「全英」中継撤退とJLPGAの過去最高益達成が示すもの/小林至博士のゴルフ余聞

世界最古のメジャー「全英オープン」(写真は2022年大会)(撮影/村上航)

テレビ朝日が高騰する放映権料などを理由に「全英オープン」の中継から撤退、一方日本女子プロゴルフ協会(JLPGA)は好調なネット中継を背景に、協会創立以来の過去最高益を達成したという。直近報じられた2つのニュースは、日本のスポーツコンテンツ市場における地殻変動の兆しを示しているように思われる。

JLPGAは、4年間の交渉を経て2022年にツアー競技の放映権をすべて自らが保有することに成功し、この権利を基にインターネット配信を本格的に開始した。

スポーツビジネスの本質は、権利ビジネスである。試合を会場でみる権利(チケット)、放送を通じて見る(聞く)権利(放送権)、大会を利用した広告宣伝の権利(スポンサーシップ)、選手やチームなどの肖像を使用する権利(商品化権)などなど、多岐にわたる権利が基盤を形成している。

これらの権利は制限することで高い付加価値を生む。その概念が広く認識されるようになったのは、1984年のロサンゼルスオリンピックでの放送権とスポンサー権の取り扱いがきっかけだった。

放送権を競争入札により最高値を提示した1社のみに独占させることで、それまでの8倍の値が付いた。スポンサー権を1業種1社に限定することで、それまでの38倍という驚異的な収益を実現した。権利を制限した結果、五輪は赤字から黒字へと転換し、組織委員会委員長を務めたピーター・ユベロスは「タイム」誌のパーソン・オブ・ザ・イヤーに選ばれた。

ロス五輪以降、スポーツのコンテンツホルダーは諸権利の集約に注力してきた。特に放送権を含む映像に関する権利は最も価値が高く、コンテンツホルダーが一元管理することが、成功の秘訣とされており、アメリカでは、PGAツアーを含め、あらゆるプロスポーツ団体がそうしている。

しかし、日本のプロスポーツ界はそうならなかった。理由は、スポーツに対価を求めることをよしとしないアマチュアリズムが根強かったこともあるが、とどのつまり、コンテンツホルダーが、スポーツコンテンツを生み育てたメディア業界から、独り立ちできなかったからである。

日本の放送産業は、長年にわたりNHKと地上波キー局が主導権を握り続けた。合従連衡で勢力図が目まぐるしく動くアメリカのようなコンテンツ獲得競争は起きないまま、身の丈の範囲で売買されてきた。つまり、巷でガラパゴスと称される、独自の経済圏が形成されてきたわけだが、ボーダーレスのこの時代、いつまでもそういうわけにはいかない。すでに、ボクシングの世界戦やサッカー日本代表の一部の試合が地上波から消え、インターネット放送へと移行しているのはその象徴である。

年度末に報じられた2つの出来事も、単に放映権の問題や収益の話に留まらず、日本のスポーツコンテンツ市場が大きな転換点にいることの証左といっていいだろう。(小林至・桜美林大学教授)

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