「歌と同じ、笑って楽しんで」軽妙、独自の筆致で自由に 「あのねのね」原田伸郎さんが書展 大阪

書への思いを語る原田伸郎さん=15日午後、神戸市中央区東川崎町1、ラジオ関西(撮影・斎藤雅志)

 「赤とんぼの唄」などでヒットを飛ばしたフォークデュオ「あのねのね」の原田伸郎さん(72)が、大阪市の阪神百貨店梅田本店で書展を開いている。本格的に書に取り組み20年。「歌と同じで笑って楽しんでほしい」という独自の表現は、悲嘆に苦しむ人たちとの出会いに後押しされてきたという。

 書を始めたのは、早朝のラジオ番組を担当していた2004年、過労で顔面まひを発症し、休業したことがきっかけ。快方に向かい時間を持て余すと「やりたいことって何やろうと考えて、そや、書があったと気づいたんですね」。

 子どもの頃、達筆だった祖父に手ほどきされ、周囲から「字が上手やね」とたびたび褒められた。一度は先生についたものの「50歳すぎて、小学生みたいにお手本を習うのも違うなと。僕の好きな字を、好きなように書きたい」と自己流で続けることにした。

 手始めに書いてみたのが「動静中年」。まだまだ動けと尻をたたかれたかと思えば、もう静かにと肩をたたかれる中年世代の「どうせぇちゅうねん」という戸惑いを形にすると、「面白いねと言ってもらえた」。

 「笑」の一字書は、よく見ると「大丈夫」の3文字の組み合わせ。そんな遊び心あふれる作品は、見る人の心をほぐしてきた。

 娘をがんで亡くしたという母親が「もう頑張らなくていいよ」と書かれた作品の前で、「最期にかけたのがこの言葉でした」と涙をぬぐうのを見た。いじめにあって書をやめたという障害のある女の子は「こんなに楽しく書けるなら、またやりたい」と話していたと聞いた。

 原田さんは「いろんなことを感じ取ってもらえるのが、とてもうれしい」と顔をほころばせる。

 東日本大震災の被災地で聞いた言葉からも、作品が生まれた。14年、書のボランティアで訪れた岩手県大槌町。初めは「何も書きたいことがない」と沈んでいたおばあちゃんが、一緒に話し、歌ううちに、表情が明るくなり「今日は笑う日だね」と言った。

 「いい言葉だなと思ってね。写真を見せてもらうと、町は津波でがらっと変わってしまってましたから」。自作の日めくりカレンダーにも加え、多くの人に伝えている。

 昨年はデビュー50周年にちなみ、「あのねのね」を「安穏念音寧」と、丸みのある当て字で作品にした。「お寺の住職に『こんな意味があったのですか』と言われて、思わず『そうなんです』と答えてしまった」と笑いつつ、「相次ぐ地震や災害に、穏やかになってほしいとの希望も込めた」と語る。

 書は「自分との会話ができる」大切な時間。人を元気づける作品を、これからも書き続けていくという。

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 展覧会は4月2日まで、入場無料。原田さんも会期中は来場、3月30日と31日午後2時からトークライブを行う(50人、当日午前10時から整理券配布)。阪神梅田本店TEL06.6345.1201 (田中真治)

 【はらだ・のぶろう】1951年、京都市出身。71年に「あのねのね」を結成、73年にメジャーデビューした。テレビ・ラジオでも活躍し、「めざせパーゴルフ」(サンテレビ)は36年続く長寿番組。2010年スタートの「のびのび金ようび」(ラジオ関西)は今月29日が最終回となる。

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