「量刑は到底維持しがたい」工藤会トップに死刑→無期懲役変更、高裁判決の"衝撃" どう考えるか

福岡高裁(KAZE / PIXTA)

市民を襲撃した4つの事件で殺人などの罪に問われ、1審で死刑判決を受けていた北九州市の特定危険指定暴力団「工藤会」のトップ、野村悟被告人の控訴審で、福岡高裁(市川太志裁判長)は3月12日、死刑判決を取り消して、無期懲役の判決を言い渡した。

1審・福岡地裁は2021年8月、1998年に起きた元漁協組合長射殺事件など4つの事件について、工藤会総裁の野村悟被告人を首謀者だと認めて、死刑判決を下していた。

しかし、福岡高裁は漁協組合長事件については「野村被告の共謀を推認させる間接事実に係る1審判決は是認できないか、推認力に乏しいものにとどまる」などとして、これに限っては「無罪」としている。

また、福岡高裁は、ナンバー2で会長の田上不美夫被告人については、控訴を棄却し、1審判決を支持して無期懲役とした。2人は判決を不服として即日上告。福岡高検もまた3月26日に上告したという。

関与を否定したトップが無罪を主張する中で、今回の控訴審判決は、暴力団をめぐる問題にどのような影響を及ぼすだろうか。反社会的組織の対策にくわしい青木知巳弁護士に聞いた。

●高裁判決ポイント「被害者が死亡した唯一の事件が無罪」

——高裁判決では、1審で認定されたトップの「指示」「共謀」はどう扱われましたか。また、「1審判決の死刑の量刑は到底維持しがたい」とされたのはなぜですか。

今回の一連の事件では、被告人の直接の指示を示す証拠がありませんでした。これは暴力団が関与する事件では関係者の供述を取りにくいという特有の事情にもよるわけですが、その中で間接的な証拠を積み上げて、被告人の指示・共謀を推認するという手法がとられたわけです。

そして、漁協元組合長殺害事件について、地裁と高裁とでは証拠評価が異なり、1審は被告人の刑事責任を認め、高裁は無罪としました。一方、3つの殺人未遂事件については、1審・高裁ともに被告人の刑事責任を認めました。

被害者が死亡した唯一の事件が無罪とされたことにより、高裁では死刑判決を維持できないという判断になったと思われます。

——死刑から無期刑になった判決をどう捉えていますか。

仮に最高裁で高裁判決が維持されて無期懲役刑が確定した場合、現在の実務の運用からすると、被告人は相当長期間服役することが予想されます。

それを踏まえると、被告人が組織において影響力を行使することは事実上難しいと思われ、警察等の対策が継続されることも考え合わせれば、組織全体の弱体化の傾向は続くと考えられます。

また、無期懲役であったとしても、暴力団組織のトップが厳しい判決を受けたことには変わりなく、他の暴力団組織に対する抑止力になることは変わらないと考えます。

●暴力団撲滅の必要性が変わることはない

——最高裁はどのような判断をすると考えられますか。

今回の事件は、検察庁・弁護側ともに上告しており、最高裁の判断を待つことになりますが、無期懲役が維持されるのか、そうではないのかを予想することはできません。

一方、今、この瞬間も暴力団などの反社会的勢力の餌食になっている方々がいることに変わりはなく、暴力団の弱体化・撲滅の必要性が変わることもありません。

暴力団などの反社会的勢力の弱体化・撲滅のために社会全体で立ち向かうとともに、組織から覚悟をもって離脱しようとする方々を受け容れたり、人材を断つなど、すなわち暴力団などの組織に加入する・関わりを持つ者を断つという活動も求められます。

【取材協力弁護士】
青木 知巳(あおき・ともみ)弁護士
東京弁護士会民事介入暴力対策特別委員会副委員長・日本弁護士連合会民事介入暴力対策委員会幹事。府中刑務所の篤志面接員。NHKや民放のドラマで法律監修も。著書に『反社会的勢力をめぐる判例の分析と展開Ⅰ〔別冊 金融・商事判例〕』「同Ⅱ」(経済法令研究会)など。
事務所名:池袋市民法律事務所
事務所URL:https://ikeshimilaw.com/

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