試作品で開発者が妊活成功!? 思春期から更年期まで女性のリズムに寄り添う「わたしの温度®」開発者インタビュー

「基礎体温」を記録した経験は、ありますか?

枕元に婦人体温計を置いて寝て、毎朝同じ時間に、起きたばかりの状態で動かず(寝返りや、のびなどもせず)5分間体温を測り、すみやかにグラフに記入する……という、この一連の流れを何ヶ月も続けることを負担に思う人も多かったのではないでしょうか。

さらに、すでにお子さんがいて、二人目の妊活で基礎体温を記録している女性を想像すると、「一人目のお子さんが起きている状態で5分間身じろぎもせずに測る」のは無理なのでは?とすら感じます。

今回はこれらの悩みに寄り添う商品である「わたしの温度®」に関して、開発者インタビューを行いました。

「わたしの温度®」は、デバイスを専用のナイトブラにつけて寝るだけで女性特有のリズムを手間なく把握できる商品。温度のデータはアプリに自動的に転送されるので、記録する煩わしさもありません。

話してくださったのは……TOPPANエッジ株式会社

イノベーションセンター イノベーション推進部 健康ビジネスチーム 廣瀬さん 都成さん

「自分自身が、体温測定にわずらわしさを覚えていたのです」

廣瀬:開発がスタートしたのは2017年です。当社の技術を使って「電気を流すインクで回路を印刷して、薄くて柔らかいセンサーを作ろう」というところからスタートしました。

私自身が妊活中だったこともあり、女性の基礎体温に着目したのです。一緒に開発しているメンバーとアイデアを出し合い、薄くて柔らかい温度センサーを下着に付けて、女性の生理周期をモニターできたら面白いのではないかとなりました。

私は2016年に結婚し、妊活をスタートしました。そのタイミングで婦人体温計を購入して朝の温度計測をスタートしたのですが、その当時36歳だったこともあり、焦りがあって「しっかりやらなければ」と思っていました。しかし、朝の忙しい時間のなかで温度を計測するのが非常に負担になっていて、「みんな、こんなことを当たり前のようにやっているのかな?」と思いました。

慣れてくればできるのかもしれませんが、体を動かさずに毎日、口の中の”同じ位置”で測るのは、意外と難しいですよね。位置がずれると温度が変わってしまうし、これはテクニックが必要だなと実感しました。さらには、温度計測をしたあと速やかに手帳やノートに書かないと忘れてしまいます。このふたつが「簡単なようで難しい」と、そのとき思ったのです。

実際に使っているみなさんの声

廣瀬:「わたしの温度®」を使っていらっしゃるユーザーは、現在のところ妊活をされている方が大半です。「すごく楽」と言うお声をいただくことが多いです。妊活を終えられた方たちからも「もっと早く知りたかった、知っていたら絶対に使ったのに」と言われます。

また、ウェルエイジング(更年期)、ビューティー&PMSモードでお使いいただいている方もいらっしゃいます。

更年期になる少し前の時期から使っていただいていると、徐々に生理の周期が乱れてくるのが分かるので、心の準備ができます。また、PMS で悩まれている方も、次の生理日がいつ来るか予測ができるので、身体に変化が起こるまえに気づくことができる、準備ができるというお声をいただいています。

月経随伴症状による「働く女性の労働損失額」は年間約5千億円

都成:企業向けに、女性の労働損失の改善をする目的で「わたしの温度®」を活用した実証実験を行っている最中です。女性が赤ちゃんを産んだあとも社会復帰できる社会にするということ、そして年を重ねていってオトナサローネ世代に進んで「苦しい」「負担がある」「管理職になっちゃった」という葛藤があるなかで、どうやって楽になれるか、周囲の女性も楽になれるか……そういったことを考えた上での策を出さなくてはならないと思っています。

今年、経産省の公募事業に採択され、実際の企業フィールドを使わせて頂き実証実験を進めています。

実際に「わたしの温度®」を使ってもらい、ご自身のリズムを把握してもらうのです。まずデバイスでご自身の温度を把握した上で、産婦人科医の先生の研修を受けていただきます。

場合によっては相談サービス(「わたしの温度®」のアプリについているサービスで、産婦人科医や小児科医にオンラインで医療相談できる機能)も使っていただいたり、パートナーとも情報を共有していただいたりします。 この実証実験は今年度中に完了するのですが、良好な結果が得られている状況です。来年度には商用化サービスも検討しています。

月経随伴症状による「働く女性の労働損失額」は年間約5千億円と言われているなかで、働く女性に対しての新しいサービス提案や、トータル的なソリューションをやっていきたいと思っています。

女性ならではの悩みを、男性にもわかるよう数値化する

都成:開発チームのメンバーの男女比は、現在ほぼ1:1です。男性開発者がプロジェクトに参加したことで、製品の設計に影響があったと思います。

男性の視点から「やったほうがいいよね」と開発されたのが「パートナー共有機能」です。男女混合のチームで仕事をしているうちに「(不調は)女性のホルモンの影響なんじゃないか?」とみんな分かってきたのです。「それをパートナーに共有すると便利なのでは?」という話が、早い段階から出ていました。PMSや生理痛などで不調な期間が長く、1ヶ月のうちで10日くらいしか元気でいられないという方がいます。でも、それを周囲に伝えてもよいのだと、なかなか思えないのが現状です。

私自身、妻の機嫌が悪いと「会社で何かあったのかな?」「子どもと何かあったのかな?」と想像する努力はしていましたが、私が男性である以上、実際に体験はできないので限界がありました。しかしこの仕事に携わることで「これはもしかして生理周期の影響?」と思いが至るようになったのです。妻のリズムを把握し、生理が起こる前のイライラ期には思いやりをもって早めに帰るようにするなど、実際に行動に変化がありました。夫である私がデータを見ているのは大きいと感じます。

このような背景から「パートナー共有機能」が誕生しました。女性の不調の可視化が大切です。「つらい」と言葉にしても男性にはなかなか伝わりづらいですが、データで出すと伝わることも多いと感じています。

ジェンダーギャップ指数において日本は後進国で、125位(2023年6月)です。先進国のはずなのに、そこに意識が高くないというのは、やはり男性の理解がこれからなのだと思います。国は女性版骨太の方針(女性活躍・男女共同参画の重点方針)を打ち出していますね。少子化もあいまって、女性にずっと働いてほしいのかなと感じます。それなら、女性が抱える問題をもっと解決していかなければいけません。PMSなど月経随伴症状について知っている男性は、「女性が苦しんでいる」事実をもっと男性にも分かっていただく社会にならねばと思います。

女性の問題を解決するには、社会全体を変える必要がある

廣瀬:「女性活躍推進」「労働損失の改善」という社会の流れで、さまざまなサービスができつつあります。しかし、それを会社で採用するかどうか判断する人が男性で、その男性が女性のつらさを理解していないと、採用にはならない……というところで各社が悩まれているとお聞きしました。

都成:生理休暇はまだ取りづらく、有給で済ませている実態があります。「うちの会社はここまで福利厚生しています」と言えず「働かない人はバイバイ」という姿勢では、その企業は淘汰されてしまう時代になると思われます。女性活躍推進など、新しいステージに進める会社が生き残っていくと感じています。これは女性だけの問題ではないのです。男性や企業、社会全体で「働きたい人がちゃんと戻ってこられる」しくみを作る必要があると思います。

開発中に直面した最大の課題は

廣瀬:はじめは、柔らかいフィルムに回路を印刷して温度センサーを作るというアイデアからスタートしました。わたし自身が化学の研究者であり、材料となるインクの合成などに携わっていたのです。低温期と高温期の温度差は約0.3度しかないのですが、印刷で作ったものだとそれを検知する精度が出せなくて「これじゃダメだ」となりました。

そこで方向転換し、通常の電子基板を使ってデバイスを作ることにしました。ただ自分は基板設計ができないので、周囲に協力を要請しました。開発当初のメンバーは2人でしたが、別の部門からも人材が集まり「部横断型プロジェクト」として開発が進み始めました。基板設計などの知識がない自分が様々な部署のメンバーを取り纏める……最初の大変な経験でした。

都成:当時は「次世代商品開発部」という大きな部署の中のひとつに、廣瀬たちが考えたアイデアがあったと記憶しています。廣瀬の熱意で歯車が回り始めたのはいいけれど、部署もないので、共感や認知を集めるのに苦労したと思います。

私にとっても、今までの経験・知見にはない仕事でした。当時はコロナ禍もあり健康の大事さが伝わる時期ということもあり、会社としてもヘルスケアに関する部署を新設し、そのタイミングで私がリーダーを拝命することになりました。今は人数が増えましたが、後から加わった人材のほうが多いくらいです。

なんと、試作品で続々妊娠!

廣瀬:開発をスタートして「フィルム型から通常の電子基板に変えよう」となったときに、その筐体(ケース)デザインを都成さんにお願いしたのです。「ここだけを、ちょっとやってください」みたいな形で、メインの仕事の合間に作っていただいていた。出来上がった筐体に基板を実際に入れ込み、ある程度動きのある試作品が出来上がったのです。開発がスタートしてから1年ちょっと経った頃ですね。そこからは先ほど話したプロジェクトチームの形になり、みんなで「わたしの温度®」に対する開発を行いました。

動作するものを作るまでは早く、スタートから1年半かかりませんでした。私はそれで試作評価をしていたのですが、妊活のタイミングとも重なり、無事妊娠することができました。従来の形での基礎体温計測が続かなかった私は「わたしの温度®」に関わらなければ妊娠できなかったと思っています。試作品の時点で、精度良くリズムを把握することが証明できたことは、その後の事業立上げを考えても大きかったように思います。

都成:手伝って欲しいと懇願された気持ちとは別に、実際に妊娠したという事実を目の当たりにし、この製品の担保性や性能、使いやすさが実体験として理解することができました。起きてすぐ舌下で測るのは、自分に置き換えて考えると朝の忙しいときにやっていられません。こうやって実際に結果を残すというのは、発想自体が尖っている事実を示している訳で、ぜひ製品化すべきと私自身も感じました。

廣瀬:どんな体型でも正確に測れるかという検証を行う必要があったので、社内で女性10人に協力してもらったのですが、なんとその実験で10人中4人が妊娠しました。デバイスの効果もあったと思いますが、使ったみなさんは「妊活のタイミング」など意識がどんどん高まるようになるので、そういう面でもプラスに働いたのではと感じております。

コロンとした形の秘密

廣瀬:皮膚で温度を計測したいときに難しいのは、外気の温度の影響を受けてしまうところです。外気の影響をキャンセルするために「わたしの温度®」には温度センサーが2つ付いています。皮膚側の温度、外部の温度、このふたつの温度を用いて計算を行い、身体の中心部の温度を推測しています。この考え方についても、当初はメンバーに理解してもらうことが大変でした。

デバイスをどのような形にするのかということも、難しい問題でした。女性は細い人、ふっくらした人、胸の大きな人など様々で、体型によって熱の伝わり方が当然異なります。「どの人が使っても同じように計測できる」ということに、特に力を入れて開発しました。

今後の進化は

都成:「わたしの温度®」は、寝ている間につけるデバイスですので、今後は「スリープテック」分野にも力を入れていきたいと思っています。人間は人生の3分の1を寝て過ごすわけですが、睡眠については、まだまだ未解明の部分が多くあると言われます。ですので、寝ているときの体温や体の向き以外にも、たとえば心拍などのデータも取得したいと思っています。センシングできるパラメータが増えれば増えるほど、その人の体調を鮮明に割り出すことができますので、そこから得られる世界というのが、TOPPANエッジが狙っているビッグデータの領域です。

現在行っている経産省で採択されたソリューション(行動変容研修や医療相談サービス等の複合サービス)のプログラム確立が今後の第一弾だとすれば、その領域をさらに押し広げていくイメージです。「ものづくりから、ことづくり」というかたちで、本事業を展開させたいですね。

廣瀬:更年期の実証実験も進めており、まさに深掘りしている最中です。将来的には「わたしの温度®」のなかに、もっと更年期向けを意識した機能を搭載できるようになると思っています。

※「わたしの温度®」は体温計(医療機器)ではないため、基礎体温を測ることはできません。装着中の衣服内の温度変化を測定・記録することで、自己の健康管理をサポートするヘルスケアデバイス&アプリです。

品名:わたしの温度

販売元:TOPPANエッジ株式会社

製品サイズ ‎4 x 5 x 1 cm

商品重量 ‎15 グラム

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