【バイタルエリアの仕事人】vol.38 川島永嗣|「人気がないのがよく分からない」「人間の動作を超える」根っからの守護神が伝えるもどかしさと奥深さ

攻守の重要局面となる「バイタルエリア」で輝く選手たちのサッカー観に迫る連載インタビューシリーズ「バイタルエリアの仕事人」。第38回は、今季からジュビロ磐田の一員として戦う川島永嗣だ。

前編では、自身のコンディションから、14年ぶりのJリーグ復帰で気付いたサッカーの変化、国内外での文化の違いを尋ねた。後編ではまず、11人の中で1人違う色のユニホームを身にまとい、唯一手が使える特殊なポジション、GKへの熱い想いを語ってもらった。

日本ではあまり人気がなく、最初から務める子どもは少ないイメージもあるなか、川島は“根っからの守護神”だ。

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僕はサッカーを始めた頃から、友だちとサッカーをやる時もキーパーでシュートを止める方が好きでした。単純にシュートを止めるのが楽しかったです。キーパーは、人間ができる実際の動作を超えてプレーするので、不可能に挑戦しているじゃないですけど、それを成し遂げられる唯一のポジションだと思います。

ゴールキーパーってすごく楽しいポジションだから、人気がないこと自体、いまいちよく分からないです。マイナスのイメージ、例えば、常にミスと隣り合わせで、責任を多く取らなければいけないけど、良い面を見れば、今言ったみたいに不可能を可能にできるし、フィールドプレーヤーとは違うものを見せられるので、良いところはたくさんある。良い面にフォーカスした時に、普通に考えれば、楽しいけどなと僕は思います。

だから、フランスにいた時に自分の子どもが「キーパーをやりたい」って言っても、みんながやりたくて、なかなか順番が回ってこない、そういうポジションなんですよね。それはやっぱり「俺が止めてやる」とか、止めている姿がかっこいいに繋がっていて。だから、みんながやりたがる要素はすごくあると思います。

小さい時からミスなんか気にする必要はないし、やはり楽しむことを第一に考えるべき。それはフィールドプレーヤーもそう。そういう、もうちょっと軽い気持ちでやれれば、楽しいことはたくさんあります。

そもそも、キーパーがマイナスのイメージを植え付けられているから、やりたがらない部分はあるんじゃないのかなと。例えば、上手くない子がキーパーをやらされるとか、背が高いからやらされるイメージが染みつきすぎていて、だから嫌だってことが多いんじゃないのかなと思います。

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川島は生まれ育った日本のほか、ベルギー、スコットランド、フランスでも活躍。「今後、プレーしてみたいリーグや国」を訊いてみると、「ないですね」と笑みを浮かべた後、これまた特殊なポジションならではのエピソードを披露してくれた。

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自分が行った国に行けて良かったなと思っていることの方が多いです。やっぱり、ベルギーとスコットランドでサッカーの違いがありましたし、フランスでも全然違いました。違う国やチームでやれたことで、自分が学べたことは非常に大きかったです。この3つの国に行けたことで、自分のサッカー観がだいぶ変わりました。

簡単にスペインでやりたかったとか、プレミアでやりたかったって言葉は、自分の中ではあまり出てこないですね。キーパーで、外国人の立場になるわけですよ。

スペインはEU圏外の枠が3つしかないので、キーパーにヨーロッパ人以外の枠を使うってなかなかないんですよね。ヨーロッパの中でレベルが高いゴールキーパーがたくさんいるなかで、そこにまず勝たなきゃいけない。なおかつ、外国人枠に入らなきゃいけない。

だからちょっと、キーパーはやっぱり違いますよね。イタリアでも外国人枠は2だし。まずヨーロッパの高いレベルの中で競争があって、勝ち残っていかなければいけない。なおかつ、枠の問題があって。フランスも枠が限られていて、その枠を取りに行かなきゃいけないというところでは、簡単に「どこでやりたかったな」って、言葉としては出てこないかな。

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川島がカタール・ワールドカップ後に「ここが一区切り」と線を引いた日本代表には、長友佑都がカムバック。37歳の元気印は合流初日からハッスル全開で、熱量不足が指摘されるチームに活力をもたらした。41歳の守護神は、同じベテランとして、長年共闘した盟友として、今回の復帰をどう見るのか。

また、以前『報道ステーション』で内田篤人氏からインタビューを受けた際にも、アジアカップでゴールを守った鈴木彩艶に触れていたなかで、改めて日本代表への向き合い方を説明。“第三者”として自身の考えを明確に示した。

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多分、僕が若い選手だったら、なんでベテランが使われるんだとか、そう思っているはず。だから、若手はそういう選手が必要じゃないぐらい、もっとやればいい。

僕らは僕らで、年齢を重ねても高いレベルを求め続けなければ、日本代表もそうですし、Jリーグの舞台にも立つことはできないので。

それは、ベテランだろうが若手だろうがあまり変わらないと思う。佑都がもう1回代表に戻ってきたのも、年齢を考えて行動しているからというよりは、彼自身が高いレベルを求め続けているから、あの場所に戻っているんじゃないのかなと思います。

日本代表に対しては、今僕が言いたいことは何もないというか、今になって話をしたいとは思わないですし、する立場でもないと思う。

だから報道ステーションで言ったのは、別に日本代表だろうが、そうじゃなかろうが、高いレベルでサッカーをやれている時間は本当に貴重ということ。良いことばかりあるわけじゃない、良く感じない部分も含めて、やっぱりサッカーだし。高いレベルに行けば行くほど、犠牲が伴うのは当たり前なんですよ。

これは、アジアカップだけの話じゃなくて、Jリーグ、ヨーロッパでやる選手にも当てはまること。高いレベルでやっていることを噛みしめて、とにかくその瞬間を生きることが大切だという意味です。

※このシリーズ了

取材・構成●有園僚真(サッカーダイジェストWeb編集部)

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