「リーダーは変われる」と証明したシメオネ。ポゼッションを捨てていた指揮官が“別人”のプレーモデル構築に成功しつつる【コラム】

ディエゴ・シメオネ監督が率いるアトレティコ・マドリーは、チャンピオンズリーグ(CL)でインテル・ミラノをPK戦の末に下し、ベスト8に駒を進めている。

<リーダーとして大いなる可能性を示した>

そう言えるだけのトピックだった。

なぜなら、シメオネ監督は「ポゼッションに意味はない」とボールゲームを否定し、徹底的に「相手が嫌がる戦い」を構築してきた。サッカーのスペクタクル性を放棄し、勝利の執念をひとつに集約したような熱量によって、しぶとい守備から隙を突いたカウンターという術式で、アトレティコを欧州で屈指のチームに。球際を含めて戦闘にすべてを捧げることで、どれだけ無様でも勝者になった。

その戦い方は、シメオネ自身の“パーソナリティの具現化”にも見えた。

選手時代からシメオネは、勝利のためには悪辣なプレーも辞さなかった。アグレッシブさとラフの間のプレースタイルで、ゴリゴリと反則すれすれで相手を削り、ねじ伏せ、怯んだところで優位に立つ。その戦闘スタイルをインテンシティや強度に置き換え、率いるチームにも取り入れていた。勝利に至る手段として、ボールをつなげる、という難しい作業を省いてリスクを下げ、リターンを勝ち取ったのだ。

そのプレーモデルは、“指揮官の性格だけに変わらない”と思われていた。
ところが、昨シーズンの半ばから大きく変化している。ボールを持って、運び、ゴールを狙う。その手段を磨いてきた。
CLラウンド16、セカンドレグのインテル戦はその結実だった。

後半も残り5分を切り、1-1と同点も2試合合計だと1点リードされて絶体絶命。昔のシメオネ監督だったら、パワープレーを命じていたが、むしろ高さのあるアルバロ・モラタをベンチに下げ、足元の技術が高いメンフィス・デパイを投入。そして選手は巧みにパス交換をし、相手を押し下げて前線に人を増やすと、コケのパスからメンフィスが反転から右足を振り抜き、ネットに突き刺した。

ボールを握って攻める術式を鍛錬してきた効果を出したのだ。

後半アディショナルタイムにも、アントワーヌ・グリーズマンからのクロスを同じく交代出場のロドリゴ・リケルメが決定機を迎えていた。一貫して攻撃し続けて勝つ姿勢を崩していない。それは延長戦も変わらないし、2試合トータルの印象だ。

【動画】CLアトレティコ戦でインテルのエースがとんでもないPK失敗
結果はPK戦でギリギリの勝利だが、昔の勝ち方とは一線を画す。言い換えれば、シメオネは別人のプレーモデル構築に成功しつつある。戦いへの熱量は変わらず、ボールをどう扱うか、の術式にシフト。同時に、持ち前の戦闘力も落としていない。

<リーダーは変われる>

それを世界に向けて提示している時点で、画期的と言えるだろう。

文●小宮良之

【著者プロフィール】
こみや・よしゆき/1972年、横浜市生まれ。大学在学中にスペインのサラマンカ大に留学。2001年にバルセロナへ渡りジャーナリストに。選手のみならず、サッカーに全てを注ぐ男の生き様を数多く描写する。『選ばれし者への挑戦状 誇り高きフットボール奇論』、『FUTBOL TEATRO ラ・リーガ劇場』(いずれも東邦出版)など多数の書籍を出版。2018年3月に『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューを果たし、2020年12月には新作『氷上のフェニックス』が上梓された。

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