【ひのみやぐら】増えている「叱れない上司」

新入社員が入社してくる季節。希望を胸に膨らませる若者が、災害に遭わないようにするためにも厳しく指導をしたいところだ。一方で近年は丁寧な指導を求める傾向が強まり、その副作用からか「叱れない上司」が増えているという。

叱ることに躊躇する理由としては、パワーハラスメントと捉えられてしまうのではないかというリスク、強く指導すると部下がメンタルヘルス不調に陥ってしまうのではとの懸念、厳しく注意したことで嫌われるのが怖い、職場で浮かないようにするための過剰なまでの配慮などが挙げられる。

とくにパワハラに関しては法整備が進んだことからか、配慮し過ぎる傾向が見られる。上司が巻き込まれまいとあえて知らぬ顔の半兵衛を決め込んだり、定義を拡大解釈した部下が「それってパワハラですよね!」と逆ギレをするなど一部で本来の趣旨とは異なる方向に進んでいるような観がある。

必要以上にハラスメントをおそれ、指導や注意をしないのは問題だ。部下に対して教育を怠っているのと同じで、本人の成長にも会社の利益にもならない。部下を育てるには「上手な叱り方」をする必要があるだろう。

一昔前は「親父」「親父さん」と呼ばれる人が現場にいた。仕事への信念や自分の経験から学んだことを伝え、遠慮なしに厳しく指導できる人物だ。今思うに親父さんたちは「叱り方」のスキルが高かったように思う。まずは感情的にならない。「怒る」という感情は、あくまで自分の鬱屈を吐き出すもの。怒りに満ちていた顔をしたとしても、それは相手を思ってのことで「叱る」とは別といえる。

親父さんというのは、「ケガをしてもらいたくない」「後輩に早く一人前になってほしい」からこそ叱る。そこにあるのは愛情であり、信頼関係だ。後輩も厳しく指導されても、自分の成長につながると思えるからこそ、受け入れることができる。上手な叱り方とは、相手のことを第一に考えるということではなかろうか。

コンプライアンスなどに敏感になり、何かと息苦しさを感じる時代になったが、上手に叱れば萎縮する必要はない。

© 株式会社労働新聞社