80年代のプロレス界最大のミステリー、“呪われた”フォン・エリック一家。長年謎だった事柄がいくつか判明する…

これまでプロレスを題材にした映画は世界各国で数多く作られてきたが、このたびハリウッドで超名作が誕生した。それが4月5日から日本でも全国で公開される映画『アイアンクロー』である。

同作品はプロレス界最大のミステリーと言われている“呪われた”フォン・エリック一家がテーマ。フォン・エリック一家とはアイアンクローが必殺技だった“鉄の爪”フリッツ・フォン・エリックと、彼の意志を継いでレスラーになったその息子たちを指しており、ファミリーとして2009年にはWWEの殿堂入りも果たしている。

父のフリッツは日本ではジャイアント馬場の好敵手として活躍。現役引退後はアメリカでNWAのプロモーターとして、テキサス州ダラスをテリトリーにWCCWという団体を運営していた。フリッツにはジャック・ジュニア、ケビン、デビッド、ケリー、マイク、クリスと6人の息子がいたが、ジャック・ジュニアは幼少期に感電死したため、プロレスラーとしては他の5人がデビュー。今作は唯一の存命者である次男ケビンの視点によって描かれている。
息子たちがデビューした1970年代後半から80年代前半は、日本も含めてNWA世界ヘビー級王座が世界最高峰とされた時代で、当時チャンピオンだったハーリー・レイス、リック・フレアーが盤石な強さを誇っていた。フリッツは自らが巻いたことのないNWAのベルトを息子たちに獲らせるため、プロモーターとしての手腕を発揮していくが、これが悲劇の始まりだったとは誰も知る由もなかった。

フリッツは最初にデビューしたケビンにNWA世界王座獲りを期待するも、三男のデビッドに人気が出ると、ケビンではなくデビッドを次期NWA世界王者として売り出していく。デビッドはフリッツの尽力もあり、1984年にダラスで王者フレアーへの挑戦が決まっていたが、全日本プロレスで来日した際にホテルで内臓疾患により急死する。

その後、テキサススタジアムで行なわれたデビッドの追悼大会で四男のケリーがフレアーに挑戦し王座を奪取。エリック一家にとっては待望のNWA世界王者が誕生した。この模様は、当時テレビ東京系列で放映されていた『世界のプロレス』で日本のお茶の間にも流された。 しかしケリーはその後、NWA世界王者として来日するも横須賀で行なわれたタイトル戦でフレアーに敗れ、王座から陥落してしまう。わずか18日間の天下だったが、その後も日本では『世界のプロレス』でWCCWの試合が日本語実況付きで放送された。今作では同団体に参戦していたブルーザー・ブロディやファビラス・フリーバーズなどレスラーたちはもちろん、聖地スポルタテリアムも完全再現。TVショーの雰囲気も再現度が高い。

一家と関係性が深かったブロディが全日本から新日本プロレスに移籍したこともあり、ケビン、ケリー、マイクの3人は新日本にも参戦している。しかし、1986年にケリーがバイクで事故を起こして右足を切断し、1987年には怪我に悩んでいたマイクが服薬自殺。義足をつけて復帰したケリーはWWF(現WWE)に移籍してインターコンチネンタル王者になるなど活躍するも、コカインで起訴されると1993年に拳銃で自殺した。劇中では描かれていないが、1991年には身体が小柄だった六男のクリスも拳銃で自ら命を絶っており、“呪われた”フォン・エリック一家で現在も存命なのはケビンだけとなった。
映画の構成上、若干時系列に差異はあるものの、今作ではプロレスファンにとって長年謎だった事柄がいくつか判明する。またNWA世界ヘビー級王座がどれだけ権威があったのかもわかるはずだ。ケビンとデビッド以外の兄弟は、実はレスラー志望ではなかったというのも注目すべきポイントで、人間ドラマとしてもしっかりと作られており、プロレスへのリスペクトを感じる作品となっている。

現在のプロレスファンにも響くものがあるだけに、ぜひ劇場で1980年代のアメリカンプロレスの物語を観てもらいたいと思う。エンドロールの最後の最後に出て来るクレジットまで要チェックだ。

取材・文⚫︎どら増田
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