弁護士志望・25歳大学院生、司法試験のため1日16時間の猛勉強!学費のため「短期で稼げる」リゾートバイトを始めるも…13年後の「現在」に衝撃

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旅するように働き、稼ぐ。リゾート地での仕事を通じて、そんな生活を満喫する人たちがいる。サラリーマンを卒業して精神的に豊かな暮らしを取り戻した人、勤務したリゾート地が気に入って移住してしまった人。リゾート地での仕事を転々としながら日本一周を目指すインフルエンサー。旅するように働く人たちの形はさまざまだ。この連載では、リゾートバイトを通じて精神的にも金銭面でも豊かな生活を目指す人たちを紹介していく。

きっかけは「短期集中で稼ぎたい」

弁護士を目指して福岡県の法科大学院で学んでいた山本浩さん(仮名、38歳)が、リゾートバイトに関わったのは25歳のときでした。

合格を目指して1日16時間の猛勉強をしていましたが、収入はなく、学費や交通費などのコストもかさみます。「このまま親のすねをかじり続けるわけにはいかない」と思ったのです。

とはいえ、仕事ばかりしていると勉強時間が不足し、合格が遠のきます。このため「短期的に集中して働き、効率的に一定の金額を蓄えられる仕事はないか」と、リゾートバイトなどの派遣会社をインターネットで検索したそうです。

仕事場は老舗旅館、2ヵ月で30万円貯蓄

初めてのリゾートバイト先は、熊本県にある創業300年の老舗旅館A。同僚は「旅をするように働きたい」「知らない土地で働きたい」「交流を広げたい」といった動機で働いていました。

しかし、当時の山本さんには、そんなことよりも短期でお金を稼ぎ、また実家に戻って法律の勉強に集中することが大事でした。司法試験という難関を乗り越えるために必死だったのです。

実際に予想以上にお金を貯めることができました。山本さんはもともと「2ヵ月に20万円くらい貯められればいい」と思っていました。

しかし、給与は月18万円程度で住み込みのため家賃はゼロ、食事もついていました。実際には目標より10万円近く多い30万円近くもの貯蓄ができました。

頼りになる先輩社員との出会い

リゾートバイト先では予約関連の事務やフロント、レストラン、会場設営など多くの仕事に携わりました。

特に印象に残っているのが指導係だった旅館の社員、加藤学さん(仮名)です。加藤さんには、電話での言葉遣いや接客、パソコンの操作、ポップ作り、ワードやエクセルの使い方などを細かく指導してもらいました。

加藤さんは、社会人経験の浅い山本さんに仕事の仕方を丁寧に教えてくれました。

たとえば電話対応。「電話が鳴ったら3回のコール未満に出るようにしなさい」と言われました。そのうえで「2コール以内で出た場合は『ありがとうございます。A旅館です』」と受け答えるようにします。電話に出るまでに3コール以上かかった場合は、「お待たせしました。A旅館です」と答えるようにする、というビジネスマナーです。

山本さんは「ビジネス用語や話し方などをきちんと教えてくれ、社会人の基礎を学ばせてもらった」といまでも感謝しているそうです。

総支配人から「戻ってこないか」

基礎がしっかりした山本さんは、地元雇用のベテラン従業員とも上手に付き合うことができました。ベテランの従業員のなかには、若い派遣社員に厳しい人もいましたが、山本さんは「先輩たちを楽にできるよう、仕事に徹しよう」と懸命に働きました。

すると、厳しかったベテランの女性たちが少しずつ優しい言葉をかけてくれるようになり、最終的には毎朝パンやおにぎり、牛乳などを差し入れてくれるようになったのです。

山本さんは「コミュニケーションを円滑にし、1つのチームとしてお客様のために同じ方向を向いて働くことが本当に楽しかった」と話します。

山本さんは高校生のとき、生徒会長を経験していました。「旅館の仕事は、協力してイベントを成功させた高校の生徒会と同じような充実感や達成感を得られた」そうです。

契約期間が終わったため山本さんは後ろ髪をひかれる思いで実家に帰り、猛勉強の末に司法試験に挑みました。しかし、結果は不合格。

そんなとき、リゾートバイト先の社長から電話がありました。「失礼を承知でいうが、もし試験がダメだったなら、うちに戻ってこないか」というのです。「あなたは仕事の能力が高く、同僚ともうまくやっていける。将来、当社の幹部になってもらいたい」と高く評価してくれました。

社長はさらに、山本さんが弁護士になった場合と自社の正社員になった場合の給与がどう違うかも調べてくれていました。旅館に就職した場合、順調に出世できれば、いわゆる「イソ弁(居候弁護士)」の月収にも届くとわかり、安心して働けるようになりました。

リゾートバイトの経験でチームを引っ張る

正社員になってからは、山本さんは持ち前のバイタリティーをいかしてチームを引っ張っていきました。周囲の評価も高く、4年目には営業支配人に、8年目には総支配人にまで上り詰めました。

「リゾートバイトの経験で、従業員全員の気持ちがわかるようになった」「アルバイトも派遣社員も正社員もみんな戦力。チームとしてお客様をもてなしたい」。

総支配人として旅館を切り盛りする山本さんは、リゾートバイトの経験が現在もいきているといいます。従業員の福利厚生や待遇改善に努めるのも、現場の経験があるからです。

山本さんは「今後、熊本県以外に新たな温泉旅館を開業したい」と語ります。2016年の熊本地震を経験し、「リスクを分散することがすべての従業員の雇用を守ることにつながる」と考えたからです。

「リゾートバイトで視野が広がり、新しい価値観が生まれた」という山本さん。今後も老舗旅館に新風を吹き込み、チームを引っ張っていくことでしょう。

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