[社説]保育死亡事故報告書 重い教訓 形にせねば

 元気ならもうすぐ2歳。親子でおしゃべりを楽しむこともできたはずなのに、その機会は永遠に訪れない。

 2022年7月、那覇市内の認可外保育施設で生後3カ月の男の子が死亡した事故で、市が設置した検証委員会が報告書をまとめた。

 必要な健康観察や安全確認を怠った園の責任、その園の安全管理の不備を見逃した行政の責任を厳しく指摘する。

 男児は一時預かりを利用しており、母親が迎えに行った際、異変に気付いた。心肺停止の状態で病院に運ばれ、その後、死亡が確認された。

 報告書によると、窒息事故や乳幼児突然死症候群のリスクが高まる「うつぶせ寝」にさせられ、睡眠時の呼吸確認も不十分だったという。

 職員の1人は早い段階で異変に気付くが、施設長は状況を確認せず、救急要請するなどの対応も取らなかった。園には事故予防マニュアルがなく、人員基準も満たされていなかった。

 保育環境も保育方法も保育所運営も、幼い命を預かる施設として、あまりにずさんである。  

 検証委は20回余にわたる会議で職員や利用者、遺族ら計27人から聞き取り調査を行った。しかし当日現場にいた施設長からは話を聞いていない。本人が調査に応じなかったためだ。

 「何があったのか知りたい」との遺族の切実な思いに誠実に向き合うことが、子どもの育ちを支える専門職として最低限の務めだが、果たされていない。

 結局、どのようにして亡くなったのかという真相解明の点からは不完全な報告書になってしまった。

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 報告書には、もう一方の当事者である那覇市の監督責任についても厳しい言葉が並ぶ。

 市は事故前年、この園への立ち入り調査で、生命・身体に関連するものを含む12項目の改善指導点を確認しているが、長くたなざらしにされた。「設置者に対する出頭要請や特別立ち入り調査を行うべきだった」との苦言は当然である。

 今回の検証では新たに、この施設長が、以前に勤務していた園でも問題を起こし、市の指導を受けていたことが明らかになった。

 誰もが安全安心な保育を受けられるようにするには、課題や教訓を生かす何らかの仕組みづくりが求められる。

 それが保育の質の確保につながるのは言うまでもない。

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 再発防止に向けた提言には、保育施設に対し緊急時対応マニュアルの整備や心肺蘇生訓練の実施、寝かし付けはあおむけを原則とすることなどが盛り込まれる。

 どれも「当たり前」に聞こえるが、事故の情報を保育現場で共有し、教訓を血肉化する取り組みによってしか対策の実効性は高まらない。

 さらに市には事業停止を含む監督上の措置の強化、国には自治体に十分な調査権限を与えるよう求める。

 指導に従わない施設に対しては、毅然とした態度で臨む必要がある。二度と悲劇を起こさないために。

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