【プロジェクトマネージャーの人心掌握術】多忙なスタッフに気持ちよく仕事を引き受けてもらう「プロジェクト以前」の下準備とは?

(画像はイメージです/PIXTA)

プロジェクトの現場はいつも「想定外」「トラブル」と隣り合わせです。ただでさえ多忙なスタッフに気持ちよく仕事を引き受けてもらうためには、プロジェクトが始まる以前から、やっておくべき「下準備」がありました。孫正義氏のもとで〈プロマネ〉を務めた三木雄信氏が解説します。※本連載は、三木雄信氏の書籍『孫社長のプロジェクトを最短で達成した 仕事が速いチームのすごい仕組み』(PHP新書)より一部を抜粋・再編集したものです。

若手プロマネが、年上スタッフを動かすときの注意点

Q

若手がプロマネに抜擢され、年上のメンバーがいる場合、留意すべきこととは?

A

相手の年齢に関係なく礼儀を守ること。オーナーの「虎の威」も上手に借りましょう。

大事なのは、礼儀やマナーを守ることです。

これは年上のメンバーに対してだけでなく、プロマネは誰に対しても同じ口調や態度で接するべきです。

私自身、相手が年上だろうと、若手や部下だろうと、呼び方は常に「○○さん」です。

呼び捨てにすることもなければ、極端にへりくだることもなく、誰に対しても同じように接することを徹底しています。

相手によって態度を変えるから、「あの人には敬語なのに、私にはぞんざいな言葉遣いだった」などと不満を抱く人が出てくるのです。

常にフラットな態度でいれば、そんな無用のトラブルは防げます。

また、プロマネより年上のメンバーが多く、チームのハンドリングが難しいと感じた場合は、時々でいいのでオーナーを定例会に呼ぶと効果的です。

プロマネがどんなに若くても、オーナーときちんとチャーターを交わして承認を得た人物であることをメンバーの前で示せるからです。

私もソフトバンク時代は周囲が年上ばかりだったので、孫社長の“虎の威(とらのい)”を時にはうまく借りていました。

若手がプロマネになると、「どうせ会社もこのプロジェクトには大して期待していないんだろう」などと考えるメンバーがいるものですが、定例会にオーナーが参加すれば、そんな思い込みも覆すことができます。

キックオフはもちろんのこと、ぜひ定例会にもオーナーを呼んでください。

多忙なスタッフへの仕事の割り振り、どうすればうまくいく?

Q

「仕事を他の人に割り振ることがプロマネの仕事」というのはわかるけれど、通常業務だけでも多忙な人に、予定にない仕事を割り振るのは気が引ける。少しでも気持ちよく引き受けてもらうにはどうすればいい?

A

「日頃から貸しを作っておく」「勝ち馬の評判を作る」「手戻りしないと認識させる」「会社にとっての意義を説明する」の4点を心がけましょう。

①日頃から貸しを作っておく

お金に貸し借りがあるように、仕事にも実は貸し借りというものがあります。

「この間、あの人には無理を聞いてもらったからな。これは引き受けてあげるか」「大変な時にあの人に助けてもらったから、あの人から頼まれた仕事は断れないな」

そんなふうに思って、多少無理のある仕事の依頼を引き受けたことは誰しもあるのではないでしょうか。

プロマネも、日頃から関係者に貸しを作っておくことが実はとても重要です。そうすれば、仕事を頼んだ時も、相手は「この前は助けてもらったから、今度は自分が助けてあげよう」と思ってくれます。

私がソフトバンク時代にプロマネを任された時、自分より年齢や経験が上の幹部たちから協力を得ることができたのも、「まずは貸しを作る」を心がけたからです。

孫社長はその時々で自分の優先順位にもとづいて行動するため、スケジュールがどんどん変わりました。会議が白熱してくると、後ろに予定が入っているにもかかわらず、「このまま会議を続けるから、今日のアポは全部飛ばしてくれ!」と平気で言い出します。

困るのは、孫社長に稟議をもらうために待っている幹部たちです。

「今日中に孫社長の稟議をもらわないと、取引先と契約できないんだよ」

そう言って、孫社長の会議が終わるまで何時間も社長室の前で待たされる様子を見かねて、私は「孫社長の手が空いたタイミングを見て、自分が代わりに承認をもらっておきます」と助けを買って出ました。

そして、スキを見ては孫社長に書類にサインをしてもらったのです。

外出する孫社長を追いかけて一緒に車に乗り込み、サインをもらったら信号で止まった瞬間に車を降り、また会社に走って帰ることもありました。

私のそんな苦労がどうやら幹部たちにも伝わったらしく、「三木に頼むと面倒ごとを片付けてくれるから、今度何か頼まれたら協力してやろう」と思ってくれたのでしょう。

私がプロマネを任されると、幹部たちは積極的に力を貸してくれました。

日本の会社では、よく経営トップが新規事業の担当者を外部からヘッドハントして連れてくることがあります。

しかし、その大半は失敗に終わります。

なぜなら、その担当者と他のメンバーとの間に貸し借りがまったくないからです。

新規事業ですから、その会社の既存事業とはまったく異なる業界の出身者であることがほとんどです。小売業界のプロジェクトにIT業界出身者がきたり、IT業界のプロジェクトにコンサルティング業界出身者がきたりということはよくあります。

その会社に何の貢献もしていない人が、いきなり新規事業を任されたらどうなるか。

待ち受けているのは、メンバーからの反発です。

「現場のことを何も知らないくせに」「自分では売上を上げていないのに、偉そうなことばかり言って」とプロジェクト内に不満が渦巻くことになります。

しかも、その人を連れてきた社長が「彼はとても優秀だから、みんなも言うことをよく聞いてくれ」などと言おうものなら、反発はさらに高まります。

反発どころか、「あいつを引きずり落としてやる」と思われて、周囲は何も協力しなくなります。

私は様々な企業や組織のプロジェクトを見てきましたが、外から新規事業の担当者を連れてきて成功したケースは全体の1割もないはずです。

そんな失敗をしないためには、自分がもし新規事業担当のプロマネになったら、まずは社内の人間が嫌がってやらない仕事を進んで引き受けるなどして、周囲に貸しを作ることから始めるべきです。

人から力を借りたいなら、まずは自分が人に力を貸す。

これが、いざという時に味方になってくれる人を増やすためのコツです。

②勝ち馬の評判を作る

人は誰でも「勝ち馬に乗りたい」と思っています。

プロマネであれ、上司であれ、「この人についていけば勝てる」と思えば、皆がその人の近くに集まってきます。

「Yahoo!BB」のプロジェクトを立ち上げるにあたって孫社長がメンバーを集めた時は、社員たちの多くがその場から逃げ出しました。

当時のソフトバンクは新規事業や新会社設立が成功する打率が下がっていた時期なので、孫社長ほどのリーダーでも、人に逃げられてしまったわけです。

よって、プロマネとして周囲から協力を得たいなら、通常業務でもコツコツと実績を上げて、「あの人についていけば、自分たちがひどい目に遭うことはないだろう」と思わせることが大切です。

③手戻りしないと認識させる

仕事をしていて最もストレスが溜まるのは、手戻りの発生です。

しかも自分の責任ではなく、上司やプロマネの管理不行届で二度手間、三度手間が発生することほど腹立たしいことはありません。

そうなれば、「こんなムダなことをさせるなら、もうあのプロマネの依頼は引き受けたくない」とメンバーが考えるのも無理はありません。

こんな事態を回避するには、オーナーの鶴の一声やスケジュール管理の甘さによる手戻りが発生しないように努力し、メンバーに「この人が割り振る仕事なら、余計な手間は発生しないだろう」と信頼してもらうことが必要です。

④会社にとっての意義を説明する

自分の仕事がどのように会社に貢献しているのかがわかれば、相手もやりがいを持って仕事に取り組んでくれます。

単に「急ぎだから早くやって」ではなく、「このタスクを納期までにやってくれれば、会社が社運をかけている新サービスを期日通りにリリースできるんだよ」といった言い方をして、会社にとってその仕事がどんな意義を持つのか、説明するようにしましょう。

三木 雄信
トライズ株式会社 代表取締役社長

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