【解説】イスラエルに強い言葉だけでは不十分とバイデン氏判断 BBC国際編集長

ジェレミー・ボウエンBBC国際編集長

アメリカのジョー・バイデン大統領と政権幹部はもう何週間も前から、パレスチナ自治区ガザ地区でイスラエルが続ける戦いぶりに、しびれを切らしていた。

自分たちの不快感をイスラエルと世界全体に伝えるための言葉遣いは、日に日に強張ったものになっていた。

国連安全保障理事会でアメリカが25日に示した、即時停戦決議案に拒否権を行使しないという最新の判断は、強い言葉だけではもはや不十分だとバイデン大統領が判断したことを示している。

イスラエルの戦争遂行方法について、アメリカが外交の場でそれを守らなくなるというのは、重要な一歩だ。

ホワイトハウスと、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相の間に開いた溝が、いかに深いものかを示している。

それを受けてネタニヤフ首相は、イスラエルにとって最重要の同盟国相手を強く非難した。

ネタニヤフ氏は、アメリカが拒否権を行使しなかったことを非難した。そのせいで戦争遂行の努力が損なわれ、昨年10月7日にイスラム組織ハマスによって人質にされた人たちを解放する試みが損なわれたと主張した。

その発言を「実に恩知らず」という名前のファイルに、バイデン政権が分類したとしても、無理はない。

大統領はイスラエルと深いつながりを持ち、自分のことを「シオニスト」と呼ぶ。昨年10月7日以降、イスラエルの人たちが必要としてきた気持ちの上での支えだけでなく、イスラエル国家が必要としてきたあらゆる軍事的・外交的支援をすべて提供してきた。

バイデン氏は人質の解放と、軍事勢力としてのハマスの解体を求めている。しかしそれにはイスラエルに「正しい方法」で取り組んでもらいたいのだ。

戦争が始まった当初のあのすさまじい数週間の間に、バイデン大統領はイスラエルに対して、怒りに我を忘れてはならないと諭した。2001年9月11日にアルカイダに攻撃された直後のアメリカが、激怒するあまり物事が見えなくなっていた、あのような状態になってはならないと。

大統領は自らイスラエルを訪れ、ハマス攻撃による被害者の家族を慰め、ネタニヤフ氏と抱き合うまでした。バイデン氏とネタニヤフ氏の関係は、それまでも決して良好ではなかったのだが。

バイデン大統領とアントニー・ブリンケン米国務長官(10月7日以降、イスラエルを6回訪れている)はどちらも、民間人の保護を義務づける国際人道法を尊重するよう、イスラエルに繰り返している。

戦争が始まった当初、アメリカがそうした警告を準備していた矢先、ネタニヤフ氏はイスラエル国民に「大いなる復讐(ふくしゅう)」を果たすと約束した。

それ以来、3万人以上のパレスチナ人が殺された。ほとんどが民間人だ。使われた武器のほとんどは、アメリカが提供したものだ。

ガザは廃墟と化し、パレスチナの民間人は迫りくる飢饉(ききん)に直面している。ガザ南部ラファではイスラエルが地上侵攻を計画しており、さらに大勢が犠牲になる見通しだ。こうした状況でバイデン大統領は、自分の助言が無視されるのはもうたくさんだと、そう思っている様子だ。

イスラエルは常に、自分たちが戦争法を尊重していると主張する。そして、ガザ住民への人道援助物資の輸送をイスラエルが妨害しているとの非難を、否定する。

けれども、イスラエルの言うことは真実ではないと、そう示す証拠が積みあがっている。イスラエルとエジプトで食べ物が大量に備蓄されているにもかかわらず、そこから数キロ先で子供たちが餓死しているのだ。

ガザが飢饉に瀕しているという国連や援助機関の証拠を見れば、アメリカ人も、そして世界中の人々もその状況がわかるだろう。

アメリカ軍は空から援助物資を投下しているし、ガザに海路で物資を運べるようにと、臨時の埠頭(ふとう)を大西洋からガザまで運んでいる最中だ。対するイスラエルは、アシュドド港からごく少量の物資の荷揚げしか認めていない。ガザ北部から車で30分も走れば、最新式のコンテナ・ターミナルがあるのに。

ラマダン(イスラム教の断食月)停戦決議に拒否権を行使しないとアメリカが決めたのは、イスラエルの一連の行動を促しているのはアメリカだという非難を、かわすためのものでもある。

中東でこの数十年来最悪の危機を、なんとか終わらせようとするバイデン政権の取り組みを、ネタニヤフ政権は真っ向から激しくはねつけた。

アメリカは、いくらイスラエルは国際社会の圧力を受けずに済むといっても、物には限界というものがあるのだと、そう示そうとしているのだ。

国連安全保障理事会の決議は通常、国際法としての威力をもつとされる。今回の停戦決議は、ハマスもパレスチナ自治政府の国連代表部も歓迎した。

イスラエルはこれから、安保理決議を尊重するのかどうか決めなくてはならない。

ネタニヤフ首相の連立政権は、過激な超ユダヤ・ナショナリストによる支持に依存している。

この勢力は、安保理決議を無視するよう首相に働きかけるだろう。そして首相がそれに応じれば、アメリカは対応しなくてはならない。

言葉だけでは足りないなら、バイデン大統領は最大の説得材料として、イスラエルへの武器供与に手を付けることができる。両国を結ぶ航路を経由して、アメリカからイスラエルには絶え間なく武器の提供が続いてきた。巨大な輸送機が何十回とアメリカからイスラエルへ向かい、この戦争でイスラエルが使ってきた軍需品を運んできた。もしイスラエルが計画通り、地上戦を拡大してラファに侵攻するのなら、そこで必要となるだろう武器も、アメリカが提供するものだ。

アメリカとイスラエルの同盟関係は深い。1948年に当時のハリー・トルーマン大統領は、新国家イスラエルが独立を宣言した11分後に、イスラエルを承認した。その一方でアメリカとイスラエルの同盟関係は時に、機能しなくなる。

アメリカの大統領の意向にイスラエルが反抗し、アメリカの国益を損なう行動をとれば、両国間に危機が起きる。

ネタニヤフ氏がホワイトハウスの住人を激怒させたのは、これが初めてはない。

1996年に最初にイスラエルの首相になって以来、彼は定期的にアメリカ大統領を怒らせてきた。

けれどもネタニヤフ氏がこれほど長いこと、しかもとげとげしく、アメリカの意向を無視し続けたことはない。そして、アメリカとイスラエルの長い同盟関係において、半年近く続くガザ戦争がもたらした現在の溝ほど、深刻な亀裂はかつてなかった。

(英語記事 Jeremy Bowen: Biden has decided strong words with Israel are not enough

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