「経営セーフティ共済」が改悪?10月以降の変更点と対応策について税理士が解説

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個人事業主の方は、確定申告お疲れ様でした。法人の方はこれから決算を行うという人も多いのではないでしょうか?

確定申告や決算時に、思ったより利益がある際に利用することで節税効果がある「経営セーフティ共済」。実は税制改正により、今年の10月から一定の要件に該当すると損金(経費)に計上できなくなってしまいます。ここで改めて、経営セーフティ共済のしくみやメリットをご紹介します。

●経営セーフティ共済のしくみやメリットをおさらい

経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済制度)とは、取引先が倒産し債権を回収できなくなったときなどに共済金を借り入れられる制度です。無担保・無保証で、「回収困難となった売掛金債権等の額」または「掛金総額の10倍(最高8,000万円)」の、いずれか少ない方の金額まで借り入れが可能です。

経営セーフティ共済の大きなメリットは、掛金を全額損金(または経費)に算入することができることです。掛金は月額5,000円〜20万円で設定でき、年240万円まで損金に計上できます。また、次年度の掛金を一括(1年分前納)で納めることもできるため、1年に最大480万円まで損金にすることが可能となっています(積立総額の上限は800万円)。

そのため、いつもより利益がたくさん出る年度に多くの掛金を支払うことで、節税につながるのです。

●制度本来の目的とは異なった目的で利用する人があとを絶たない

また、掛金を40か月(3年4か月)以上納めていれば、解約時に掛金全額が戻りますが、解約金(解約手当金)は全額収益として計上しなければなりません。そこで退職金の支給や修繕費の出費が発生するなどの年度に解約することで、本来解約手当金にかかる分の課税をおさえることができます。

一度解約しても再度加入することができるため、制度本来の目的ではなく、掛金を損金参入できるしくみを利用した節税策として利用されるケースが多分にありました。

そのような目的での利用を防ぐべく、2024年度の税制改正により、制限がかけられることとなったのです。

具体的な変更点として、2024年10月1日以降に共済を解約すると、その後2年間は再度加入しても、掛金の経費計上(損金算入)ができなくなります。

そこですでに加入している人はどうすればいいか、これから加入する際の注意点について、佐原三枝子税理士に聞きました。

●10月から制度改変。すでに掛金を納めている場合はどうなる?

ーー経営セーフティ共済に掛金を納めている人は、今後どのように対応すればいいのでしょうか。掛金を納めて40か月が過ぎるのが2024年9月30日までの人、10月1日以降になる人でそれぞれお教えください。

「掛金の使い道とタイミングが近い将来決まっている方は、慌てずにそのままかけ続けていただいてよいと思います。

そうでない方については、40か月をすでに経過しているのであれば、2024年9月30日までに一度解約しておき、再度加入するのがいいかもしれません。

40か月を過ぎるのが10月1日以降になる場合は、9月30日までに解約すると解約金は掛金総額を下回ります。しかし、返戻率は加入期間により変わりますから、これまでに節税できた金額と解約により戻ってくる金額との兼ね合いを考え、「掛金総額」よりも「節税分+解約金」のほうが多いのであれば、9月30日までに一度解約しておくというのもひとつの考え方です。

ですが、いずれの場合も解約金は「収入」ですから、そのまま課税されるのでは、掛金を支払ったときの節税額を解約したときに支払うだけのことになります。

9月30日までに解約した場合は、同じ事業年度内に再度共済に加入して掛金を損金計上することや、修繕計画の実行、少額資産の購入や特別償却の検討などにより課税インパクトを弱め、せっかくの解約金を有効活用することを考えていただきたいと思います」

●これから加入するときの注意点は?

ーーこれから加入する際には、どんなことに注意すればいいでしょうか?

「初めての加入はいつしてもいいと思いますし、同一事業年度内に月払いから年払いに変更することで最大480万円の掛金を支払えることには変わりありません。

今回の改正では、10月1日以降に解約をした場合の再加入をどうするかが問題です。解約後2年間は加入をしてもその掛金が損金になりません。ですから2年間は加入を控えるということも考えられます。

ただし、解約時に40か月を過ぎていないと解約金が掛金総額を下回ります。解約後2年間は月額5000円の最低掛金で加入しておき、掛金を損金に計上できるようになってから掛金を増額することで、40か月に達する期間を早めに確保するというのもよいかもしれません」

●業績の良いときに貯めたお金を大切な局面で使うことは悪いことなのか

ーー経営セーフティ共済の今回の税制改正について、どのようにお考えでしょうか?

「確かに経営セーフティ共済は本来の目的と異なる利用がなされていたことも事実ですが、保険会社が作った商品でもなく、そもそも国が作った制度です。改正されるとは思っていなかったですね。

経営セーフティ共済は得意先の倒産に備えるばかりでなく、契約者貸付や赤字の事業年度の欠損填補に使われたりと中小企業を助けてきた側面がたくさんあります。

所詮1社800万円までしか積み立てることができない制度です。業績の良いときに貯めたお金を大切な局面で使うことがそんなに悪いことなのだろうかと思われてなりません」

※ 参考資料
中小企業庁|中小企業倒産防止共済制度の不適切な利用への対応について(https://www.chusho.meti.go.jp/koukai/shingikai/kyousai/022/002.pdf)

【取材協力税理士】
佐原三枝子(さはらみえこ)税理士
Beautiful Business Beautiful Life 中小企業の利益構造と経営者の思考を美しくし、関わる人すべての人生を豊かにすることを理念に掲げ、税務、人事、DXを柱として税理士を超えた経営コンサルティングを提供している
事務所名 : 佐原税理士事務所
事務所URL:https://www.office-sahara1.jp/

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