船橋・津田沼のキラリと光る酒場6店。扉の向こうは酒飲みの桃源郷でした。

チェーン店の多い印象があるこのエリア。でも実際に歩いてみると、燗酒や自然派ワイン、クラフトビールにと、酒に尋常ならざる愛を見せる個人店も点在していた。
暗がりの扉の先に、キラリと光る酒場あり。

朗らか母娘と燗酒で心ぬくぬく。『へちもん』[京成津田沼]

豊後の釣りアジなどが彩った刺し盛り1580円、ウドの酢みそ和え550円。「扶桑鶴」純米吟醸袋吊り1合980円。
新じゃがとあげさんの煮物750円。
習志野の『酒のはしもと』から仕入れる銘酒が並ぶ。
常連が通うテーブルとカウンター席。手前に小上がりも。

「料理は母の味」と娘の真貴(まき)さんがいうように、イリコと昆布で取った出汁や愛媛県八幡浜(やわたはま)直送の魚介など、愛媛出身の母・こずえさんならではの味付けと食材。10数年前、真貴さんは燗酒の魅力に開眼し、猛プッシュ!「はやりは追わず、造り手を知ってる蔵しか仕入れません」。燗酒と母の味の相性はすこぶる良く、鳥取の「日置桜」生酛純米酒 本懐の盃1100円はカワハギ刺しや真鯛刺しのうまみに寄り添う。いつも元気なこずえさんの笑顔で、酔い、極まれり。

一見も常連も分け隔てなく接客するこずえさん、真貴さん母娘。

『へちもん』店舗詳細

へちもん 住所:千葉県習志野市津田沼6-5-1/営業時間:17:30~22:30/定休日:日/アクセス:京成電鉄本線京成津田沼駅から徒歩12分

妖しい階段の先に豊穣なる日本ワイン。『泥棒日記』[京成船橋]

着物姿の店主。エリー農園の新鮮野菜880円、「くらむぼん」甲州グラス880円など。
鴨モモと仔羊、『TARO』のソーセージのカスレ3850円。オレンジワインの「Ripe2019」グラス1980円など。

日本ワインの誠実な生産者を応援したいと、木村未穂さんが2022年に開店。「農薬や防腐剤を極力使わない、自然や人の体に寄り添うワインを選んでいます。最近は食用ブドウで作るおいしいワインも!」。千葉県八街市の無農薬ブドウで造られる「いろは」や北海道で有機栽培された山幸(やまさち)で醸す「トイ・ホプニ」などボトルは200種余。料理は佐倉のエリー農園の有機野菜や県産いも豚など地元食材が主役だ。

スナックのような雰囲気。

『泥棒日記』店舗詳細

泥棒日記 住所:千葉県船橋市本町4-39-10 興和第三ビル 201/営業時間:17:00~24:00/定休日:火/アクセス:京成電鉄本線京成船橋駅から徒歩4分

ナチュールとグリルの口福な出合い。『グリルとワイン COCCIO 831(コッチョ はちさんいち)』[京成船橋]

右は自家製生チーズととちおとめ968円。オーストラリアのオレンジワイン「ロックペットナット」(左)はボトル5478円。
季節野菜のバーニャカウダ980円をはじめ野菜料理も名物。
8坪の店舗は満席率高め。

看板は、素材の味を活かしたグリル料理。「じっくりとうまみを引き出すときは厚さ3cmの溶岩石、香ばしくパリッと焼くなら南部鉄器と使い分けてます」と村田雅史さん。鼻に抜ける野性味が絶妙なラムチョップ1本1408円や、1カ月寝かして甘みが増したジャガイモのポテトフライ550円で赤ワインが無限ループ。スパークリング以外は自然派ワインで、グラスは全部1000円以下なのもうれしい。

「チャージ、お通しはなし。気軽に自然派ワインを楽しんで」と村田さん。

『グリルとワイン COCCIO 831』店舗詳細

グリルとワイン COCCIO 831(グリルとワイン コッチョ はちさんいち) 住所:千葉県船橋市本町4-4-4 2F/営業時間:17:00~23:30/定休日:日(月2回不定休あり)/アクセス:京成電鉄本線京成船橋駅から徒歩2分

大型セラーを備え酒への偏愛度は船橋隨一。『自然派ワインとアテ F』[京成船橋]

生ハム&サラミ盛り並990円。生ハムはフランスのオーベルニュ地方のものでふわっとなめらか。前菜盛合せ1100円。グラスの赤ワインは“うす旨”の「オートル・ショーズ」1155円。
豚バラ肉のポルケッタ2200円。
店内に約2畳のワインセラーが。

「開業以来、ワインのナチュール比率が上がり、3000本近くストックがあります」と橘唯(たちばなゆい)さん。現地へ足を運んだスロベニアの「ムレチニック」1760円やイタリアの老夫婦が醸す「ボルガッタ」990円など、生産背景の見える美酒がずらり。ほかに日本酒やシングルモルト、大多喜で造られたボタニカル・ブランデーまで酒の顔ぶれは幅広く、原木から切りたてを出す生ハム&サラミ盛りをどれに合わせるか悩む!

全32席。

『自然派ワインとアテ F』店舗詳細

自然派ワインとアテ F 住所:千葉県船橋市本町3-1-2/営業時間:11:30~14:00・18:00~24 :00(土・日・祝は17:00~)/定休日:不定(日~火はランチ休)/アクセス:京成電鉄本線京成船橋駅から徒歩4分

深淵なる琥珀色の世界に耽溺。『ゆる燗酒場 煮りん』[京成船橋]

にごり酒が隠し味の豚のリエット自家製パン添え580円(中)など。
本マス刺のルイベ880円、酒米を作る農家、酒造年度が違う3種の酒で織り成す「日置桜」煮りんブレンド1050円。
カウンターの上にはおばんざい4~5皿が並ぶ。

船橋の2号店として2021年に開業。「千葉市の1号店と同じく燗酒はもちろん、熟成酒にも注力。燗酒は合う料理が幅広く、熟成酒は想像以上に“化ける”のが魅力です」と清水貴司さん。30種以上揃う熟成酒から、平成28・29年と酒造年度の違う2種で造った「冨玲(ふれい)」煮りんブレンド1050円を頼むと、ビターで熟味が力強い。白レバー刺風(さしふう)550円とともに味わえばレバーは口で溶け、うまみの余韻がふわり。

縄のれんに趣あり。

『ゆる燗酒場 煮りん』店舗詳細

ゆる燗酒場 煮りん(ゆるかんさかば にりん) 住所:千葉県船橋市本町2-28-25/営業時間:17:00~24:00(金・土は15:00~)/定休日:日・月/アクセス:JR総武本線船橋駅 徒歩5分

『ならしのクラフトビール むぎのいえ』は、ご近所にも愛されるブルワリー酒場。[谷津]

右から「KOHAKU」760円、「谷津遊路」790円(各Mサイズ)、ビールを燗で楽しむ「紫薫」880円。ゲストビールなしで常時10数種揃う。
モルトの香り濃厚な「むぎのくら」M790円。習志野ソーセージ&ベーコングリル1290円、フィッシュ&チップスhalf 790円。

各ビールの名前を見ると「玄なる」や「紫薫(しくん)」など、どこか文学的。「谷津で醸造している意味・物語性を大事にしてます。ペールエールの谷津遊路は、干潟の野鳥のさえずりや花を想起させる華やかな香りに仕上げました」と代表の今井貴大さん。2坪の工房で醸造し、製瓶・製缶をしないので、飲めるのはここだけ。ただ、マイクロブルワリーに多い気取った雰囲気はなく、接客は温かい。家族連れや学生も集う、ご近所の愛され酒場でもあるのだ。

日々、新作の仕込みをする今井さん。
店内はほぼ今井さんのDIY。

『ならしのクラフトビール むぎのいえ』店舗詳細

ならしのクラフトビール むぎのいえ 住所:千葉県習志野市谷津4-6-33 K&Y 時・遊・館1F/営業時間:16:00~22:00ドリンクLO(土は11:30~22:00ドリンクLO、日は11:30~21:30ドリンクLO)/定休日:火/アクセス:京成電鉄本線谷津駅から徒歩3分

取材・文=鈴木健太 撮影=オカダタカオ
『散歩の達人』2024年3月号より

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