絶対的な強みだと思うので。「擬態」だって、もし違うボーカリストが歌ったら、とんでもないエクスペリメンタルポップになったかもしれないと思いますけど、J-POPになっているのは、やっぱり樋口さんの歌だろうなと思いますよ。これは個人的な意見ですけれども。

若林:いや、めっちゃわかります。

樋口:自分だと、わかんないからなー。だから楽しみです、みなさんの感想が。どういう受け取り方をされるのか、すごく楽しみですね。

──全然マニアックとかじゃないので、ポップに聴いてもらえばいいですよね。あと、もう一つ突っ込んだ質問をすると、売れたいという気持ちと、そのために何かしようみたいな気持ちは、若林さんの中にはありますか。

若林:現場によって考え方は違うんですけど、お風呂でピーナッツは、いい規模感で聴いてもらいたいなというのはありますね。いい規模感でライブをしていたいなという気持ちがあって、東京ドームを埋めてやりたいとか、スタジアムでライブしたいみたいな気持ちは全然ないんですけど、ライブをやったら人がぎゅっと集まって、いい規模感で、みんな気持ち良くいてほしいなみたいな感覚はあります。小さいところでやったほうが合うよなとか、そういうふうに感じるアーティストさんもいるんですけど、お風呂でピーナッツはある程度、いい規模感でやりたいです。音響的にも、音楽が聴こえる規模感の最大限という感じですね。東京ドームはちょっと大きすぎる(笑)。

樋口:それはそれで、絶対似合うアーティストの方はいるんですけど、お風呂でピーナッツはやっぱりある程度、音響がいいことを担保された状態でやりたいですね。

若林:いろいろと、複合的な遊びをしたいですね。それこそ、ボーカルの樋口可弥子がモデルであることを生かして、服の見せ方を考えるとか、自分はバックグラウンドにビッグバンドがあったりするので、ホーン隊やストリングスを呼んだりとか。いい規模感で面白いことができることが、一番面白い活動になるだろうなという感覚です。

──いい規模感って、いいワードが出ましたね。幅が広くて使いやすい(笑)。どうにでも変化できますからね。その時の気持ち次第で。

若林:気づいたらまた、違う“いい規模感”になっているかもしれない。でも今描いているいい規模感は、ホールとか、音響設備の整ったところですね。そういうところでできればいいなと思っています。どうですか、樋口さんは。

樋口:私もやっぱり、ホールでやりたいというのは同意見ですね。1st EPの時も、今回の2nd EPも、曲単位ですごく印象が違うものになっているなと私的には思っていて。たぶん二人とも飽き性で。ずっと同じような曲をやるという潔さやカッコよさもあると思うし、秘伝のタレを守り続けるタイプの職人系アーティストの方もいるけど、私たちはもっといろいろ試してみたいし、いろいろやってみたいという気持ちが大きいのかなと思うので。それがベストな状態で叶えられるのは、ホールの規模感なのかなと思うので。同意です。

──応援します。ゆっくり、着実に目指しましょう。

若林:そうですね。楽しみです。

取材・文◎宮本英夫

■2nd EP『スーパー銭湯 2』

2024年4月17日(水)配信開始
※ストリーミングサービスおよびiTunes Store、レコチョク、moraなど主要ダウンロードサービスにて
▼収録曲
1. 後夜
2. 秋
3. 電気
4. 擬態
5. エンドレス
6. モノトーン

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