揺れる“部活動の顧問” やりたくない教師「強制やめて、負担」 やりたい教師「やりがい、子どもの成長みられる」 誰が担う…鍵握るのは「地域移行」と「顧問希望制」

穂高西中学校ソフトテニス部

特集は部活動の顧問です。公立の中学校・高校では多くの教師が顧問を務め、指導に当たっていますが現状に一部の教師が異議を唱えました。「望まない顧問を強いるべきではない」と組合を結成したのです。その一方で、顧問となって熱心に指導する教師もいます。部活動の顧問はどうあるべきなのでしょうか。

■やりがいある 子どもの成長みられる

穂高西中学校ソフトテニス部(2月29日 安曇野市)

冬場も体育館で練習に励む穂高西中学校ソフトテニス部。

指導(ボレーの練習):
「もっと前でしっかり構えて、体の前で、1歩2歩動かなきゃだめだよ」

穂高西中ソフトテニス部顧問・月岡優介教諭

指導するのは月岡優介教諭(33)。赴任以来、6年にわたって「顧問」をしています。

穂高西中ソフトテニス部顧問・月岡優介教諭:
「(子どもたちの)悔しい表情だとか、でもやり切ったぞという満足感とか、一番は子どもたちの成長が見られる姿がやりがいに感じています」

ソフトテニスの指導をする月岡教諭

生徒たちはー。

生徒:
「(月岡教諭は)いい先生です、指導がうまい先生です」
「すごく厳しいけど、具体的に技術面を教えてくれてとてもありがたいし、優しい先生です」

資料:部活

県教委によりますと現在、中学校で8割、高校で7割近く(※2023年5月現在)の教師が「顧問」となって、部活動を支えています。

■顧問強制やめて…負担でしかない

長野県の部活動を考える組合の会見(2月15日、長野県庁)

この現状に一石を投じた教師たちがいます。

長野県の部活動を考える組合・青木哲也代表:
「望まない教員が部活動顧問を強いられない環境を整える、ワンイシューの職員集団」

長野県の部活動を考える組合(中学校・高校の教師13人)の会見(2月15日、長野県庁)

2月、教師の有志が「長野県の部活動を考える組合」を結成しました。

部活動の顧問は、土日も大会などに出なければならず、「長時間労働の原因」となっており、望まない顧問を強いることがないよう県教委などに改善を求めていくとしています。

青木哲也代表(中央)

青木哲也代表:
「(大会で)日曜日、炎天下で審判やっている。授業を自習にして平日出張して駐車場係やっている。おれ何やっているんだろうという思いをしている教員多いと思う」

斉藤淳一教諭

中信地区の高校に勤務する斉藤淳一教諭(41)。

組合に参加した一人です。

斉藤淳一教諭:
「(顧問は)負担以外何ものでもない。申し訳ないですけど、授業準備しないで授業したこともありますので、支障は出てくるんですよね、どうしたって」

運動部顧問時代 (提供:斉藤教諭)

顧問は大抵、教師本人の希望を聞いた上で割り振られますが、不本意であっても務めるのが当たり前という雰囲気があったと言います。

結果、斉藤教諭はこれまでさまざな顧問を経験してきました。

斉藤淳一教諭:
「野球部の部長であったり、男子バスケ部、男子バレー部、陸上部、バドミントン部。『なんで自分がこれをやっているんだろうな』というのはすごくあって、望まない教員が指導することは、教員側も生徒側も、ある意味不幸になってしまう」

運動部顧問時代 (提供:斉藤教諭)

妻もー。

斉藤教諭の妻:
「土日も部活に行っちゃったりして、子どもずっと見ていなきゃいけなかったり、帰りも何時になるか読めないことも多くて、結構つらかった。夫は悪くないんですけど、いらいらしちゃいますよね」

■教員の犠牲の上に成り立っている

資料

公立学校の教師は勤務時間が単純でないため、いわゆる「残業代」の代わりに「調整額」が支給されています。

資料

しかし、部活動が長引けば「ただ働き」の時間が増えます。休日は、長野県の場合3時間を超えると2700円の手当がつきますがー。

斉藤淳一教諭:
「いくら積まれても土日は休みたいですかね」

教師になって16年。「これ以上、不本意な顧問はしたくない」と、4年前、学校側に「土日は出ない」とはっきり伝え、今は文科系の部活の顧問をしています。

斉藤淳一教諭:
「今は決して持続可能ではなく、教員の犠牲の上に成り立っている制度だと思うので、そこは是正していきたい」

■自身の経験を子どもたちに伝えたい

月岡優介教諭

一方、冒頭で紹介した穂高西中の月岡教諭はー。

穂高西中 ソフトテニス部顧問・月岡優介教諭:
「部活動顧問の一番の魅力、(子どもたちの)3年間の成長だと思います」

ソフトテニスでインターハイ出場(提供:月岡教諭)

ソフトテニスでインターハイにも出場したことがある月岡教諭。

勉強を教えるだけでなく自身が部活や競技で得た経験も子どもたちに伝えたいと教師になりました。

月岡優介教諭:
「自分が経験してきたことを子どもたちのために還元させたい。(顧問を)やりたい人もいて、指導したいと強い思いを抱きながらやっている方々もいる」

ソフトテニスの指導をする月岡教諭

大会などで土日がつぶれプライベートな時間は削られてしまいますがー。

月岡優介教諭:
「自分が指導できる競技を主体的にやれているので苦には感じない」

■部活動の曖昧な位置づけが問題の背景

名古屋大学・内田良教授

顧問を「やりたい教師」と「やりたくない教師」。

学校教育に詳しい名古屋大学の内田良教授は、部活動の曖昧な位置づけが問題の背景にあると指摘します。

名古屋大学・内田良教授:
「部活動というのはさまざまな教育的効果がある。だからこそ大事だと考えているうちに、もはや学校でやって当たり前のものになってしまった。ところがほぼただ働きで担わされてきた。そこに対価が支払われないことで非常に先生方の大きな負担だった」

資料:部活

部活動は国の学校指導要領に「学校教育の一環」と明記され、「学習意欲の向上や責任感、連帯感を養うことに役立つ」とされています。

一方で、各校が定める教育計画では「教育課程外」つまり、「範囲外」と記されていて通常の授業と区別され厳密に言えば、教師本来の業務ではありません。

資料

さらに、採用や人事はあくまで「教科」が中心。部活動の顧問を割り振るとどうしてもミスマッチや過大な負担が生じてしまいます。

こうした現状に照らせば顧問を「やりたい教師」、「やりたくない教師」、どちらも否定されるものではないと言えます。

県教委・内堀繁利 教育長

県教委はー。

内堀繁利教育長:
「部活動指導員や外部指導者を任用できるシステムを構築したりして、やってきている。これからも図らないといけない。対応策については研究していきたい」

■鍵握るのは「地域移行」と「顧問希望制」

部活の地域移行

部活動の主役は子どもたち。

顧問がいなくなっては部活動をしたい子どもたちが置き去りにされてしまいます。

そこで注目されるのが、少子化への対応と教師の負担軽減を目的に導入された部活動の「地域移行」です。

まず中学校で部活動の主体を学校から地域の団体などに移そうとスタートしました。

しかし、指導者の確保などが課題となっていて進み具合は地域によって差があります。

部活の地域移行

名古屋大学・内田良教授:
「地域移行は本当に必要性だけははっきりしている。ところが人もお金もないという中でなかなか進まない状況。これはどの自治体でも今非常に地域移行が難しいという課題に直面しています」

穂高西中ソフトテニス部

持続可能な部活動には何が必要かー。

内田教授は「地域移行」だけでなく教師の負担が大きかった「顧問」に注目し、する・しないを選べる「希望制」を実現すべきだとしています。

内田良教授:
「今までは教員のただ働きで何とかやってきた。誰かの犠牲によって活動が維持されるのは、全く持続可能性がない。部活動はそもそも自主的な活動であり、やりたい人がやるべき活動。やりたい人がやれる仕組み、誰にとっても希望性にしていくべき」

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