海ごみを衣装に楽しくSDGsを 対馬の劇団「ともに」 国境や障害越えて活動中 長崎

海ごみや廃材を「アップサイクル」した衣装や小道具を披露するメンバー。海ごみは、海岸で拾い集めた=対馬市交流センター

 長崎県対馬市の市民劇団「対馬SDGs劇団ともに」は、海ごみを衣装や小道具、装飾に生まれ変わらせ舞台に活用している。持続可能な開発目標(SDGs)の考え方とエンターテインメントを融合させるユニークな手法で、これまで国内外で上演している。
 今月12日夜。厳原町の市交流センターの一室で「ともに」のメンバーが朗読劇の稽古に汗を流していた。読み上げていたのは、少年と「ごみ人間」の友情を描く人気の絵本「えんとつ町のプペル」のせりふ。劇団が主テーマに据える海ごみ問題の普及啓発に、うってつけの題材だ。
 稽古が一段落し、メンバーが衣装や小道具を見せてくれた。どれも海岸で拾った海ごみや古着などの廃材を「アップサイクル(創造的再利用)」し、手作りしたという。
 「ともに」は昨年1月発足。発起人は会社員で代表の坂田彰子さん(43)と、市SDGs推進課の崔春海さん(28)。元々、別の市民劇団にいた2人が「今までにない劇団を目指そう」と旗揚げした。メンバーは13人。県市職員や自衛官、会社員などさまざまだ。
 昨年6~8月、市内3カ所で「プペル」の朗読劇を上演。対馬の漂着ごみ問題の現状を理解してもらうため、人形劇を交えたSDGs講座もセットで開いた。親子で来場した母親からは後日、「娘が自主的にごみを拾った」という報告も届いたという。
 活動は対馬にとどまらない。昨年11月、日韓友好を掲げる韓国の団体がソウルで開催した環境イベントに参加。おとぎ話の「浦島太郎」をベースに、愛と友情を通して海ごみ問題を考えるオリジナル舞台を上演した。

昨年11月の韓国・ソウルでの公演の様子。浦島太郎をベースにしたオリジナル舞台を上演した(坂田さん提供)

 舞台では、意図的にせりふをなくし、ジェスチャーや歌を中心に表現する「ノンバーバル(非言語)パフォーマンス」を採用。脚本を手がけた崔さんは「(日韓の)言葉の壁をどう越えるか意識した」と狙いを語る。上演後、ホールを埋めた約千人の観客から割れんばかりの拍手が送られた。
 ヒロイン役を務めた県職員の家島由美さん(25)は「全身を使って表現した。伝わるか不安はあったが、大きな拍手をもらえてよかった」と振り返る。
 今後は公演活動と並行し、海ごみ問題について世界でもっと広く知ってもらうため、多言語化した動画発信も計画。坂田さんはさらに別の構想も抱く。メンバーで次男の一悟君(11)のように、発達障害のある子どもを劇団に受け入れ、一人一人の長所を伸ばし成長できる場にしたいという。
 「エンタメの少ない離島だからこそ、演劇の力で島民に夢や希望を与えたい。国境や言葉の壁も、障害の有無も乗り越え、誰もがともに楽しく歩める社会を目指したい」と坂田さん。「ともに」の奮闘は続く。

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