開花宣言

 「世の中」が忙しく変化を続けるのは現代に限った話ではないらしい。季節だけが変わらず巡ってくる。〈何ごとも移りのみゆく世の中に/花は昔の春にかはらず〉と詠んだ良寛さんは「散る桜/残る桜も散る桜」の句も広く知られる江戸時代の僧侶▲今年は昨年より5日遅く、平年より3日遅れの“お待たせ桜”となった。長崎地方気象台が昨日、ソメイヨシノの開花を宣言した▲ここ数年の「移りゆく世」を何より実感しているのは、当の桜の花自身かもしれない…とあらためて思う。いつもの春と変わりなく咲いているのに、周りで眺める人の気配が年ごとに大きく違っていたはずだから▲「桜はきっと来年も咲きます」-東京都知事の“自粛号令”は今も忘れられない。新型コロナウイルスの流行が始まったのは2020年の春だった。密を戒める「お花見NG」は翌年も、その次の年も続いた▲5類移行…コロナ感染症の法律上の扱いが「フツーの流行性の風邪」になって初めての桜の季節だ。これも良寛の一首。〈いざ子ども/山べにゆかむ桜見に明日とも言はば散りもこそせめ〉-ほら行こう、「あした」なんて言ってるうちに花が散ってしまうよ▲大はしゃぎで子どもたちを急きたてる様子が見える気がする。さあ、令和の私たちもお花見の相談だ。(智)

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