【処理水の波紋】理解醸成、進んだのか 「国民レベルで議論必要」

グロッシ事務局長(右)と意見を交わす高校生。処理水などの問題について知識を深めた=富岡町

 「国際原子力機関(IAEA)が安全性を保証しているにもかかわらず、安全ではないと反対する国があることをどのように考えますか」。東京電力福島第1原発から放出が続く処理水について白河高2年の小松花音(かのん)(17)は、IAEAの事務局長を務めるグロッシに率直な疑問をぶつけた。

 国際関係は複雑な事情

 来日に合わせて富岡町で13日開かれた高校生との意見交換会。グロッシは「国際関係は純粋に科学的な事実だけで物事が決まるわけではない」と複雑な事情が絡む現状を説明、「科学的データをそろえ、重大な懸念にはならないと提示する」と情報公開を続ける考えを明かした。グロッシの言葉に小松は「調べても分からなかったことが理解できた」と収穫を口にした。

 IAEAは第1原発に事務所を構え、海水に含まれる放射性物質トリチウムの監視を続けており、これまでの分析結果は基準値を大きく下回る。国や東電、県などの海洋モニタリング(監視)でも異常な値は確認されず、各機関は国内外にこうした情報を継続して発信し、科学的データを積み上げる。

 だが、中国など一部の国・地域による日本産水産物禁輸が解除に向かう兆しはなく、国内でも依然として一部に放出を懸念する声が残る。初年度の放出は無事に終わったが、この間の情報発信が十分な理解促進につながったかは、専門家によっても評価が分かれる。

 「情報発信が減った」

 原発事故による風評の問題に詳しい東京大大学院教授の関谷直也(48)は、ある国内企業の役員がX(旧ツイッター)で「放射能汚染水」を流し始めたという趣旨の投稿をしたことなどを挙げ、国民の放出に関する認知度はまだ足りないと考える。「放出に関する新たな問題が発生していないため、放出前に比べて国内外への情報発信が少なくなっている」と指摘。「風評の問題があるからこそ情報発信が必要。放出が問題なく進んでいることを、少なくとも禁輸問題がなくなるまでは続けなくてはならない」と話す。

 一方、県内有志でつくる原発廃炉や処理水について考える「福島円卓会議」事務局長を務める福島大食農学類准教授の林薫平(45)は、放出後の県産水産物支援の動きなどから「理解は一定程度進んできているのではないか」と捉える。

 ただ「(廃炉につながるという)処理水放出の根本的な問題を理解している人はまだ少ない」とし、「2024年度は処理水の問題の全体像を国民レベルで議論していかなくてはならない」とさらなる理解促進の必要性を口にした。(文中敬称略)

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