名刺交換の一瞬でピンとくる…複数の会社を経営する“やり手社長”が「ウマが合いそうだな」と感じる人の共通点

(※写真はイメージです/PIXTA)

人生100年時代、定年後の選択肢として、会社員時代の人脈とスキルを活かした「フリーランス」への注目が高まっています。ただし、フリーランスとして成功するには「また会いたいと思われる人」になることが重要です。『ただの人にならない「定年の壁」のこわしかた』(マガジンハウス)より、会社員のうちに身につけておきたい「デキる人の所作」をみていきましょう。著者で公認会計士の田中靖浩氏が解説します。

「相手の立場」になって考える精神を

これは、複数の不動産会社を経営する知人T社長から聞いた話です。

不動産の仕事は1件の金額が大きいため、商談相手を見定める目やどんな人物を入社させるかがとても重要。数多くの人と名刺交換するTさんは交換の瞬間、その人物とうまく付き合えるかどうかピンとくるそうです。「この人とはウマが合いそうだな」とか「この人とは仲良くなれそうにないな」と。

その直感はほとんど外れないのだとか。彼は名刺交換の瞬間、どこから気配を感じ取るのでしょう?

Tさんによれば、重要なのは「名刺を出す高さ」だそうです。

我々は無意識のうちに名刺の出し方について「自分のスタイル」をもっています。相手から受け取った名刺を名刺入れの上に置き、次にこちらの名刺を相手に差し出す、といった一連の手順。

たとえばときどき「妙に腰の低い」人がいます。低い位置から名刺を差し出す、これもその人の「低姿勢スタイル」です。Tさんいわく、多くの人は「自分のスタイル」に従って名刺を差し出すが、デキる人は「相手が受け取りやすい高さ」を微妙に調節して名刺を出すそうです。

ポイントは自分のスタイルとして「低く」出すのではなく、「相手に合わせて」高さを調節する気配りがあるかどうか。

自分のスタイルで出すのか、それとも相手が取りやすいように出すのか。何気ないルーチンに垣間見える「自分中心か、相手中心か」の姿勢。ありふれた日常の瞬間だからこそ、それがにじみ出てしまうのでしょう。これを聞いて「なるほどな」と感心しました。

「相手の身長の高さに合わせて名刺を出しましょう」という話ではありません。それでは遅すぎるのです。常日頃から「相手をよく見て合わせる」ことが無意識のうちにできるかどうか。すべてのビジネスシーンにおいて相手を尊重する姿勢で臨めているかどうか。それがたまたま名刺交換の瞬間に表れるというわけです。

ちなみにT社長は自身も「相手をよく見る」観察力、それに合わせて判断できる力に優れた人物です。だから相手のこともよく見えているのでしょう。

先日、T社長を某セミナーのゲスト講師に招いたのですが、そのときも「どんな参加者が来るんですか?」と根掘り葉掘り聞かれてめんどくさいのなんの(笑)。多くの講師が「自分が何を話すか」ばかり気にするなかで、彼は「お客さん」のことを気にしていました。

こうした「相手の立場に立つ」精神は、名刺づくりの段階から気を付けましょう。自分はどんな資格をもっているか、どんな仕事をしてきたか、などなど書き連ねた名刺からは、自らを声高に叫ぶ「自己中心的」なニオイが漂います。受け取る相手の立場に立って「また会いたいな」と思ってもらえる内容を考えましょう。

みんなが手を抜くところほど真剣に

T社長ほどではありませんが、私もかなりの数の名刺交換を行ってきました。しかしコロナでその機会は激減し、オンラインの初対面でご挨拶というケースが増えました。

そういえば年賀状の数も激減しましたね。さらには「定年のご挨拶」もハガキではなくメールで頂戴することが増えました。

偶然、大手出版社に勤務していた2人から「退職&独立」のメールが届きました。Aさんからは「私宛て」のメール。Bさんからは「皆さんへ」同時送信のメール。私はそれぞれに返事をしました。

Aさんからは間髪入れずに返信がありました。「とても不安ですが、精一杯がんばります。田中さん、フリーランスの先輩としていろいろ教えてください」と。

残念ながら一斉送信のBさんからは返信がありませんでした。おそらく忙しいだけなのでしょうが、返信を無視するのは相手を軽んじていることになります。少なくとも私はそう感じました。だったら最初からメールを出さなければいいのにと。

サラリーマン時代からBさんはいつも忙しそうで会社の愚痴が多い人でした。Bさんのメールには「仕事をお待ちしています」と書かれていましたが、彼に仕事を頼む気にはなれません。

頼むならAさんです。サラリーマンなら「こなす」仕事だけで評価されるかもしれません。でもフリーランスはそれだけではダメです。しっかり内容を考えて「退職メールを出す」ところまでは誰でもできます。

そこで力を抜いてはいけません。フリーランスの人間関係は「そこから」が真の勝負。自分が退職したという知らせに反応してくれた相手には乾坤一擲(けんこんいってき)の気合いをもって返信すること。

Aさんはそれができていました。Bさんはじめ、退職者のほとんどが一斉メールの文面に力を入れるからこそ、「それとはちがう」場面で気合いを入れることが重要です。

これは正攻法ではなく奇襲です。孫子の兵法に曰く「正を以って合し、奇を以って勝つ」。ふだんは正攻法的に準備しつつ、決戦のときは奇襲を用いて勝ちなさいという教えです。

退職メールではなく「返信」に力を入れるのが奇襲。「みんなが頑張るところはほどほどに、みんなが手を抜くところは真剣に」サラリーマンのうちから練習しておきましょう。さあ、あなたは自分名刺の作成・渡し方、どこに力を入れますか?

田中 靖浩
作家/公認会計士

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